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閑話① 勇者四人組

 これはリヒトがエイズーム王国から追放された直後の話である。


 リヒトが追放されたあと勇者四人組は謁見の間で召喚された理由を伝えられていた。


 肥え太ったエイズーム王は玉座にどっしりと座りながら勇者四人組を見下ろしながら言った。


「さて、ゴミが去ったので今回あなた方勇者を召喚した理由を告げよう」


 四人は膝をつき頭を下げながら王の言葉に耳を傾ける。


「四人の勇者達を召喚した理由は他でもない。現在我が国は発展の途上にあり様々な物資が不足しておる。そこで勇者殿達には我が国にある迷宮に挑んでいただき物資を確保してもらいたいのだ」


 光の勇者が顔を上げ質問した。


「陛下、我々は勇者です。魔族や魔物と戦うことこそ我らが宿命。この世界にはそういった存在はおらぬのでしょうか?」

「うむ。おるにはおる。だが魔王率いる魔族ははるか北方にある別大陸に何世代か前の勇者が張った次元結界で隔絶されておるのだ。あちらから出てくることもなければこちらから入ることもできぬ。魔物は自然発生するくらいでそんなものは野蛮な冒険者共に任せておけば良い」

「はっ」


 光の勇者は頭を下げた。続いて知恵の勇者が王に問い掛けた。


「では我々四人はその迷宮に挑み物資を確保するだけで良いのでしょうか?」

「うむ。迷宮は危険な場所だ。勇者にしか任せられん」

「私のいた世界では冒険者が主に迷宮に挑んでいましたが」

「はっはっは。貴殿のいた世界の冒険者は強いのだな。この世界の冒険者はそこまで強くはないのだ。ジョブも下級職しかもたず雑用しかこなせんよ。上級職は貴族か金持ちしか持っておらん。貴族は国を守るため、金持ちは経済を回すために働く。迷宮に挑んでいる暇などないのだよ」


 知恵の勇者が頭を下げると博愛の勇者が王に問い掛けた。


「陛下、私は癒す力はあっても戦う力などありません。不死者相手のみ絶大な効果を出せますが一般の魔物相手などは無理にございます」

「ふむ……しかし補助魔法は使えるであろう? なに、戦える勇者が三人もおるのだ、危険などないわい」


 博愛の勇者は頭を下げ表情を歪めた。最後に青の勇者が王に問い掛けた。


「最後に聞くが、俺達は元の世界に帰れるのか? それと、迷宮に挑むんなら報酬は期待できるんだろうな?」

「うむ。帰す事は可能だ。だが一人帰すのに伝説級の巨大魔石が一つ必要となる。迷宮の最下層に存在する主を討伐すれば手に入るだろう。ただし百階層以上の迷宮でしか手に入らぬがな。それと報酬は望む物を与えよう。ただし我に渡せる物に限るがな」

「じゃあ俺は……」


 青の勇者は下衆な笑みを浮かべた。


「美女と酒、あとは金だ。先払いしてくれんなら話を聞いてやっても良いぜ」

「ふむ。ではお主には我が城で働くメイドを好きに呼べる権利を与えよう。酒も好きなだけ飲むが良い。金はすまんがない。だが金は迷宮で手に入る。いくらか懐に入れてかまわぬぞ」


 青の勇者がガッツポーズを決めると知恵の勇者が望みを告げた。


「私はこの世界に存在する知識を得たい。魔導書や歴史書といった書物が欲しい」

「ふむ。ならば我が城にある大書庫を開放しよう。時間がある時にでも行くと良い。ただし持ち出しは厳禁だ」

「わかりました。ではそれで」


 知恵の勇者が納得すると博愛の勇者が望みを告げた。


「私は私を専属で護衛から世話をしてくれる美男子が欲しいわ」

「び、美男子とな。だが美醜は個人差があり我が用意するにはちと難しいな」

「では私にも城の騎士を好きに呼べる権利を下さいませ」

「う、うむ。国政に問題が出ない範囲内でのみ許可しよう」

「えぇ、それでかまいませんわ」


 博愛の勇者は袖口で口元を拭う。最後に光の勇者だが一向に望みを口にしない。


「光の勇者共は何か望みはないのか?」

「……私の望みは魔族と戦うことのみ。それが叶わぬのであれば何もいりません。私は戦いの最中召喚されて参りました。元の世界が心配なので魔石が手に入り次第私を帰還させて欲しい」

