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「本当にあった怖い話」シリーズ

気のせいです

作者: 詩月 七夜

 ここ最近のうわさだが、友人のK子に彼氏ができたらしい。


 K子とは小学校から一緒になり、中・高も一緒だった。

 大学に進学した際、私は地元の大学へ、K子は東京の大学にそれそれ別れてしまった。

 特に喧嘩もなく、良い距離でつるんでいたので、お互いに離れ離れになる時はとても寂しかった。

 その後は、電話やメールなどでやり取りをしていたが、離れてしまうとお互いを取り巻く環境や激変するライフスタイルなどのせいで、徐々に連絡も途絶えがちに。

 そんな折に、風のうわさでK子の恋人のことを耳にした。


 私たち二人は、高校まで彼氏はいなかった。

 年頃になると恋バナこそしていたものの、いざアクションを…となると腰が重い。

 互いに気になる男子はいたものの、奥手な性分もあり、慰め合うように将来出会えるであろう相手のことを語り合うのがせいぜいだった。


 そんなK子に、ついに恋人ができたという。

 K子は私以上に大人しく奥手だったので、先を越された感があった。

 しかし…何故私に報告をくれないのだろう。

 もしかしたら、いまだ独り身の私に気を遣ってのことなのか。

 だとしたら、水臭いにもほどがある。

 確かに先を越された悔しさ・寂しさはあるが、K子とは長いつき合いだったし、気心の知れた間柄だと思っている。

 互いの性格から黒歴史まで共有した仲なのだ。

 素直に祝福する気持ちくらいは余裕で持っている。

 なので、早速K子に電話をすることにした。

 久しく会ってないし、何なら次の連休で東京見物がてらに再会し、恋愛成就のお祝い会を開いたっていい。

 久々に聞けるであろうK子の声に、ワクワクしながら発信する。


 すると…


『お客様がおかけになった番号は、現在使用されておりません…』


 無機質なアナウンスが流れ、私は呆然となった。


 …どういうことだろう…?


 聞いた話だが、このアナウンスは電話番号の所有者が解約したり、番号を変えたりした時に流れるものだ。

 あと可能性としては、電話料金を滞納して、強制解約されたかになる。

 K子は真面目な性格なので、もし電話番号を変えたなら、絶対にメールとかで教えてくれるはずだ。

 電話料金滞納なんて、可能性としてもっとない。

 彼女は金銭面もしっかりしていたし、料金滞納や借金なんかが大嫌いだった。

 軽くショックを受けた私は、しばし考えた挙句、K子の実家を訪ねてみることにした。

 彼女の家族とは小さい頃から顔見知りで、K子が上京した後も懇意にしている。

 もし、何か事情があるならば家族なら何か知っているはずである。

 そう思ってK子の自宅へ行くと、K子の妹ちゃんが出てきた。

 他愛ない挨拶から、本題である連絡不能のK子のことを尋ねると、


「ああ、何か知んないけど、いま電話番号を変えてるみたいだよ」


 と、あっけらかんと教えてくれた。

 私はホッとした。

 しっかりとしたK子には珍しく、連絡ミスがあったらしい。

 安心したついでに、私は妹ちゃんにK子の彼氏についてもこっそり尋ねることにした。

 すると、そのうわさについては何と妹ちゃんが出所であることが発覚した。

 何でも妹ちゃんがK子に電話した際、自宅にいるようだったが、男の人の声も聞こえたらしい。

 そこで追及すると、K子が慌てた様子で「恋人が来ている。恥ずかしいから家族には内緒ね」と口止めしてきたという。

 が、妹ちゃんは友達につい話してしまい、それが回りまわって私の耳にも届いたわけだ(何せ田舎である)。

 ここまで聞き、私はうわさが本当であることを確信できたので、早速電話してからかってやろうと思った。

 で、妹ちゃんにK子の携帯番号を尋ねると、快く教えてくれた。


「ちょっと待ってね…ええと、これは先月の番号だから、一番新しいのは…」


 自分の携帯をいじりながらそう呟く妹ちゃん。

 それに私は違和感を覚えた。

 先月の番号…?

 一番新しいの…?

 どういうことだろう。

 K子のやつ、そんなに頻繁(ひんぱん)に電話番号を変えているのか?

