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第14話 目的

 ガロンは宿に戻るとみんなを一室に集め盗賊団の今後が決まったと告げた。


「まず、俺達が捕まえた盗賊達は全員磔刑に決まった。道中水しか与えていなかったからかだいぶ弱っていたよ」

「当たり前だ、あんな奴らに食わせる飯はねぇ」

「ああ。おかげで刑の執行は明日になった。明日から絶命するまで町の中央にある広場に晒されるそうだ。まぁ、あと数日もたないだろう」


 食事抜き水だけで六日、それから飲まず食わずで磔刑にされ石やら何やら投げつけられるのか。


「まさに地獄だね。ガロンさん、グレッグ、俺興味ないから冒険者ギルドで依頼受けてて良いかな?」

「構わんぞ。なあグレッグ?」

「ああ。俺達は最後まで見届けるわ。隣村の奴らとな。お前は稼ぐなり好きにしたら良い。夜は宿にいるからよ」

「わかった。依頼を受けがてら町を見て回るよ」


 俺自身は盗賊に何の恨みもない。行く末がどうなろうと俺には全く関係ない。それよりも異世界の町が気になっていた。


 翌日、俺以外は朝食後から広場に向かって行った。俺は今日は依頼を休みにし町を見て回ることにした。


「さて、異世界の町を見て回るのは始めてだ。村と違う暮らしぶりを見て回ろうかな」


 見るのは暮らしぶりだけではない。本来の目的は新しいジョブの獲得だ。


「実は欲しいジョブがあるんだよねぇ。この町にいたら助かるんだけどな」


 俺は頼むからいてくれと神に祈りつつ宿を出た。


「さて、まずは大通りに向かうか」  


 宿を出た俺は大通りに向かい町の人に声を掛けた。


「すみません」

「ん? なにか?」

「この町に鍛冶屋はありますか? 解体用のナイフが欠けてしまいまして」

「鍛冶屋?」


 町の住人は通りを挟み宿とは反対側にある路地を指差した。


「鍛冶屋なら冒険者ギルドの横にある細い通りを奥に進んだ突き当たりに何軒かあるよ。店によって農具や武器類、家具類を扱ってるんだ」

「オススメってありますか? あとハズレとか」


 男は腕組みをしながら首を傾げた。


「俺は冒険者じゃないからなぁ。農具や家具ならわかるが武器は知らないよ」

「ですよね。ありがとうございました」

「あまり役に立てなくて悪いね」

「いえ、では」


 男に会釈し冒険者ギルドの前に移動する。そこで冒険者らしき男に同じ質問を投げかけてみた。


「鍛冶屋ねぇ。お前さんランクは?」

「駆け出しのFランクだよ。狩りは村でやってたけど登録にきたのが昨日でね。解体用のナイフがちょっとね」


 腰から手入れされていないナイフを抜いて男に見せる。


「なるほどなぁ、田舎じゃ鍛冶屋もないからなぁ。俺も田舎出身だからわかるよ。俺の行きつけはいくつかある店でも一番デカい【ツヴァイ】って店だな。品揃え豊富で値段もピンキリだ」

「ツヴァイかぁ。逆にここは止めとけって店とかある?」

「そうだなぁ……」


 男は何やら考え口を開いた。


「とりあえず【バッカス】って鍛冶屋は止めとけ。先代は町一番の腕だったんだがよ、少し前に代替りして若い娘が店主になってな。言っちゃ悪いが質がガタ落ちしてるんだわ。店の見た目もだいぶボロいしなぁ」

「なるほどなるほど。ありがとう、これお礼にどうぞ」


 俺は鞄から自分用にと残しておいた低品質のポーションを一瓶渡した。


「ん? おぉっ!? これポーションか! 良いのかよ!?」

「情報の対価だよ。ハズレ引いたら損するからね」

「はっはっは! 同じ田舎モンのよしみだろ。じゃあまたな!」


 手を振りながら去る男を見送り鍛冶屋がある通りへ向かう。


「さてさて、今の話だとよくあるテンプレは【ツヴァイ】って店がハズレなんだよなぁ。気になるのは【バッカス】かな。ま、鍛冶師のジョブさえ手に入るならどこでも良いんだけどね」


 代替り、凋落、そして実は隠れた名工までがセットだ。全てがこうだとは言いきれないがこうした異世界テンプレを体験してみるのも面白いと思った俺は鍛冶屋バッカスに足を運んだ。


「鍛冶屋バッカス……ここか」


 話に聞いた通りツヴァイは店構えも大きく真新しい外観だった。それに比べバッカスの外観はこれもまた話に聞いた通りボロボロだ。掃除はされているようだが静まり返っていた。俺はテンプレを期待し開けっ放しの入り口を潜る。


「こんにちは~」


 中に入り声を掛けるとカウンター奥に座り突っ伏していたポニーテールの女性がガバッと身体を起こした。


「い、いらっしゃいませ! 短剣ですか!? 斧? 槍!?」

「えぇぇ……」


 女性は身体を起こしたかと思いきや、物凄い速さでカウンターを飛び越え興奮した様子で俺の両肩を掴んできた。鍛冶をやっているからか握力が半端ない。


「今なら長剣にフライパンも付けますよ!」

「なぜにフライパン!?」


 痛む肩を気にしながら店内を見回すと武器や防具の他に調理器具が棚に並べられていた。俺はどうにか肩にあった手を引きはがし女性に言った。


「いや、今日は購入ではなくて修繕依頼をと」

「修繕? ……そうですか」


 女性は一見してわかるように落胆を示した。俺は腰からナイフを外し女性に手渡した。女性は鞘からナイフを抜き様々な角度から眺める。


「あ~……けっこう歪んでますね。刃も欠けてるし買い替えた方が早いですよこれ。安物ですよね?」

「貰い物だし価値はちょっと。確かに最近採取しようにも解体しようにも切り辛かったり引っかかったりするんだよな」


 女性はナイフを鞘に戻し返してきた。


「どうします? 修繕するなら修繕しますけど……こっち買った方が安いですよ」


 そう言って棚から短剣を一本持ち出し俺に見せてきた。俺は手渡された短剣を抜き息を吐いた。


「これは……なんか凄い惹きつけられるものがありますね」

「じゃあこっちは?」


 女性からもう一本短剣を受け取り鞘から抜く。


「これは……ふ、普通?」

「だよねぇ……」


 女性から大きなため息が漏れた。


「最初のは私の父さんの作品。で、二本目は私が打ったやつなのよ」

「なるほど」


 二つの短剣を並べ見比べてみると素人目でも明らかに違いが見てとれた。


「私じゃまだまだ父さんには敵わないのよね。亡くなる直前まで半人前って言われてたし」

「鍛冶はいつから?」

「え? 十年前……八歳くらいからかな」


 まさかの同じ年だった。やさぐれているからか年上かと思っていた。


「と、とりあえず親父さんの短剣だけ下さい」

「は~い、金貨一枚になります」


 鞄から金貨を一枚取り出し女性に渡した。


「こっちのナイフはどうします? 要らないならうちで処分しますよ」

「ならお願いしようかな」

「はいはい」


 お世話になったナイフを渡し真新しい短剣を腰に下げる。


「そうだ、俺鍛冶に興味があって。少し打ってるとこ見せてもらえませんか?」

「えぇ……なんで私が」

「できた物買いますよ」

「ハイッ、喜んで!! さぁさぁ奥へ奥へ!」

「うぉっ!?」


 俺は物凄い握力で手首を掴まれ鍛冶場へと連れ込まれるのだった。

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