第10話 盗賊退治②
村から草原を歩いて半日、夜になる直前に襲撃にはうってつけの場所を発見した。
「ガロンさん、この辺り最高の狙撃ポイントじゃないですか?」
「ああ、両側に木があり上から狙える。木は身を隠すためにもってこいだな」
「いやいや、ちょっと狭くねぇか?」
両側の木々の間隔はおよそ五メートル。横並びで余裕をもって五人歩けるくらいの幅だ。
「いや、ここにしよう。盗賊達もバカじゃなければ多少は警戒するだろうしな」
「あ? 警戒されたらまずいだろ」
ガロンはグレッグ達二人に作戦を告げる。
「いや、この場合警戒させた方が勝ちだ。このポイントは陽も入らず薄暗い。魔物に襲われやすい場所だ。警戒すれば身体に力が入る。そこでお前達がいきなり木の陰から飛び出してみろ、奴らは一瞬硬直し身構えるはずだ。その一瞬の硬直を俺とリヒトで射貫く。仲間が倒れれば奴らは混乱しお前に叫ぶ。その隙に俺達で次々と射貫いてやる。気付いた頃には全滅だ」
ガロンの作戦を聞いたグレッグは目を点にしていた。
「はぁ~……。狩人って奴らはいつもそんな事考えてんのか?」
「当たり前だ。獲物だってバカじゃないからな。長くやってれば誰でもこうなる」
「リヒトはよ?」
「あいつは規格外だ。恐ろしく頭が回る。どうすれば無駄なく倒せるか経験ではなく、おそらく知識でわかっているんだ。だから作戦を口にしただけで理解し即行動できるんだ」
「いやいや、褒めすぎですよガロンさん。俺は自分の安全と早く終わらせるために知恵を絞っているだけですよ」
「……リヒト」
「はい」
ガロンが手で言葉を制する。俺はすぐさま左側の木に向かい、ガロン達は右側の木に向かった。
「よし、作戦通りに行くぞっ! 向こうにはガロンさんがついている。俺は俺の作戦を遂行するだけだ」
木に上り気配を消しながら闇に紛れ敵を待つ。敵の数は十二、撃ちもらしがなければ数秒でいける。
しばらく待つと反対側の木から弓矢が飛んできた。矢には紙が巻かれている。
「なになに……ふむふむ」
紙には作戦の詳細が記されていた。作戦はグレッグが飛び出す所からいくつかのパターンが記されており感心するしかなかった。
「凄い読みだ。これなら確実に勝てる。一番敵に回したくない人だよ。ん、近いな」
気配察知で盗賊が林の入り口に入った事がわかった。少し待つと松明を持った隣村の代表とグレッグが林から道に飛び出した。
「あん? 止まれお前ら。迎えがきたようだぜ」
盗賊の先頭にいた男が後ろに並ぶ盗賊達の動きを止めた。
「出迎えご苦労さん。わざわざ次の狩り場から案内しにきてくれたのか? なあ、臆病者よぉ~?」
「ひっ!」
「大丈夫だ、ここは俺が」
グレッグが隣村の代表を庇うように槍を構え前に出て叫んだ。
「おいおい、ずいぶん舐めてくれるじゃねぇか。それっぽっちの数でこの筋肉ダルマの俺に勝てると思ってんのか? がははははっ!」
「舐めるだ? たかが村人の農家が使う槍なんぞ警戒するまでもねぇんだよ。バカが」
盗賊達から笑いが上がる。狙うなら油断しきった今しかない。俺が矢を放つと同時に反対側からガロンの矢も放たれた。
「なっ! 伏兵かっ!! クソがぁっ!」
「か、頭ぁぁっ! 木の上から矢が! いっ!?」
一射一殺。俺とガロンの放つ矢は確実に素早く一人ずつ当てていく。次々と仲間が倒れる様子に怖気づいた盗賊団のリーダーと隣にいた男はグレッグに背を向け逃げ出そうとした。
「あん? おい、逃げんのか? クソ雑魚の臆病な盗賊さんよぉ~?」
「ああっ!? テメ──ぐっ!!」
最後は二人同時に倒す。気配が動かなくなった所で俺達は木から地上に降りた。
「ガロンさん! 作戦がハマりましたね!」
「ああ、上手くいきすぎたな。グレッグ、最後の挑発はなかなかだった。あれで動きが止まったからな。狙いやすかったぞ」
「ブハーッ! 寿命が縮んだぜ!」
「す、凄かった……。私達を苦しめた盗賊団が一瞬で全滅だなんて……は、はははっ。助かったぁ~……」
隣村の代表はヘナヘナと地面に崩れ落ちた。
「リヒト、眠りの効果はどれくらいだ?」
「矢に塗った量だけじゃ一時間くらいかな。今から一瓶ずつ飲ませて一カ所にまとめて運ぼう。一瓶飲ませたら三日は何しても起きないよ」
「よし、手分けしてまとめるか」
四人で手分けしながらスリープポーションを飲ませ一カ所にまとめる。盗賊団に死者はなく全員傷があるだけだ。
「リヒト、すまんが村から荷車運んできてくれないか? お前一人なら往復でも片道くらいの速さで行けるだろう? ついでに長にも無事を伝えてきてくれ」
「わかった」
俺は全速力で村まで走った。疲れはスタミナポーションで回復し半日歩いた道を数時間で到着した。
「は? お、終わったのか?」
「はい。十二人全員眠らせてます。あ、荷車借りますね。今から戻って運んできますよ」
「そ、そうかっ! もうすぐ夜明けじゃ、村の皆にはワシから伝えておこう。危機は去ったとな」
「はいっ、お願いします!」
俺は荷車を引き昼前にはグレッグ達と合流した。荷車には村から戻る際にグレッグの奥さんから持たされた四人分の食事が積まれている。
「あいつ……気が利くじゃねぇか」
「リヒトは先に食べていてくれ。疲れただろう? 積み込みは俺達三人がやろう」
「え? いや、スタミナポーション飲んだから別に疲れては」
「この位させて下さいリヒトさん」
「わ、わかりました」
一足先に食事休憩に入り盗賊達が荷車に積まれていく様子を眺める。
「あの、ガロンさん。気になったんですけど殺さなくて良いんですか? 眠らせてどうするんですか?」
「ああ、殺さなくて良いんだよ。こいつらは首都に連れていき兵士に突き出すんだ」
「ふむふむ」
「盗賊は罪の重さに関わらず一週間首都にある広場で磔刑にされる。飲まず食わずで一週間だ。地獄の苦しみを味わうだろう」
「ひぇ~……」
全て摘み終えたグレッグがパンを手に取りながら言った。
「いわゆる見せしめってやつよ。盗賊は捕まったらこうなるんだって国民に見せつけるんだよ。磔刑にされてる間は石やらゴミを投げつけられるんだわ」
「それも嫌だなぁ」
「盗みだけならまだしもこいつらは村一つ潰してやがるからな。下手すりゃもっと殺ってるかもしれん。あんたも復讐に行くだろ?」
隣村の代表は盗賊達を見ながら拳を握った。
「行きますよ。こいつらは私の両親と妻を殺しました。今すぐにでも殺してやりたいくらいですが……こいつらには苦しんで苦しみぬいてから死んで欲しいですから」
「そうだな。運搬は他の被害者も連れて行こう」
「ありがとう……ございましたっ!」
こうして盗賊による脅威は去り、俺達は村へと戻ったのだった。