第12話 首都ウォルン
列に並びいよいよ町に入る番がやってきた。先頭のガロンが入り口に立つ兵士に盗賊を捕まえた事を報告すると町の中から多くの兵士が駆けてきた。
「お前らがこの盗賊を捕まえたのか? 凄いじゃないか」
「あぁ、俺達の方が盗賊達より地理に明るかった。それが勝機だった」
「いや、よくやってくれた! この盗賊団には懸賞金がかけられていたはずだ。代表一人で良いから詰所まできてもらえるか?」
「では俺が行こう。グレッグ、みんなに町の案内をしながら時間を潰していてくれ」
「あいよ」
ガロンが兵士達と共に盗賊を運んでいき、俺達はグレッグと町を見て回る事にした。町並みはよくある中世の田舎町だ。町の中にさらに外壁があり小さな城が建っている。道は石畳など敷かれてはおらず土がむき出しだ。首都と言う割にはエイズーム王国首都とは比べものにならないくらい小さい町だった。
「グレッグ、俺達はどうするの? 金も持ってないし」
「とりあえず宿だな。磔刑になるまで何日かかかるだろうしな」
「何泊かするのか」
「ああ。それからお前だけ冒険者ギルドに行ってこいよ」
「ん? なぜ??」
「俺達は生まれがエリンだから成人したら身分証を作るんだが、お前はエイズームからきたから身分証持ってないだろ。身分証の発行してんのが冒険者ギルドなんだよ」
「身分証か。わかった、ギルドはどこ?」
グレッグは目の前の真っ直ぐな通りにある三階建ての建物を指差した。
「あれだ、あのデカい建物。登録料は貸しといてやるよ」
「おっと」
グレッグから銀貨三枚渡された。
「ありがとうグレッグ」
「貸してやるだけだ。登録したら依頼受けてこいよ。ただ町にいても暇だろ? お前なら器用だから何かしら依頼で稼げるはずだ」
「自分で稼げと。まぁ良いよ。じゃあ夕方くらいまで自由行動で良い?」
「おう。俺らは町のはずれにある安宿【カッツェ】にいるからよ」
グレッグと村人達は荷車と共に宿へと向かっていった。俺は今借りた金を返すべく一人冒険者ギルドへと向かった。
「ここか。よし、まずは登録だな」
入り口の扉を開き中に入る。中は薄暗く併設してある酒場では数人の冒険者がまだ昼前にも関わらず酒を飲んでいた。俺は絡まれないように気配を遮断しながら真っ直ぐ受付へと向かいカウンター前で気配を戻した。
「すみません、冒険者登録したいのですが」
「ひゃあっ!? い、今いきなり現れました!?」
「いえ、まさか。はははは」
「は、はぁ」
受付の女性は戸惑いあたふたしながらカウンターの下から登録用紙を取り出した。
「字は書けますか? 書けないなら代筆しますが」
「大丈夫です」
「かしこまりました。では記入を」
用紙を見ると何を記入すれば良いか全部読めた。始めて字を見るが読めるという事は召喚スキル【言語理解】がはたらいているのだろう。
「名前リヒト、職業……狩人で良いか。出身地……う~ん……あの、出身地も必要ですか?」
「はい? 一応お願いします」
「エイズーム王国の首都から追放されてきたのですが知られたくなくて」
「そうですか。では今はどちらに?」
「南にある小さな村です」
「南……あぁ、はいはい。【ロゼット村】ですね」
村に名前があるなんて始めて聞いた。
「ではロゼット村でよろしいですよ」
「わかりました」
氏名、職業、出身地を記入し受付に渡した。用紙を受け取った受付は漏れがないか確認し、それが終わるとカードを一枚カウンターに置いた。
「こちらのカードに血を一滴垂らして下さい」
「あ、はい」
カードの上にあった小さな針で人差し指を刺し血を一滴カードに垂らした。受付はそのカードを後ろにあった機械に通し戻ってきた。
「登録が完了しました。紛失した場合、再発行にもう一度銀貨三枚いただきますので紛失されないようにお願いしますね」
「わかりました」
