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第25話 交渉

 王妃達が応接間を出てから一時間。王は応接間に戻ってきた王妃を見て驚いていた。


「ど、どうしたんだその変わりようは!? 髪が輝いているっ!」

「ふふふっ、わかる? 十歳は若返った気分よっ」


 戻ったアクアは石になっていたが王妃はサラサラになった髪に手ぐしを通し終始ご機嫌だった。これはまず間違いなくいけると確信した俺はすぐさま王妃に願い出た。


「王妃様、私共はこちらを大々的に販売したく思います」

「え? もちろん大賛成ですわ! 買い占めも辞さない覚悟です!」

「ありがとうございます。しかしですね、最初に王妃様が眉をひそめたように、こちらは錬金術師の手により製作された品で、錬金術師にしか作れないのですよ」

「そ、そうなのですか!?」

「はい。そこでお願いがありまして」

「なにかしら?」


 俺は頭を下げて王と王妃に願い出た。


「まずは国内だけでもかまいませんので錬金術師の地位向上を。現在錬金術師は侮蔑の対象となっており表立って活動できていないのが現状です。このような素晴らしい品を生み出せる錬金術師は侮蔑されたままでよろしいのでしょうか?」

「あ、ありえないわ! 錬金術師がいなければ手に入らなくなってしまいますもの!」

「はい。そこでまずはこちらの品を王家推奨品とお触れを出していただきたい。その見返りとして今後予定している新商品、こちらの洗髪料は定期的に献上させていただきます」


 乗り気な王妃だが王は冷静だ。


「それは私達王家をプロパガンダにしたいという事かね? その錬金術師はずいぶん度胸かあるようだ」


 脅しのつもりだろうが俺は退かない。


「まさか。民のためになる品を生み出せる力はあっても錬金術師というだけで忌避される。全ての民の幸せを第一に考えて下さる王からすれば、これは錬金術師の差別をなくす良き機会では? それに……これらは金になりますよ」

「……ん?」


 王は前のめりになり俺の言葉に耳を傾ける。


「これはまだ先の話になりますが、まずレシピを門外不出にし、エリンにて大量生産し他国に出荷します。世界の半分は女性ですよ? この価値がわからない女性はありません。これまで小国と侮られてきたこねか国に付加価値を持たせます」

「な、なにを言っているんだリヒト殿っ!?」


 俺の畳み掛けは止まらない。


「この品を先駆けに、エリンは永世中立国と宣言します。女性は美を求める生き物、その美はこの国でしか手に入らないとなれば今後エリンが戦に巻き込まれることはなくなります」

「ち、ちょっと待て! 理解がおいつかん!」


 混乱している今のうちにと最終シークエンスに入る。


「なに、簡単ですよ。これまで売りがなかったエリンは錬金術師の力で世界の半分を手に入れるための売りを手にできます。さらに外交でも力を発揮するでしょう」


 すると王妃は俺に尋ねてきた。


「あなたはギルド職員見習いなのでしょう? なぜ錬金術師のためにそこまで?」

「それはもちろんこの品を作った錬金術師が私の先生だからです。これまでずっと一人で頑張り研究を続けてきました。私も錬金術師の端くれ、恩ある先生には報われていただきたいのです」

「……そう。わかりました」

「お、お前どうしたんだ?」


 王はうろたえながら王妃を見る。


「今リヒトさんがいった話はまだ遠い未来の話。ひとまず洗髪料に関しては王家の印を使うことを許可します」

「ははっ!」

「お、お前なにを勝手に!?」

「だまらっしゃい! リヒトさん? 新たな品ができた際にはまず王家に。よろしいですね?」

「はっ! して錬金術師の立場は」

「明日城下にお触れを出します。我がエリンにて錬金術師は上級職同様に扱うと」

「ありがとうございます!」


 こうして俺の目論見は無事達成となった。これでリーフの立場も変わるはずだ。有能な者が差別で潰れていく様は見たくない。これは地球にいた俺が同様の経験をしているからだ。柄にもなく熱くなったがリーフに恩を感じただけじゃない。俺の過去も諦めず不貞腐れずに他者と交わる努力をしていたら変わったんじゃないかと思ったからだ。


 家に着いても固まったままのアクアをファルコに預け、俺はリーフの工房に向かい今日あった出来事を伝えた。


「え? は? い、今なんと……?」

「洗髪料は王妃様に献上してきた。王妃様はいたく気に入られ、明日城下にお触れを出して下さる。エリンにおいて錬金術師は上級職と相違ない扱いとするってな。報われたんだよ先生、これまでの努力が実るんだ」

「あ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁ……っ!」


 リーフの両眼から涙が溢れ出す。これまでどれほど苦労してきたのだろう。たとえ一人になったとしても頑張ってきた成果がようやく芽吹く瞬間だ。


「わ、わだじっ! また錬金術師でいられるっ!」

「うん、もちろん」

「ずっと寂しかった! なにを作っても見てもらえなくてっ! 石投げられたこともっ!」

「それは酷いな」

「でも頑張ったてす! いつか錬金術師ても認めてもらえるって! 毎日毎日錬金術の勉強してっ! 頑張ったです!」


 俺の胸に顔を埋めながら泣きじゃくるリーフの頭を撫でながら優しく語りかける。


「ああ、先生は頑張った。だから未来が開けたんだ。そして先生は同時に全ての錬金術師達の未来も開いたんだ。これは先生が諦めないで頑張った結果だよ。明日から錬金術師は侮蔑の対象なんかじやない、憧れの的になるんだ。その先頭に立つのはリーフ、先生だよ」

「リ、リヒトォォォォォッ! うわぁぁぁぁぁんっ!」


 今までの悔しさを晴らすようにリーフはひたすら涙を流した。俺はしがみつきながら泣くリーフの背中を撫でながら落ち着くまで泣かせてあげた。


「……ぐすっ。たくさん泣いたらお腹減ったです」

「じゃあ渡り鳥の止まり木亭に行こっか。明日の前祝いにご馳走しよう」

「今日の私は飲みまくるですよ」

「止めないよ。好きなだけ飲んで全部吐き出しちゃえよ。今後そんな機会はなくなるかもしれないしさ」

「え? い、今なんて?」


 俺は聞こえないフリをしながらリーフの手を引いた。


「さあ、友達のアクアも待ってる。行こう、リーフ!」

「ま、待って? 忙しくなるってなに!?」


 俺は混乱するリーフの手を引き渡り鳥の止まり木亭へと向かうのだった。

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