第21話 特別依頼
仕事を終え帰宅したアクアにさっそくファルコが今日学んだハンバーグを出した。アクアは物凄い勢いでハンバーグを完食しおかわりをねだっている。
「これ本当にお父さんが作ったの!? 異次元レベルで味が違うんだけど!?」
「ふっ……俺だってやればできるんだよ…次はコイツだ!」
「ふぉぉ~……!」
最初はただのハンバーグ、次は煮込みハンバーグを出すとアクアの口からヨダレが垂れた。
「す、凄いじゃないお父さん! どうしちゃったの!?」
「リヒトのおかげさ。俺は今まで残飯を製造してただけだって気付かされちまったぜ……。あぁ……料理が楽しくて仕方ねぇぜ! リヒト、もっと俺に料理を教えてくれいっ!」
今日何回このツルツルの頭を下げられたかわからない。
「いや、まぁ……うん。世話になってるし教えるのは全然かまわないんだけどね。俺のジョブレベルも上がるし」
と、ついうっかりアクアの前で料理人のジョブを持っていることを話してしまった。
「え? あの、待って。リヒト様って狩人ですよね? 薬師も持ってて料理人も? え? いったい下級職いくつ持ってるんですか? 剣を下げてるって事は兵士か騎士のジョブもありそう……」
「はぁ。わかった、アクアには話すよ。ただ、秘密にして欲しいんだ。もしバレたら俺はここを出ていく。それくらい重要な秘密なんだよ」
出ていくと告げるといきなりファルコが後ろから抱きついてきた。
「いかせん! いかせんぞぉぉっ! 俺は一流の料理人になりたいんだっ!」
「ぎゅあぁぁぁぁっ!? 痛い強いっ!?」
さすがは元冒険者だ。見た目からもパワーはあると思っていたが想像以上だった。
「お、お父さん! リヒト様が死んじゃうから!?」
「お、おぉ。すまん。アクア、お前絶対にコイツの秘密バラすなよ!」
「わ、わかってるわよ。店のためだし……ギルド職員としてはグレーなんだけど」
「じゃあ話すよ」
俺は二人にまずスキルのことを話し、現在持っているジョブの数を告げた。
「う、嘘ぉ~……。いつでも自分のジョブを変えられて他人より成長が早いだなんて信じられないっ」
「見ただけでジョブが手に入るだぁ? とんでもねぇなお前」
「ファルコさんからも戦士のジョブもらったよ」
「おいおい、俺まだ昔戦士だって言って……なるほどな。本当に見るだけでジョブが手に入るのか」
ファルコは驚きアクアは目を丸くしていた。
「も、もしかして薬師マスターしてたり?」
「あぁ。薬師は一番最初にマスターしたジョブだね。村で薬作って配ってたから。あとは狩人もマスターしてるよ」
「す、凄い……。いえ、凄いなんて言葉じゃ足りないですよ!? つまりリヒト様はこの世にある全てのジョブを覚えられるってことじゃないですか!? しかも成長が早いからいくつもマスターできるって……! い、言いたい……! ギルドマスターに言ってあげたいっ!」
「そしたらサヨナラだね」
「くぅぅぅっ!」
「絶対言うなよお前!?」
こんな秘密を知ったらギルド職員なら言いたくなるに決まっている。だが言ったらこの店はここでおしまいだ。
「わ、わかってるわよぉっ。ならリヒト様はあの特別依頼は……」
「症状をみたら解決できると思うよ」
「じゃあすぐに向かいましょう! 早く王妃様の病を治して差し上げないとっ」
「そうだね。ただ、前にも話した通り俺は職員見習いとして行く。俺は表に出ない、目立たないようにして欲しい」
アクアは胸を叩きながら言った。
「わかってますよ~。リヒト様の能力がバレたら連れて行かれちゃうかもしれませんし。細心の注意を払います!」
秘密を話したおかげかアクアが頼もしく思えた。
そしてこの翌日、俺はアクアと共に当城した。俺達は城内の騎士に応接間へと案内され、しばらく待つと依頼主である陛下が王妃と共に姿を見せた。
陛下は王でありながら気さくで人間味溢れていた。並ぶ王妃は痩せ型で顔は化粧で誤魔化しているが肌は白く血色が悪く見えた。
「アクア殿、私は王妃の悩みを解決してやりたいのだ。私にとって王妃は唯一無二の存在でな。私達の間に子はいないから余計になぁ」
「あなた……。アクア様、どうかよろしくお願いします」
二人に頭を下げられたアクアは緊張し噛みながら返事をしつつ俺を見た。俺はアクアに助け舟を出すため王妃にいくつか質問してみた。
「ではまず症状を詳しくお聞きしたいのですが」
「あなたは?」
「お──私は職員見習いのリヒトと申します。アクア先輩が貴重な機会だから学んでおけと助手に指名してくださって」
「まぁ。優秀な方なのね?」
「いえいえ。私なんかまだまだですよ。それで症状についてなのですが」
いくつか質問した結果、王妃の症状は血行不良による冷え性であることが判明した。
「あの、こんなに詳しく聞くものなのですか?」
「そうですね。王妃様に万が一があってはなりませんし、依頼を受ける方も詳細がわからなければ効き目がない薬を納品してしまうかもしれません。ギルド職員は依頼主と受注者の間に齟齬が生まれないよう注意しなければならないのです」
王妃は俺に視線を向けながら不安そうに問い掛けてきた。
「……リヒトさん。私の悩みは解決するのでしょうか。宮廷の医師や薬師でも解決できなかったもので」
俺は王と王妃に笑顔を向け質問に答えた。
「お任せ下さい。冒険者の中にはいくつもの国を渡り歩き知識を蓄えている者も多くおります。私達職員はその優秀な冒険者の中から解決してくれそうな者を必ず探し出し依頼を申し込みます。報酬は容量無制限のマジックバッグという事で間違いありませんか?」
すると王が腰に下げていたポーチをテーブルに置いた。
「間違いない。これはこの国を興した私の祖先が遺したレアアイテムだ。これで王妃の悩みが解決し末永く幸せに暮らせるのならいくらでも差し出そう。私達には過ぎた品だ。万が一戦でも仕掛けられようものなら奪われてしまうのでね。奪われるくらいならば王妃のために使おうと思ったのだよ」
「かしこまりました。では最重要依頼と受注者には守秘義務を課し迅速に対処させていただきます。本日はお時間をいただき感謝いたします」
頭を下げると両陛下が微笑んだ。
「本当に優秀なのだなぁ君は。安心して任せられそうだ」
「ふふっ、アクアさんが連れてきた理由がわかってしまいました。良き後進に恵まれたようで何よりです」
「は、はひっ」
最後に諸々の手続きを確認し俺達は城を出た。アクアの手には依頼書が握られている。
「おい、アクア。お前途中から黙って何してたんだよ」
「だ、だって! なんであんなにスラスラ応対できるの!? ギルド職員でもあんなにスラスラ敬語出ないって!」
「敬う心が足りないからじゃない?」
「そんなわけあるかぁぁぁぁぁっ!」
プンスカ怒るアクアを引き連れ渡り鳥の止まり木亭へと戻るのだった。