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第19話 渡り鳥の止まり木亭②

 厨房へと入った俺はまず肉を部位ごとに分け別々の料理に作り変えた。すじ肉は煮込み料理に、ホルモンは改めて火をしっかり通し自前の胡椒もどきで下味を付け焼く。ステーキ肉には厨房にあったトマトを刻み削ったチーズを乗せ少し炙り卓に戻った。


「なに……これ? 美味しそうじゃない!?」

「腹いっぱいなんだろ? これは俺のだ」

「ち、ちょっと味見させて~!」

「仕方ないな、一口だけだぞ」


 すると親父さんまで卓にやってきた。二人は俺が作った料理に震え叫びだした。


「なんっじゃこりゃあぁぁぁっ!? 俺の料理とは別次元の美味さだっ!」

「嘘ぉ~!? これ首都一かも!? リヒト様って料理までできるの!?」

「手がこんでるわけじゃないし簡単な料理じゃないか」


 アクアは親父さんを指差して言った。


「その簡単な料理すらできず閑古鳥が鳴く料理屋の主人がこの人なんですが」

「くっ! 悔しいが負けを認めるしかねぇ……」


 味見といった二人の手は止まらず瞬く間に皿が空になってしまった。


「ちょっと!? 俺の分は!?」

「「食べちゃった」」


 目の前にある取り皿にはステーキ肉が一枚しか残っていない。


「はぁぁ……、俺の飯……」

「パンでも出そうか?」

「……お願いします」


 残った肉一枚とパンで夕食を終えた。親父さんは笑顔で厨房の片付けに行くと言い卓から離席していった。


「リヒト様、もう夜も遅いけど宿に戻らないんですか?」

「いや、実は……」


 俺はここにくる前にグレッグ達と別れ村には戻らなくなった事を話した。


「別れると言った手前宿には戻りづらいんだよなぁ」

「リヒト様首都に残るんですか!?」

「ああ。明日剣の受け取りもあるし今日は別の宿探しに行くよ」

「だったら家に泊まりませんか?」

「ここに??」


 アクアは胸を張り答えた。


「何を隠そう、ここは宿屋なのです! お父さんの本業は宿屋の方だったんですよ」

「へぇ~」

「お母さんが亡くなってからはさすがに手が回らないってことで宿は閉めてたんですけど部屋ならあります」

「泊まって良いの?」

「はい、もちろん! 朝ご飯の用意してくれるなら!」

「……それが目当てかよ」

「朝ご飯って大事じゃないですか。その日頑張るための活力っていうか」

「はいはい、じゃあお世話になります」

「やった! お父さ~ん! リヒト様に部屋貸すね~」


 厨房から親父さんの返事があり、俺は今晩ここに泊まる事になった。


「そうだリヒト様」

「ん?」

「王様からの依頼いつにします?」

「そうだな」


 俺は少し考えた。


「村の人達が帰ったらにしようかな。広場で磔にされてる盗賊が死んだら動こう。別の道を歩むことになったけど見送りはしたいからさ」

「わかりました。王様からの依頼も緊急性が高いものじゃありませんし大丈夫かと」

「冷え性の改善だもんなぁ。とりあえず何種類か薬作っておくよ」

「お願いしますね~」


 夜、宿は閉めているらしいが綺麗に整えられた部屋でゆっくり休むのだった。


 翌朝、食堂に向かうとすでに親父さんが厨房にいた。


「おはようリヒト。今日から朝飯作るんだって? 見てて良いか?」

「おはようございます。作りますけど朝は簡単なものですよ?」

「俺は料理に関しちゃ素人だからな。なんでもいいから学びたいんだ」

「わ、わかりましたから」


 朝から圧が強い。二メートル近い体格で迫られると圧迫感が半端なかった。


「朝はスライスしたパンとベーコンエッグ、サラダにコーヒーにしましょうか」

「リヒト」

「はい?」

「ベーコンエッグとコーヒーってなんだ??」

「へ? ベーコンもコーヒーも知らない? まさかベーコンないの?」

「初めて聞いたぜ」


 俺もベーコンは手持ちにない。村に置きっぱなしだ。


「仕方ないか。じゃあボア肉を薄く切ってカリカリに焼き上げよう」

「楽しみだ」


 ないなら仕方ない。薄くスライスしたボア肉を塩でもみ、胡椒とハーブをふりかけ強火で一気に焼き上げる。そこに卵を落とし火を弱め蓋をする。


「蓋をする意味はなんだ?」

「火が通りやすくなるんだよ。蒸す感じかな。黄身が半熟のトロトロになるんだよ」

「ほ~う」

「待ってる間にサラダをっと」

「ああ、サラダくらいなら俺がやるぞ」

「じゃあ任せた。ならコーヒー準備するかな」


 村で作ったコーヒー粉も残りわずかだ。落ち着いたら市場に行ってみるかな。


「あの、親父さん」

「あ? 【ファルコ】でいいぞ。どうした」

「じゃあファルコさん。この店って食材とか調味料どこで買ってます?」

「そうだな、肉は自分で狩って解体してるな。調味料と野菜なんかは市場からだ」


 まさかの肉は自家製だった。狩人には見えないが。


「狩人だったんですか?」

「いや、元冒険者なんだわ。俺とカミさんはな」

「へぇ~」


 良い具合に火が通ったボアエッグをサラダが盛ってある皿に盛り付けスライスしたトーストを乗せる。


「カミさんとは同じパーティーでな。野営する時はカミさんが料理作ってくれててよ。そこに惚れたんだ。まあ、昔の話さ」

「元冒険者だったんですね」


 スライスしたトーストにハチミツをかけているとまだ寝惚けた様子のアクアが起きてきた。


「おはよ~……。お父さ~ん……不味い朝ご飯できてる~……」

「不味いとは失礼だな。今朝はリヒトが作ったぞ。ちなみにめちゃくちゃ美味そうだ」

「リヒト……リヒト様!?」


 寝惚けていたアクアは一気に目を覚ましたようだ。


「忘れてた! あ~、どうしよっ! ゆっくり味わう時間なんかないよ~!」

「アクアっていつもああなんですか?」

「あいつ昔から朝に弱いんだよな。冒険者の娘なのに誰に似たんだか」


 冒険者は朝が早い。朝の冒険者ギルドは良い依頼の奪い合いだ。野営もするしのんびりしている冒険者なんか俺くらいだろう。


 とりあえず朝の支度もまだなアクアにボアエッグとハチミツトーストにコーヒーのモーニングセットを出した。


「う……うぁぁ~! か、輝いて見えるよぉぉ~! 食べるのもったいない! 朝からご飯が豪華だよっ!」

「時間ないんじゃないの? 遅刻するよ」

「ヤバ! お給料減らされちゃう!」


 アクアは涙を流しながら朝食を胃に収めていった。


「こりゃあ美味いな! 作り方は覚えたから明日は俺が作ってみよう」

「そうだね。やってみないとちゃんと覚えられたかわからないし」

「おう。で、リヒト。今日の予定は?」

「とりあえずバッカスに行って剣の受け取りかな。それから盗賊の様子見て時間あったら町の外で薬草採取するよ」

「薬草採取か。なら俺も付き合うか。肉狩りに行きてぇからな」

「わかった。じゃあ一度帰ってくるよ」

「おう」


 厨房の片付けを終えたあと、俺は鍛冶屋バッカスへと向かうのだった。

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