第11話 首都へ
盗賊を村へ運び俺とグレッグとガロンの三人で盗賊達をキツく縛り上げていく。
「ここはこうして縄をくるっと回したら抜けられねぇから覚えとけよ」
「なんでこんな縛り方知ってんのさグレッグ」
「あん? そりゃあ昔ヤンチャ……いや、昔の話だ忘れろ」
そこでガロンが真相を暴露した。
「グレッグは昔グレていた時期があってな。暴れたりしたもんだから俺が縛って木に吊るした過去があるんだ」
「なるほど。さすがガロンさん」
「バラすなよぉぉぉっ!?」
「良いじゃないか。昔の話だろう?」
「ちっ」
全員を縛り上げそれぞれにスタンポーションを数滴口に含ませた。これで数日は身動きができない。
時刻は昼、村人達は荷車に積まれた盗賊を遠巻きに見ていた。そこに隣村からきた住人も混じっている。
「あいつらが私達の親や友達をっ! 許せないっ!」
「なんで生かしてるんだ! 俺達の家族は殺されたのに!」
声を荒げる住人達に隣村の代表が理由を話した。彼らはこれから盗賊達が一瞬で死ぬより辛い苦しみを味わうと知ったら少し溜飲が下がったようだ。
「それなら俺達も運ぶのを手伝う。そいつらが死ぬ瞬間を見届けなくちゃ気が済まないからな」
「もちろんだ。私達全員でしっかり見届けよう。だが子ども達は……」
三人の子ども達は俺の背後から声を上げた。
「わ、私達も首都についていきます」
「それは……」
「父ちゃん達の仇だ! 許せないよ!」
「僕は……みんなと離れたくないから」
子ども達も首都へ向かう気だ。俺はグレッグに相談する。
「この子達は荷車に乗せよう。俺が引くよ」
「いや、リヒトはガロンと護衛に回ってもらわなきゃよ。引くのは俺がやるよ。前にガロン、荷馬車の横に隣村の男が二人ずつ、お前が殿だ」
「わかった。任せてくれ」
そう返事をするとグレッグは指揮を取り始めた。
「子ども達が乗る荷車に道中の食糧を積むぞ! 途中に町や村はないからな! 帰りは空の荷車に物資を積んでくる! 欲しい物資がある者は金とリストを用意しておけよ~!」
首都には村にない調味料なども売られているらしい。始めて向かう場所だ、盗賊うんぬんは置いておいて俺も楽しみだ。
各村人からのリクエストを受けた俺達は荷車二台を引き夕方前には村を出発した。
「ところでグレッグ、首都まで何日くらいかかるの?」
「あ~? そうだな、このペースで野営しながら進めば六日ってところかね」
「六日もかかるのか。遠いなぁ」
「道中何もなけりゃ五日でも行けるがな。魔物の襲撃とか盗賊とかな。言っただろ? 収穫が終わった辺りから冬までは盗賊が活発化するってよ。収穫物を売るためにみんな首都に向かうんだ」
「なるほどね。盗賊って多いの?」
「まぁ……な。食うに食えなくて盗賊になっちまうバカは多いぞ。真面目に働きたくない若い奴らが多いな」
ここで気になっていた事を尋ねて見た。
「そう言えばさ、みんな一つのジョブしか鍛えてないみたいだけどジョブを変えてみたりしないの?」
「あん? んな簡単に変えられっかよ。良いか?」
グレッグはジョブチェンジについて語り始めた。ジョブを変えるためにはまず教会に行き神官に高い金を払う必要があるのだとか。そこでジョブを変えるのだが、本人に資質がなければジョブを変える事はできないのだそうだ。
「え? 金払うのに変わらない事ってあるの?」
「あるよ。だから大体の奴らは生まれ持ったジョブをひたすら鍛えんのさ。隣の国の貴族やらはガキのうちから何度かジョブチェンジしてどんな才能があるか調べるらしいけどな。それも平民には遠い世界の話なのさ」
「そう……なのか。あ、あと! 仮に一番多くジョブを持つ人って何個くらいジョブ持ってるもの?」
「はぁん? そんなもん秘匿されてるに決まってんだろ? ジョブがわかれば対策されちまうからな。まぁ、上級職を持つ奴らは少なくて二つか三つは持ってるだろうよ」
俺は改めて自分のジョブを見る。
「……今のとこ十五はあるな。多分基礎職業が下級職で派生職業が上級職って認識か。これは言わない方が良さそうだ」
最後に最も重要な事を尋ねた。
「ガロンさんは狩人マスターしてるよね? グレッグは大工マスターしてるの?」
「はぁ? してねぇよ」
「え?」
「ガロンみたいに毎日何十年単位で狩りに出てたらマスターするだろうが俺みたいに片手間で大工してても上がらねぇの。マスターしてる奴はだいたいその道にだけ生きてきた年寄りくらいだぜ」
ガロンは今年五十歳になる。幼い頃から狩りだけに特化しようやくマスターするに至った。それに比べたら俺の成長は異常だ。これも秘密にしなければならないな。
「リヒト、右の草むらにホーンラビットだ」
「了解っと」
俺が撃つ前にガロンは反対側にいたホーンラビットを撃ち抜いていた。
「さすがガロンさんだ」
「気を抜くなよ? 道程はまだまだあるんだからな」
「はいっ!」
それから何体か魔物を倒し野営の時にその肉を使った。
「おいおい、また腕あげたんじゃねぇかお前」
「最近自炊が多かったからね」
「お兄ちゃんの飯うまぁっ!」
「わ、私ももっと料理の勉強しなきゃっ」
「はぐはぐはぐっ!」
野営では干し肉が基本だろうが俺とガロンがいれば肉は手に入る。水も魔道士にジョブチェンジしていくらでも出せるので料理には困らない。
「よし、今日はここで野営だ。すまんがガロンとリヒトは交代で休んでくれ」
「かまわないよ。ガロンさん先に休みますか?」
「わかった。警戒を怠るなよリヒト」
「はいっ」
そうして出発から六日目の朝、何事もなく無事に首都へと到着した。
「うわ、壁が高い!」
「あれが農業国家エリンの最大都市首都【ウォルン】だ。町に入るための列に並ぶぞ」
「あ、やっぱり並ぶんだ」
「当たり前だろ。この時期は各村から収穫物を持った奴らが集まるからな。かなり待つだろうよ」
「仕方ないかぁ」
俺達は町に入るための列へと並ぶのだった。