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第16話 特別依頼

 鍛冶屋に剣を依頼した次の日、俺は朝から町の外と冒険者ギルドを往復し資金を稼いでいた。冒険者ギルドには預金システムがあるようで、買い物先で金が足りなかった場合は店主にギルドカードを提示すると契約書を出され、サインすると店主が冒険者ギルドに代金を受け取りにいけるというシステムだ。


 ただしこのシステムは冒険者ギルドが町にある場合のみであり、小さな町や村ではこのシステムは使えない。実にかゆいところに手が届かない微妙なシステムだ。


「凄いですね~。リヒト様の預金額金貨二十枚ですよ」

「ちょっと武器が欲しくてね。半分は剣の代金だよ」

「なるほどなるほど。でももったいないですね~」

「なにが?」


 受付の女性はニマッと笑いながら言った。


「リヒト様がマジックバッグをお持ちならもっと稼げてたんですがね~」

「それは思ったよ。けど高級品だろ。駆け出しFランクの俺じゃあ手が届かないよ」


 すると受付の女性は一枚の依頼書を取り出しカウンターに置いた。


「そんなリヒト様のために素晴らしい依頼を確保しておきましたよ! 本当はダメなんですけどリヒト様にはポーションの件でお世話になってますし、もしかした他の冒険者に任せるよりも達成してくれそうだったので!」


 依頼を掲示板に貼らず一冒険者に斡旋する。いよいよこの受付はヤバいのではと若干思い始めた。


「で? なんでこの依頼が俺のためになると?」

「ふっふっふ~。報酬の欄見て下さいよ」

「報酬? ん? は? はぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ふっふっふ~。驚きました?」


 報酬の欄を見て目玉が飛び出しそうになった。


「ほ、報酬……マジックバッグ(容量無制限)だって!? こんなのいくらするんだよ!?」

「小さい国なら買えてしまう価値はありますね~」


 俺は依頼書を突き返した。


「無理。俺には達成できそうにない。駆け出しFランクだぞ」

「いやいや、依頼内容読んでみて下さいって」

「おい」


 再び依頼書を渡された俺は渋々依頼内容に目を通した。


「は? なにこれ? こんな簡単な依頼でマジックバッグ貰えるのか??」

「え? 全然簡単なんかじゃないですよ!? これまで名だたる薬師や神官が手を尽くしても解決できなかったんですから!」

「マジかよ……」


 依頼は匿名で内容は病気の治療としか記されていない。しかし他の薬師や名だたる神官とやらが失敗している以上楽観視はできないか。


「今まで受けた方はどちらに?」

「もうこの国にはいませんとしか。依頼者の方は権力者ですので」


 つまり失敗したら情報を秘匿するために暗殺、ないしは国外追放ってところか。マジックバッグと天秤にかけてみるがリスクが大きい。そしてこの依頼者は十中八九王族の誰かだろう。権力者に目を付けられたくない俺としては一番避けたい相手だ。


「やっぱり無理です。簡単だとか言ったけど舐めてました」

「リヒト様ならと思いましたが無理でしたか。残念です」

「俺じゃなくても上級職持ちの誰かが解決してくれますよきっと」

「で、ですよね。国内に解決できそうな上級職持ちの冒険者は今いないんですけど」


 可哀想だとは思うが俺にも事情がある。権力者に飼い慣らされるなんて真っ平御免だ。今は力を蓄える時だ、悪目立ちはできる限り避けたい。だが困っているだろう人は助けてやりたい。俺の思考はこの二つの考えで板挟みだ。


「……一つ思いつきました」

「何がです?」


 俺は受付の女性にこっそりと耳打ちした。


「影武者を立てるんです」

「はい?」

「俺は表立って協力したくない。けれど報酬は欲しい。そこで俺の代わりに誰かが依頼を受け、俺が解決できたら報酬をもらう。どうですか?」

「な、なるほど。それ、私がやってみましょうか」

「はい?」


 受付の女性は胸を張って答えた。絶壁が虚しさを表している。


「私が交渉してきましょう! まず依頼内容が正確に伝わらないことを強調し、私だけ依頼内容を把握してきます」

「ふむふむ」

「そこで聞いてきた内容をリヒト様にお伝えしますので解決できそうな薬があったら私に下さい。私はそれを依頼者に渡し、流れの冒険者から薬をもらったと伝え依頼者に渡します」

「なるほど」

「報酬は全土にある冒険者ギルド経由で薬をくれた冒険者に必ず渡すと告げれば問題ありません! どうですか、この完璧な計画!」


 確かにこれなら俺のことはバレないし、万が一失敗したとしても目の前にいる受付の女性が他国の冒険者ギルドに左遷されるくらいで片付くだろう。成功すれば目立たず容量無制限のマジックバッグをゲット。失敗しても受付の女性が一人消えるだけ。悪くない取引だ。


「わかった、ならそれで進めよう。いつから動く?」

「今すぐにでも! 夜になったら町にある定食屋にきて下さい。そこで聞いてきた内容を伝えますのでっ」

「定食屋? なんでまた」


 受付の女性はジト目で俺に耳打ちしてきた。


「めっちゃくちゃ不味いんです。他にお客さんなんか入らないし周りを気にする必要なんかないので」

「さすがに店に失礼だろ」

「良いんですよ、実家なので」

「へ? あ、あんた実家定食屋なのか? なぜギルド職員なんて」


 すると受付の女性はカウンターに突っ伏した。


「お客さんがこないからですよ! あんなでも実家なのでなくしたくないし、ギルド職員は給料良いですからね」

「仕送りってやつか。偉いな」

「そんなんじゃないですよ。それに……」

「それに?」


 なぜか受付の女性は上目遣いで俺を見上げてきた。


「クソ不味い料理……リヒト様なら改善できるんじゃないかな~って魂胆もあったりして」

「それは過大評価ってやつだな。料理は最近始めたばかりだしな」

「残念っ。じゃあ夜に【渡り鳥の止まり木亭】ってお店で。あ、私はそこの末娘で【アクア】っていいます。私がいなかったらアクアの紹介できたと伝えれば大丈夫ですので」


 何が大丈夫なんだろうか。まさか名乗らないと無理矢理不味い料理でも出されるのだろうか。心配しかない。


「わ、わかった。じゃあ俺はもう一度外に行って材料掻き集めてくるよ。何が必要になるかわからないしね」

「はい、お気を付けて」


 俺は様々な薬を作るために町の外へと向かうのだった。

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