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第18話 渡り鳥の止まり木亭①

 二人と再会を誓い宿を出た俺は背筋を伸ばし一歩を踏み出した。


「あんまり待たせたら寿命で死んじゃうよな。またやることが増えたけどやる気出てきた! まずは目の前にある依頼からこなしていこう」


 意気込みを新たに俺は受付の女性アクアから聞いた店へと向かった。


「……こ、ここ? え? これ営業してんの??」


 店には明かりが灯り入り口には営業中の札が下がっている。だが外観は鍛冶屋バッカスよりボロボロでとても営業している雰囲気ではない。回れ右をし引き返そうとするとそこにアクアが立っていた。


「うぉあぁぁぁぁっ!?」

「どこに行くつもりですか~? 待ち合わせ場所はここで合ってますよ? ふふふふっ」

「ち、近い! わかったから離れて!?」

「さあさあ、中に入りましょう!」

「ちょっ!?」


 アクアは俺の腕に抱きつき無理矢理店の中へと引きずり込んだ。


「お父さ~ん、お客さんだよ~」

「なにぃぃぃっ!? 客だと!?」

「うっおぉぉ……」


 入り口からアクアが叫ぶとカウンターの奥で新聞を読んでいたスキンヘッドで夜なのにサングラスをかけた厳つい筋肉ダルマが勢いよく渋い声で叫んだ。


「あの……バズーカとかロケットランチャー持ってたりします?」

「あん? なんだそりゃ。さあさあ、こっちきて座りな!」

「あ、お父さん。私達今から仕事の話するから飲み物だけお願いね」

「り、料理は?」

「いらないわよ。リヒト様もいらないよね?」


 いらないと言いたいところだが昼に軽く食べてからさっきグラス一杯のエールしか飲んでいなく、自分が今空腹だと思い出してしまった。


「いや、夜まだ食べてないし何か食べたいかな」

「おぉっ! よし、任せな! とびきりうめぇ飯食わしてやるぜ!」


 親父さんは親指を立て白い歯を輝かせたあと厨房へとスキップしていった。


「正気? クソ不味いって言ったよね?」

「食べなきゃどんなものかわからないし。それより依頼の詳細はわかった?」


 そう尋ねるとアクアは親指を立てた。親父さんそっくりだ。


「もちろんバッチリです! ただ……」

「たた?」


 アクアの顔が緊張に歪んだ。


「想像してたよりはるかにヤバい案件でした」

「と言うと?」

「はい。依頼主は国王様です」

「……は? え? マジ?」

「マジもマジ、大マジです」


 王族の誰かとは思ったが依頼主は国王か。


「大物だね。失敗したら消されるかな」

「えぇえぇ、私がですよね!?」

「そうなるねぇ」


 アクアは今更ながら受けなければ良かったと後悔してそうだ。


「それで王様はなんて?」

「はい。実は……」


 アクアは依頼の詳細を語り始めた。


 まとめると、依頼の内容は王妃に関することだった。王妃は毎年冬になると手足が冷たくなり夜も眠れなくなるらしい。今年は特に酷く、年齢も年齢なので国王は心配でたまらないのだそうだ。


「っていう依頼でした。確かに冬は手足冷えますもんねぇ」

「単なる冷え性じゃないか」

「え? い、今のでもうわかったんですか!?」

「まぁ……だいたいね。王妃様って痩せてたりする?」

「あ、はい。国王様も王妃様も質素倹約を旨とする御方なので。え、もしかして解決できちゃいます?」


 今日採取してきた薬草類をテーブルに乗せ、冷え性に効く漢方が作れないか調べてみた。


「あ、できそうだ」

「嘘~!? こんなありふれた草で!?」

「薬なんてそんな物だよ。草や花、根とかから作ったりするんだよ」

「へ、へぇ~。いや、でもリヒト様狩人ですよね? 薬師の真似事までできちゃうんですか?」


 とりあえず誤魔化しておく。


「死んだ親が薬師だったんだよ。小さい頃毎日見て覚えてたんだ」

「な、なるほど?」

「けど、この薬を使うことでちょっと注意がある」

「あ、ちょっと待って下さい!」


 アクアはポケットから紙とペンを取り出しテーブルに置いた。


「まず、この薬はかなり強い薬なんだ」

「はい」

「体重によって服用する量の調整も必要だし、経過をみなきゃならない。薬が強すぎるから発疹や下痢、かゆみや胃部不快感、食欲不振なんていう症状が出てしまうんだ」

「……はい」

「そういった症状が出た場合違う薬に変える必要がある。人によって合う合わないがある薬なんだよ」

「あの、無理です。覚えきれませんし聞かれたら答えられる自身ないですよ私っ」


 そこが問題だ。俺なら【異世界知識倉庫】からいくらでも情報を引き出し対処できる。こんな時にスマホがあればと思うがないものは仕方ない。


「わかった、今度は俺も同席するよ」

「え! 良いんですか!?」

「ああ。俺はギルド職員見習いって立場で行かせてもらう。アクアは俺に仕事を覚えさせるためとか理由付けすればいいんじゃないか?」

「つ、ついにリヒト様がギルド職員に!」

「ならないってば。仮に決まってるだろ」

「残念です」


 アクアがしょぼくれていると床をギシギシ鳴らしながら親父さんが現れた。


「待たせたな! 俺特製肉の盛り合わせだ! 二人ともエールで良いよな? ってアクアどうしたお前そんなしょぼくれちまってよ」

「お父さん……私フラれちゃった」

「あぁぁん!? お前っ、家の娘の何が不満なんだ!? おぉん!?」


 不満しかないがニヤニヤ笑うアクアを見て現実を教えてやった。


「まず、無理矢理ギルドの職員にさせようとするところですかね」

「お、おう?」

「それからやけに気安いし、強引だし……あとちょっとアホっぽいですよね」

「あぁ……そりゃ確かになぁ。昔から考えなしに突っ走るヤンチャ娘だったな」

「お父さん? ちょっと黙ろうか? ハウス!」

「イ、イエッサー!」


 親父さんは顔を真っ青にしながらカウンター奥へと逃げていった。この親子のパワーバランスがどうなのかハッキリわかってしまった。


「とりあえず乾杯しますか。あ、それリヒト様が全部食べて下さいね?」

「この山のような肉を一人でか!?」

「私は無理です。お城でケーキやらたくさん食べてきましたので」

「わ、わかったよ。とりあえず乾杯だ」


 乾杯後、肉を一切れ食べたがこれまでに食べたことがない味がした。よく見るとレアからウェルダンまでごちゃ混ぜで血が滴っている部位もある。赤ワインソースではない、紛うことなき血だ。しかも味付けは塩のみ。


「……なんだこれは。不味いを通り越して未知だ」

「よくこれで店やるよね~。お母さんが開いた店だから潰したくない気持ちはわかるけど……正直明日が見えないのよねぇ」


 いつか食中毒で営業停止になるんじゃなかろうか。だが幸い客が入っていないためその心配はないか。


「ちなみにお母さんは?」

「去年亡くなったわ。病気だったの」

「そうか……」

「ほら、食べなさいよ。注文したんでしょ?」


 ニヤニヤ笑うアクアの前から皿を持って立ち上がった。


「これは無理だ。ちょっと作り直してくるから厨房貸してくれ!」

「いってらっしゃ~い」


 俺はヒラヒラと手を振りながらエールをガブ飲みするアクアを卓に残し厨房へと向かうのだった。

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