第24話 宣伝
リーフと面通しをした翌日から朝はファルコに料理指導、それが終わり次第工房で錬金術の勉強、夕方はリーフを連れてファルコの料理を試食してもらう日々を過ごした。
「わっ、なんですこれ! 昔と全然違っておいしいです!」
「それはパスタって麺料理だよ。小麦粉と卵、塩にオリーブオイルを混ぜてこねたらできるんだよ」
「ふむふむ……ちょっと材料見せてもらってもいいです?」
「え? まぁ、いいけど普通にある物だよ」
俺は厨房からパスタ麺に使う材料を持ってきてテーブルに置いた。
「では」
「ま、まさか!」
リーフが材料に手を翳すと光が溢れ、目を開けるとパスタ麺ができあがっていた。
「ふふん、どうです~? 錬金術の凄さわかっていただけましたです?」
俺はできあがった麺を菜箸で掴み持ち上げてみた。錬金術で作られた麺は紛うことなき生麺。時間のかかる工程が全て省略され完成品ができあがった。
「おぉ~! マジカよ!? あの突かれる作業がいらなくなるのかよ!?」
「いや、これは凄い……」
錬金術の応用の広さに目から鱗が落ちた。麺にも驚いたが俺が注目したのは錬金術を使う点だ。これで錬金術のレベルがガンガン上がる。それにもしかすると発酵調味料である味噌と醤油もできるかもしれない。日本人には欠かせない調味料だ。
「こうみえて私の錬金術レベルは15なのです。リヒトさんも私に師事すればこれくらいはできるようになりますよ~」
「あ、あぁ。ぜひ頼むよリーフ先生」
「むっふ~」
リーフの鼻が高くなったような気がした。
この翌日から俺は暇さえあれば錬金術を使いとにかくなんでも錬成しまくった。加えてリーフが研究中だった洗髪料も俺が作ったポーションを原料に開発完了した。
「で、できたです! 助手くん! 私の頭を洗うです!」
「あ、はい」
椅子に座らせ美容院さながらにリーフの頭を洗っていく。一回のシャンプーではまるで泡立たなく何回か洗うことになったが、トリートメントまで終了し乾燥させると髪は艶々、手ぐしでも全く引っかかりがなくサラサラ、ダメージはポーションの効果で癒されていた。
「ふぅぅぅぇっ! 完成したです!」
「うん、いいできだ。香料をいじれば匂いの種類も増やせるしね」
「ですです。爆売れ間違いなしです!」
テンション爆上がりなリーフに素朴な疑問をぶつけてみた。
「あの、販路はあるんですか?」
「へ? は、販路?」
「卸先ですよ。知り合いの商会とか」
テンション爆上がりだったリーフは瞬く間に萎れていった。
「ないです。そもそも錬金術師が作った物なんて誰も買ってくれない気がするです」
「アクアの伝手は?」
「冒険者なんて身なりなんか気にしないですよ。売れるわけないです」
先ほどまでとは一変してリーフは落ち込んでいた。
「先生、俺に考えがあるので完成品もらってもいいですか?」
「いいですけど……どうするです?」
「秘密です。ただ、しばらくしたらめちゃくちゃ注文入ると思うので時間があれば在庫確保しておいて下さい」
「わ、わかったです。し、信じるですよ助手くん!」
「お任せあれ」
王妃との邂逅から一ヶ月。俺はアクアと再び登城した。前回同様に応接間で王と王妃と会う。
「待っておったぞリヒト殿!」
「お待たせして申し訳ありまでした。その後王妃様はお変わりなく?」
「えぇ。毎年のことですし」
王は前のめりになり俺に尋ねてきた。ちなみにギルド職員のアクアはいるのだがなぜか俺にばかり話し掛けてくる。
「それで……薬は手に入ったのか?」
「はい。これにございます」
俺はテーブルの上に漢方を置いた。
「こ、これでよくなるのか?」
「ええ。ただ、この薬は強すぎます。必ずこちらに記された用量、用法を遵守して下さい。薬は多すぎれば毒になります。しっかり守っていただければ改善するでしょう。……と、こちらを処方下さった薬師が言っていたそうです」
「そ、そうか! これを守れば改善するのだな? 実は最近王妃は手足の冷たいせいか寝付けなくてな。いや、助かった! 謝礼は帰り際に渡す。世話になった」
「いえ、ご自愛下さい」
これで全て終わりのはずだが王妃は黙ったままアクアを見ていた。
「どうした? そんなにアクア殿を見つめて」
「あなたにはわからないのですか?」
「な、なにがだ?」
すると王妃は立ち上がりアクアの頭を指さした。
「あの髪ですわっ! 以前見た時とは輝きがまるで違います! 艶、張り、コシ……私とは比べ物になりませんわ!」
「う……む? い、言われてみればそんな気も……?」
「アクア様、少し触れても構いませか?」
「ど、どどどどうぞっ!」
王妃はアクアの近くに移動し髪に指を通した。
「まぁっ! まるで絹のような手触りっ! これはいったいどうやって!?」
「はわわわわっ」
前回も緊張マックスだったアクアだが今回は身動き一つできないほどガチガチだ。俺はこの時点で勝ちを確信した。
「ひとまず落ち着きましょうか。私から説明いたしますので」
「え、えぇ。取り乱してごめんなさいね? 素敵な髪だったからつい……ほほほっ」
王妃がソファーに戻ったところで説明を始める。俺は鞄から洗髪料を取り出しテーブルに並べた。
「彼女の髪の秘密はこの洗髪料にあります」
「まぁっ」
「これは私とアクアの知り合いの錬金術師が作った物なのです」
「錬金術師? それって……詐欺なのでは?」
「いえいえ。詐欺でこの髪の艶は出ないでしょう。こちらは献上品としてお渡しします。私は待ちますのでお試しになられてはどうでょうか。使い方はアクアが覚えています。お城の世話係にでも学ばせましょう」
王妃はガバッと洗髪料を抱え立ち上がった。
「アクア様、今すぐ浴場に参りましょう!」
「へ? え? あ、いや、わ、私はっ」
「さあさあ、参りましょう!」
「リ、リヒト助け──にゃあぁぁぁぁっ!?」
俺は引きずられていくアクアに親指を立てながら笑顔で見送るのだった。