「そ、そうか。う、うむ。ではそなたを一番に送還させると約束しよう。その代わり国のために物資を集めてきてくれ」

「はっ」


 四人の望みを聞いた王は勇者達を用意した個室へと向かわせた。四人がいなくなった謁見の間で王は高笑いした。


「くっ……くくくくっ。くははははっ! 今回の勇者はバカで助かるわい」

「ですな」


 宰相は王の言葉に同意した。


「送還なんぞできるわけがない。召喚はこちらからの一方通行だ。迷宮の地下百回なんぞ歴代の勇者でも到達できんかったあるかもわからない階層なのになぁ」

「ああ言えば必死に迷宮へと挑むでしょう。実に扱いやすい者達でしたな」

「迷宮は富の宝庫だ。冒険者ギルドなんぞに報告してたまるか。全ての富は我が手に! 勇者には我のために働いてもらわねばな。ぐはははははっ!」


 宰相が王に問い掛ける。


「メイドと騎士はいかがなさいますか?」

「ふむ。メイドは奴隷でもかき集め綺麗にしてあやつの部屋に回せば良い。騎士はもったいないな。こちらも顔が良い奴隷を用意してやれ。ああ、貴族連中の中にも女好きで顔だけは良い王国に忠誠を誓わないバカがいたな。それらにも話を通して接見する機会を用意してやれ」

「かしこまりました。ではそのように」


 勇者が召喚された理由は王の強欲からだった。王は勇者をただ富を得るための手段としか思っていない。そして勇者もまた己の欲を抑えきれない者しかいなかった。


 用意された個室で青の勇者は笑った。


「くくくくっ。この世界は最高だな。勇者ってだけで好き放題できるのかよ。元いた世界じゃ勇者なんてありふれてたし俺なんか下級勇者だぞ。誰が元の世界になんて帰りたがるかってんだ。そこそこ働いたふりしながら欲望に生きてやるぜぇ~」


 個室に入った博愛の勇者は身悶えしながらベッドにダイブした。


「あぁ、なんて素敵な世界なのかしら! 元いた世界じゃ聖女たれなんて毎日言われて質素倹約な日々ばかり! 男なんて無理だったし。ふふっ、私はこの世界に残るわっ! 毎日贅沢しながら美男子ハーレム作って楽しむわよ~」


 知恵の勇者は窓際にあったテーブルセットに腰掛け外を眺めた。


「私が知恵の勇者ですか。この世界の人間は愚かですねぇ」


 伸びる影に翼が表れている。


「光の勇者は要注意ですねぇ。私が最も嫌う光属性の者。奴さえ帰還させればあとは私の思い通りになるはず。いや、いっそ迷宮で事故にみせかけ殺しますか。そのあとは北の大陸でしたか。大悪魔の私が魔王を率いてみるのも面白いかもしれませんねぇ。くくくくっ」


 光の勇者は首から下げていたペンダントを開き中に入っている姿絵を見つめた。


「魔族にも魔王にも手が出せない世界か。私は奴らに家族を奪われ全てを失った復讐者だ。それは異なる世界にきても変わらない。どうにかして次元結界とやらを破る必要があるな。次元結界を破る手段が見つかるのが先か、魔石を手に入れるのが先か。どちらにせよ私の敵は魔に連なる者のみだ。知恵の勇者……あの者に相談してみるか」


 青の勇者は下衆な下級勇者。博愛の勇者は欲望に忠実な元聖女。知恵の勇者は人間の皮を被った大悪魔。光の勇者は魔族を恨む復讐者。


 果たしてこの四人組はどうなるのか。今後再びリヒトと交わることはあるのだろうか。そしてこの四人組を召喚したエイズーム王国はどうなっていくのか。


 この世界の物語はここから始まる。

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