 その辺のことを妹ちゃんに聞くと、


「迷惑電話対策で、こまめに変えてるって言ってたよ。家族は面倒だから、勘弁して欲しいよね」


 とのこと。

 ふむ…

 私も経験してないのでよく分からないのだが、東京での暮らしとなると、迷惑電話やら勧誘とか、色々と厄介なことがあるのだろう。

 ましてや、女子の一人暮らしである。

 気を張っておかなければいけないのかも知れない。

 私は妹ちゃんにお礼を言うとK子の家を後にした。


 その日の夜。

 お風呂と夕飯を済ませ、自室でまったりしている最中、私はK子に電話をかけることにした。

 時間もそう遅くはない。

 学生時代のK子のなら、そろそろくつろいでいる頃だろう。

 ドキドキしながら発信する。

 すると、数回のコール音のあと、


『はい…』


 懐かしい親友の声がした。

 私は思わず相好を崩す。


「ハロー、元気してた?薄情者」


『…誰ですか?』


「T美(自分の名前)だよ!忘れちゃった?」


『T美!?ホントに…本当にT美なの!?』


「当たり前でしょ。高校の時、運動会で一緒にラインダンスしたT美を忘れた?あんた、靴すっ飛ばして校長先生に命中させてたでしょ?」


 証拠代わりに学生時代の赤っ恥エピソードを披露すると、K子の声が震えた。


『K子…K子…ごめん…ごめんね…連絡しなくて…本当にごめん…』


 私はそこで黙ってしまった。

 何だ?

 K子の様子がおかしい。

 連絡をぶっちぎっていた私に対する謝罪の思いもあるのかも知れないが…何か、雰囲気が重いというか、張りつめているというか…


「K子…あんた、大丈夫?」


『……』


 もはや、すすり泣くだけのK子。

 私は改めてその尋常じゃない様子に、寝転んでいたベッドから思わず立ち上がった。


「K子、何があったの!?泣いてちゃ分かんないよ、話して!?」


『T美…私…もうダメかも…』


 縁起でもないその一言が聞こえた瞬間だった。












「気のせいです」












 突然。

 若い男の声がして、電話が切られた。




 そこから先は急転直下だった。


 どう考えも異常なK子の様子に、私は急いでK子の実家へ向かう。

 そして、突然の私の来訪に驚くK子の家族。

 構わず、私は彼らに今しがたK子と交わした会話の内容を全部ぶちまける。

 顔面蒼白になる両親と、不安で泣き出す妹ちゃん。

 K子のお父さんは、すぐさま上京の準備と手配をし始める。

 お母さんは、K子の下宿の最寄りの警察署を調べ上げるとすぐさま連絡し、事情を説明したうえで「お願いだから警官を派遣して、様子を確認して欲しい」と依頼。

 どうにか警官を手配すると、自分も上京の準備をする。

 私は妹ちゃんと二人でK子の家で待機。

 その間、何度もK子の携帯を呼び出した。

 が、今度は何度電話しても留守電になるばかりだ。

 嫌な予感で頭の中が埋め尽くされる。


 そうして不安な夜を過ごしていると、夜半過ぎにK子のお母さんから連絡が入る。

 お母さんは疲れた声で、


「心配かけてごめんね…でも、もう大丈夫よ」


 その一言に、私は妹ちゃんと抱き合って泣いた。



 結論から言うと、K子は上京して間もなくストーカーの被害に遭っていた。

 帰宅道の待ち伏せに始まり、出したごみは荒らされ、無言電話は日に何回もあったという(頻繁に電話番号を変えたのはこれが理由らしい)。

 怖くて下宿先のアパートから出ることも出来なくなり、家族に助けを求めようとした矢先、その動きを察したのか、ストーカーが家に押し入ってきて、K子を監禁。

 大学にも行けない中、友人もいなかったK子は、ストーカーに支配された日々を送る羽目になった。

 家族に助けを求めようにも、外部と連絡をとることができる携帯電話はストーカーに管理され、それもかなわない。

 また、外部からの連絡を断つため、電話番号も無秩序に変えられてしまった。

 ちなみに実家とも音信不通になると怪しまれるので、電話番号を変える度に実家には報告していたようだ。

 で、偶然、妹ちゃんとの通話の際に漏れてしまったストーカーの声は「彼氏」とごまかさせたという。

 そんな折、私がK子に電話をしたことが切っ掛けとなり、事件が明るみに出たという。

 ストーカーは下宿に来た警官たちに確保され現行犯で逮捕。

 K子は無事に保護され、上京した両親とも再会できた。


 その後、K子は東京の大学を退学し、自宅で療養をした後、地元の大学に入学した。


 いま、私はK子の先輩として同じサークルで、高校時代の延長のような毎日を過ごしている。

 ちなみに、お互い春は遠いようだ。


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[良い点] ヒエッ…ホラーの中でサイコホラーは精神ダメージでっかい… [気になる点] まぁ後味悪い系の心霊ホラーが大好きなんですけどね
[良い点] 無事に解決できて良かったです 受けた傷は深いですが、ゆっくりと時間をかけて癒していけたらと思います [一言] こんな事が身近に起きると怖いですね((((;゜Д゜))))))) すぐに気づい…
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