「それとこちらがルールブックです。冒険者のいろはが書かれてますのでか・な・ら・ず読んでおいて下さいね!」
必ずをやけに強調してくるな。
「……あの、読めない人もいるんじゃ」
「文字を書けなかった方は講習があります。リヒト様は文字の読み書きができましたので冊子を渡して終わりですね。ギルド職員も人手不足で忙しいんですよね」
「あ、なるほど。ちょっと読んできます」
ギルドの隅に移動し再び気配遮断しながら冊子を読み進めていく。瞬間記憶に加え速読の特技もあった俺は一瞬で中身を頭に叩き込んだ。
冒険者ルール
・カードは発行されたら失効されない。
・冒険者ランクはFからS。
・依頼はランクの一つ上まで受注可能。
・依頼書ごとに冒険者ポイントが記されていおり、冒険者ポイントを貯めるとランクアップ。
・依頼には達成期日があり、期日内に未達成または失敗すると記されてるポイント分がマイナスされ報酬の半額分の違約金が課せられる。
「なるほどね、テンプレっちゃテンプレだな」
全て暗記した俺はカウンターに戻った。
「あの」
「ひゃい!? リヒト様!? あの、いきなり現れないで下さい」
「すみませんすみません。あと、これ返します」
「え?」
俺はルールブックをカウンターに置いた。
「あの、きちんと読まれました? まだ数分した経ってませんが」
「読みましたよ。それで中身覚えたのでもう必要ないから返そうかなと」
「お、覚えたぁ? 数分で? ……ははぁん、じゃあテストします!」
受付は覚えられるわけがないといった表情で上から質問してきたが俺はスラスラと全問完璧に答えてやった。
「ホ、ホントに覚えてる!?」
「記憶力には自信ありますので」
「あの~、ギルドに就職してみたりは~……」
「引退したら考えてみます。まだ冒険一つしてないので」
「ですよね~……。はぁ、読み書きできる人って貴重なんですよ~。計算までできたらさらに」
「……頑張って下さいね」
計算できるとは伝えない。面倒に巻き込まれたくないからな。
「とりあえず依頼見てきます」
「はぁ~い、あちらで~す」
投げやりになった受付を離れ掲示板を見に行く。
「色々あるな。ってかこれ……見辛い」
掲示板には依頼書が乱雑に貼られていた。俺はこういうのが気になる質で、貼られていた依頼をランクごとに仕分けし貼り替えた。
「これでスッキリした」
「ちょちょちょっ! 勝手になにしてるんですかぁぁぁぁっ!?」
整理したところで受付にいた女性がすっ飛んできた。
「ああ、ちょっと汚かったので貼り替えてました」
「か、勝手にやめ……み、見やすい! え、わかりやすい!」
「ランク、依頼内容、残り日数を基準に貼り替えてみました。こうした方がわかりやすいでしょう? なにより綺麗だから気持ち良いじゃないですか」
受付の女性はプルプル震え叫びながらカウンターの中に走っていき、もう一人女性を連れて戻ってきた。
「こ、これは……!」
「こちらのリヒト様が整理してくださったんです。見やすくないですか?」
「す、素晴らしく見やすい上に残り日数が少ない依頼がどれかわかりやすいですね!」
「でしょ~、ふふんっ。あいたぁ!?」
受付の女性の頭にゲンコツが落ちた。
「あなたが威張らないの。本来なら新人職員がこれをやらなきゃならないのよ。冒険者にやらせてどうするのですか」
「す、すみませ~ん主任」
主任と呼ばれた女性は俺に深々と頭を下げてきた。
「ありがとうございます。これからはこのやり方を真似させていただいてよろしいでしょうか」
「えぇ、ただ俺が見辛かったから勝手にやっただけですから」
「申し訳ありません。あの、ギルド職員に興味は」
「あ、ありませんから! どんだけ人が足りないんですか!?」
俺は勧誘する気満々の二人にキッパリ無理だと告げるのだった。




