第28話 巨大工房完成間近
渡り鳥の止まり木亭は見たことがない料理で国王すら気に入る料理を提供すると噂になり連日大盛況の日々だ。ファルコも腕を上げ、さらに弟子入り希望の料理人見習いが訪れる。ファルコは惜しげもなく指導し、俺がいなくても店は回るようになった。
そんな状況で手が空いた俺はジョブレベルを上げるために朝は錬金術工房の建築を手伝い、午後はルールーの鍛冶工房バッカスで鍛冶の腕を磨いた。
「ねぇ、おかしいと思うのよ私」
「なにが?」
俺は自分用にと調理器具を作っている。中でも包丁はこだわった。玉鋼はなかったが鉄を錬金術で精製し鋼に変え持てる力を全て注ぎ込み完成させた逸品だ。切れ味は鋭く綺麗な刃紋が浮かび上がっている。
「それよその包丁! 私の作る短縮より切れ味がいいってどういうこと!? その鋼はどこから!?」
「あぁ、なるほど。俺錬金術使えるので鉄のインゴットを鋼に精錬できるんですよ」
「は? 錬金術?? あ! もしかしてて今話題の錬金術師組合に関わってるの?」
「ですね。名誉顧問らしいです」
ルールーは目を丸くしポカンと口を開けている。
「ま、まぁいいわ。そ、それよりお願いがあるんだけど」
「お願いですか?」
ルールーは眼前まで迫り頬を赤くしながら言った。
「わ、私にも鋼使わせなさいよ! インゴットは店のやつなんだしさ!」
「鋼? そのくらいならいいですよ。工房も貸してもらってますし」
「よ~し! じゃあ店にある鉄全部お願いね!」
「全部!? 鉄製品作る時どうするのさ」
ルールーは肩を落としながら言った。
「いらない心配よ。そもそも注文が入ってこないからね! お客がこならその時間はひたすら腕を磨くために時間を使うわ」
「……そうだなぁ、たくさん精錬しておくよ」
とっくに錬金術レベルをマスターしていた俺は最近腕を上げてきたルールーに恩返しついでに不純物が混じった鉄のインゴットを鋼の板に変えてやるのだった。
この翌日からルールーの邪魔にならないよう錬金術工房の建築に力を注いだ。
「親方~、あとは作業場の内装だけっす」
「おう、内装は特に気をつけろよ。錬金術の要らしいからな」
「「「うっす!」」」
大工レベルもマスターしたため、あとはプロに任せよう。これまでの手伝いで俺の目的はほぼ達成された。
「この一ヶ月と少し……休みなく修行にあけくれたおかげかだいぶ成長できたな。容量無制限のマジックバッグも手に入ったことだし……そろそろ戦闘系の職もレベル上げておこうかな」
戦う職はロゼット村にいた時に騎士を少しだけ上げたくらいでほぼ手つかずだ。これからは魔物を倒しても素材はバッグで簡単に持ち運びできるし冒険者業に力を入れてみるか。
「よし、明日から冒険者ギルドに顔を出そうかな。帰ったらアクアにいい依頼はないか聞いてみよ」
夜、帰宅したアクアに明日から冒険者業を再開すると伝えるとさっそく依頼が入った。
「ポーションお願いします!」
「えぇぇ……。また?」
「ポーションが全然足りないんですよぉ~!」
「まだ戦争続いてるの? もう年明け前だよ?」
「ほんとですよも~! 最近は低品質のポーションまで押収されるようになって冒険者のみなさんも迂闊に怪我できないからって討伐依頼も滞ってきてるんですよ!」
アクアは勢いよくステーキ肉にフォークを突き刺していた。
確か戦争をしているのは北にある二つの国イシュタル帝国と海洋国家グロウベルだっけ。どちらの国も詳しくは知らないのでアクアに尋ねてみた。
「イシュタル帝国と海洋国家グロウベルについてですか?」
「そう。どっちも詳しくは知らないんだよね。いつまでも戦争されてても困るしさ」
アクアはポケットから地図を取り出し二つの国について語り始めた。
「まずイシュタル帝国だけど、国土はエイズーム王国に並ぶ広さで、国力はわずかに劣る国ですね。昔からこの二つの国はライバル関係にあり小競合いがあるの」
「ふむふむ」
「まぁ、仕掛けているのはエイズーム王国なんだけどね。戦はお金になりますから」
相変わらず最低な国だな。
「そしてグロウベルだけど、こっちはイシュタル帝国の約半分くらいの国土しかないわ」
「へぇ。それで帝国と戦えてるんだ」
「国に海が接している点が強さの理由ですねぇ。貿易で海外から邪魔されずに物資を運び入れられますから」
確かに強さの理由にはなる。地図を見たところエイズーム王国も東端は海に面している。
「エイズーム王国も海に面してるみたいだけど」
「ああ、こちらは漁村しかないのよ。船もないし、軍港事態がないのよ。その点グロウベルはきっちり整備された港も造船技術も持ってるってわけ」
「なるほどね。海洋国家と名乗るだけはあるか。なら今ポーションを押収してる国ってイシュタル帝国?」
「ですねぇ。自国での生産だけじゃ追いつかないようで。どちらの国にもポーションを拾える迷宮があるけど、外からも手に入るグロウベルが粘って戦争が長引いているようね」
イシュタル帝国もグロウベルのように外から集めようとしているわけか。だからと言ってエイズーム王国には頼れない。さらに北にある国々との関係はわからないがエリンから押収しようとしている辺り仲は良くないのだろう。
「グロウベルの資金が尽きるのが先か、イシュタル帝国のポーション枯渇が先か……。長引きそうだなぁ」
「ポーションが手に入らなくなったらいよいよ徴兵が始まるかも知れませんね」
「徴兵? バカな、エリンは属国でもなんでもないだろう? 徴兵なんて認められるはずがない」
「いつものように国を潰すと脅されたら従うしかないんですよ」
さすがにそこまでされる謂れはない。エイズーム王国といいイシュタル帝国といい、ずいぶんエリンを舐めているようだ。
「どうにかならないものかね」
「せめてエリンに迷宮でもあれば……。調査は続けてるけどなにせほとんど森だし、深い場所には強い魔物は出るしでなかなか調査が進んでないんですよ」
資源に乏しいエリンが生き残る道は迷宮を発見するか、海洋国家グロウベルが早期に勝つしかないか。
俺は何か手がないかと頭を悩ませるのだった。