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第23話 町外れの錬金術師

 俺は今アクアに聞いた錬金術師の工房前にいる。


「……こ、ここか? 一応看板はあるが……これはまた……」


 工房前にいるのだが入ることを躊躇するほどボロい。小高い丘の上にある工房の周囲には建物一つない。そして何より時々建物の中から爆発音が聞こえてくる。


「えぇぇ……なぜに爆発音?」


 すると建物の中から女性が一人飛び出してきた。


「げほぉぉぉっ! ごほっごほっ! 失敗したぁ~! 配合間違えたかな? う~ん……おかしいなぁ」

「あの……」

「え? ひっ!?」


 背後から声を掛けると女性は物凄い速さで木の陰に隠れ怯えた様子でこちらを窺っている。


「だ、誰ですか!? 私は金なんて作れませんよ! 怪しい研究もしてませんし!」

「いや、ちょっと」

「はっ! ま、まさか身体目当て!? 私そんな軽い女じゃ……あ、ちょっと格好いいかも……? ちょっと考えさせて」

「違うわぁぁぁ!? ここにはアクアってギルド職員の紹介できたの!」

「アクア? あぁ、アクアちゃん!」


 アクアの名前を出すと警戒を解き木の陰から出てきた。よく見ると髪はボサボサでローブはボロボロ。目の下には隈があり加えて異臭を放っている。


「えへへ……。ア、アクアちゃんは私の唯一の友人で……あ、私【リーフ】って言います。わ、私の工房に何か御用です?」

「あ~……いや、その」


 錬金術師のジョブが欲しかっただけとは言えず、アクアから聞いた話を口にした。


「えっと、なんか今研究してる物が完成すれば革命がどうとか」

「き、興味あるのです!?」

「うぉっ!?」


 いきなり目の前に迫ったかと思いきや手を握られた。異臭が鼻を攻撃してくる。とても美容業界に革命が起きるとは思えない。


「今やってる研究が完成すれば女性の髪の悩みが解決するんです! パサついた髪も薬液を使うだけでツルツルのもうファサ~なのです!」

「わ、わかったから離してもらえないかな!?」

「あ、す、すみません……えへへ」


 リーフは俺から手を離し言った。


「私が汚くて引いてます? これ研究のためにワザとしてるです」

「ワザと?」

「あ、はいです。薬液は自分の髪で実験してまして。ワザと汚してるんです。い、いつも汚いわけじゃないですよ!」

「あ、あぁそう」


 ひとまず信じることにした俺はリーフに尋ねた。


「じゃあ研究してるのって洗髪料?」

「わかるです? まさにそれです!」

「なるほどねぇ」


 町を歩いて気づいたが女性達の髪は若干傷んで見えた。王妃ですら少々傷んで見えたし油を使っているのかベタついていた。地球では日常的なシャンプー、リンス、トリートメント類がないのではと思ってはいた。まぁ、風呂なんて一般家庭にはないしあるのは町に公衆浴場が一軒あるだけだ。試しに入ってみたが獣臭い石けんがあるだけだった。


「公衆浴場行ったことあるです?」

「あるよ。ちょっと汚いからあまり行ってないけど」

「わかります。身体を洗わないまま入る人がいるから汚いんです。しかも石けん……臭いです」


 改めて見ると身体からは異臭はしない。臭うのは髪だけだ。


「もしかして臭わない石けんも?」

「あ、はいです。そちらは完成してるです」

「へぇ~。ちょっと気になるな」


 そう告げるとリーフの表情が輝いた。


「ですよね! あなたは町の分からず屋連中とは違うと思ったです!」

「分からず屋連中って」


 どうしてぼっちなのか片鱗が見えた気がする。リーフは研究のためなら自分の身を犠牲にする。加えて若干口が悪い。


「あの、もし気になるなら研究見ていきますか?」

「いいの? 極秘の研究じゃないの?」

「ご、極秘じゃないです。ただ……誰にも認めてもらえなく、錬金術師は私だけなので」

「なるほど」


 この世界では石けんやらシャンプーは錬金術師が作るのだろうか。地球じゃ科学を知っていれば作れるものなのだが。


 工房に入ると試験管やら三角フラスコ、シャーレやらガラス棒といった地球で見慣れた実験器具が置かれていた。工房内を見ているとリーフは慣れた手つきで石けんを作り始めた。


「まずはグリセリンソープと……薔薇から抽出した香料と」

「……ふむ」


 まさかグリセリンソープがあるとは思わなかった。原材料である植物性油脂は手に入る。アルコールもまぁ手に入る。どうやら苛性ソーダを使わない手法のようだ。


「よし、これで素材は大丈夫です。いきますよ~! はいっ!」

「は?」


 材料を一纏めにしリーフが手をかざす。光が溢れたあとテーブルには完成した石けんが現れた。


「は? はぁぁぁぁっ!? なにそれ!?」

「え? どうかしましたです?」


 どうもこうもない。石けん作りにおける過程が丸々吹っ飛び材料からいきなり完成品が現れた。これが驚かずにいられるはずがない。


「な、なんで? 型に入れてないし固まる時間は??」

「何か問題でも??」

「問題というか……これが錬金術なのか」

「はいです! 錬金術に必要な物は適した素材と完成品のイメージ、あとは錬金レベルと魔力なのです!」


 要するに作るための材料を科学実験を行うように寸分なく揃え、完成品を頭の中でイメージする。その上で錬金術のレベルが規定値あれば魔力を消費してできあがりまでの過程を丸々省略し完成品ができあがるということか。


「正直……凄いな。便利すぎだろ錬金術」

「なのです! お兄……あの、お名前は」

「ああ、リヒトだ」

「リヒトさんは錬金術好きになりました?」

「好きというか……やってみたいな」

「で、では! 私の助手なんかをぜひ!」

「助手?」


 リーフはキッチンを指差し肩を落としている。


「わ、私錬金術しかできなくて……。料理も掃除もなにもかもダメダメなのです。錬金術を見せる代わりに私の身の回りの世話をお願いしたいのです!」


 それは女の子としてどうなのとは思ったが、これは錬金術を学ぶための必要事項として甘んじて受け入れることにした。


「わかりました先生」

「せ、先生!? わ、私が……先生? うへ……うへへへ」


 気味が悪い笑みだ。長くぼっちをこじらせるとこうなるのか。俺も地球ではぼっちだったがここまでじゃない。


「で、では助手くん! 明日から毎朝私の工房にくるように! 私が錬金術のなんたるかを教えてやるですよ!」

「あ、はい。よろしくお願いします先生」

「むふふ~! 先生っ先生~」


 俺は小躍りする目の前の変人に憐れみの視線を向けるのだった。

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