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第15話 剣を手に入れよう

 物凄い力で鍛冶場へと連れ込まれた俺は無理矢理椅子に座らせられた。


「さってと~、何打って欲しい? 短剣? でも短剣より一番高い大剣が良いかな~?」

「強引過ぎる!?」


 俺はジョブから使えそうな武器を考えた。


「そうだなぁ、とりあえず片手剣かな。両刃でできれば軽めの剣が良いかな」

「片手剣かぁ。予算は?」

「えっと……」


 俺は鞄を漁り金貨を取り出す。


「悪いけど今はこれしか」

「金貨二枚かぁ。もう少し出せない? 五枚とか」


 剣の出来栄えは別として片手剣を買うならだいたい五万から十万は覚悟している。命を守るための武器だし剣があれば騎士や兵士のジョブレベルも上げられる。金策ならギルドに低品質ポーションを卸せばどうにか賄えそうだ。


「数日かかっても良いなら十枚までなら出せるよ」

「数日? それは当たり前でしょ? 剣が一日で完成するわけないじゃないの」

「それもそうだね。じゃあ出来栄えで値段決めてもらってもいい? 自分で正しく価値を決められるか知りたいし」

「うっ。わ、わかったわよ。今は他に仕事ないし急ぎで三日、明後日の朝取りにきて」

「わかった。じゃあちょっと見学していくよ」


 女性は服を着替え慣れた手つきで炉に火を入れた。


「軽く作るなら銅か青銅かな。鉄だと重いよね」

「壊れにくい方で」

「う~ん……なら錆びにくい銅かな」


 銅から作られる剣はカッパーソード、青銅から作られる剣がブロンズソードだ。よく銅メダルのことをブロンズメダルと称するが本来は銅がカッパー、青銅がブロンズだ。青銅は錆が浮きやすいためまめに手入れする必要がある。


「うん、銅がいいかな」

「オッケー。じゃあ見てて」


 女性は銅の塊を坩堝に入れ炉にぶち込んだ。そして溶かす間に型を用意する。


「鋳造式なんだ。鍛造かと思ったよ」

「今回は合金じゃないからね。純粋な銅だから鋳造の方が楽なのよ」

「ふぅん」


 しばらく待ち炉から坩堝を取り出し溶かした銅を型に流し込んだ。


「あとは冷えてからの作業になるかな。今見せられるのはここまでね」

「色々勉強になったよ。ありがとう。このあとは?」

「あとは型から外してバリ取りと磨き、柄と鞘を付けて完成かな。あ、握りの太さ調整するから明日これる?」

「もちろん。夕方くらいで良いかな」

「いつでも良いわよ。あ、まだ名乗ってなかったわね。私はこの鍛冶屋バッカスの一人娘で【ルールー】っていうの。あなたは?」

「俺はリヒト。南にあるロゼット村に住んでる。冒険者ランクはFだよ」

「駆け出しじゃない」

「昨日登録したばかりなんだよ。村にギルドなかったし首都は地味に遠かったし」

「そ。まあ私はお金さえもらえれば良いし。ちゃんと払ってくれるのよね?」

「それは当然。良い剣を期待してるよ」


 ひとまず今日はこれ以上いても作業はないため俺は鍛冶屋を出た。ジョブを確認すると新たに鍛冶師が増えていた。


「よし、ジョブ覚えたな。これで村に帰っても炉を作れば鍛冶屋を開けそうだ。村のためにできる事を増やす目的は達成できたかな」


 新調した短剣をぶら下げ町の外に向かう。あとはお決まりの薬師ムーヴで薬草を乱獲、低品質ポーションを作りまくり冒険者ギルドへ卸す。


「お待ちしてましたリヒト様! ポーションですよね? ポーションに決まってますよね!?」

「どんだけ足りないんですか。まぁ、予想通りポーションです。はい、どうぞ」

「お……き、きたぁぁぁぁっ!」


 カウンターに低品質ポーション三十本を置く。


「ありがとうございますっ! 三十本で金貨九枚になります!」

「鑑定しないの?」

「あははは。するまでもありませんよ。リヒト様の腕は信用してますのでっ。ああ、ポーションはいつでも受け付けておりますので! あと、ギルド職員には」

「なりませんよ。またきます」

「あぁん、リヒト様ぁぁ~」


 受付を適当にあしらい冒険者ギルドを出た。


「はぁ。もっと物が沢山入る鞄かスキルが欲しいな。テンプレだとマジックバッグかアイテムボックス……ストレージとか便利なんだよなぁ」


 あいにく金もなければその辺のチート能力もない。凡人にしかすぎない俺は地道に稼ぐしかないのだ。


「この世界にマジックバッグとかあるのかな。ガロンさんにでも聞いてみるか」


 宿へと戻る際に中央にある広場を見かけると盗賊達が磔刑にされ、投石で怪我をしたのか頭から血を流しぐったりしている様を見た。


「自業自得だな。悪い事をしたら罰を受ける。当たり前の話だ」


 この様子から盗賊達は数日以内には事切れそうだ。町での目的も概ね果たした。剣が完成したら戻るとしよう。


 宿に戻りみんなと食事を摂る。食事を終え雑談しているガロンに尋ねた。


「ガロンさん、なんか普通の鞄なんだけど見た目以上に物が入る鞄とか知りません?」

「ん? ああ、マジックバッグか。知ってるぞ? それがどうした」

「いや、ちょっと。冒険者ギルドで冒険者が鞄から素材とか取り出しているの見て羨ましいなぁと」

「冒険者が? マジックバッグは高級品だぞ。言い方は悪いがエリンの格下冒険者がそんな品を持っているとは思えないのだがな」

「そうなんですか。ちなみお値段は……」

「小さい物で白金貨五枚からだ」


 白金貨五枚。日本円にして五百万だ。


「たっか!! え、そんなするんですか!?」

「冒険者は荷物を減らしてなんぼの世界だからな。マジックバッグは迷宮か魔導具師に作ってもらわなきゃ手に入らない貴重品なんだ」

「魔導具師……ですか」

「ああ、上級職だ。魔導具師は大国が抱えている。野良の魔導具師なんぞいないぞ。だから平民は危険な迷宮に挑み手に入れるしか方法はないのだ」


 マジックバッグはとんでもなく貴重なアイテムのようだ。


「魔導具師かぁ……エリンにはいるのかな?」

「どうだろうな。引退した魔導具師ならいるかも知れんが……いたとしても訳ありだろう。通常なら引退しても部下の育成に関わるため国に残るはずだ。エリンにいるとしたら社会不適合者か……よほどの道楽者だろう」

「し、社会不適合者って」

「老害ってやつだ。いつまでも過去の栄光に縋り後進の育成を阻む害悪だ。追放されていたらいるかも知れんが依頼したとして受けてくれるはずもない」

「な、なるほど」


 ガロンは酒が入ったグラスを空にし潰れているグレッグを叩き起こした。


「んあ?」

「部屋に戻るぞ。最近飲み過ぎじゃないか?」

「村じゃ好き放題飲めねぇからなぁ……」

「ハメを外し過ぎだ。寝るなら部屋で寝ろ」

「へいへい。リヒト~……結婚は墓場だぞぉ~……ヒック」


 帰ったら奥さんに告げ口でもしてやろうか。そう考えながら担がれていくグレッグを見送った。


「上級職の魔導具師かぁ。こんな辺鄙な田舎町にいるわけないし諦めるしかないかな。でもなぁ~……あったら楽なんだよなぁ~」


 諦めると言ったが諦めきれない俺は落ち込みながら部屋へと戻るのだった。

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