【第1章】訪問者その一
時は遡る。
ひらりと舞い散る桜の花びらが、輝く黄金の錦糸の上にふと止まる。
それを長く整えられた爪がさっと振り払った。
人目を引くその髪色は、今日のこの日の為に染め変えたもの。
丹念に巻かれたその毛先は、ファッション雑誌の入念な研究による賜物だった。
彼女は急な坂の上に聳える校舎を仰ぎ、志を確かめた。
今日から私は変わるの…。
いつもの様に高橋が自分の城、保健室でくつろいでいると、がらり、扉を開く者があった。
ふと音のする方に目をやると、これだ、これ!
正しく、高橋の望んでいた理想の光景がそこにはあった。
扉に少し不安げに佇む、一人の少女、その面持ちは何か悩ましく、いかにも高橋の助けを必要としているような感じであった。
この学校には珍しく、髪を金色に染め上げ、胸まで続く巻き髪にセットしており、スカートは中が見えそうなくらいミニなもの、耳にはピアス、そして顔は高橋張りの濃ゆい化粧をしているが、その作りは端整で、見るからに美少女であった。
そう、あの佐々木ナントカってアイドルに似ている。
余りの嬉しさに顔面笑顔のまま止まっている高橋を困った様に見つめながら、「あの…」と少女は口を開いた。
「あ、はいはい?どうしたの?」
気さくな先生を気取るあまり、喋り方がなんかおばちゃん臭くなってしまった。
「あの…頭が痛いので休ませてもらえますか?」
「あ〜どうぞどうぞ、ゆっくりしてってね。」
ここは自分の部屋か!と一人のり突っ込みを内心しながら、高橋はバインダーを取り出した。
「えっと…、ここにクラスと名前を記入してくれるかな?」
「あ、はい…。」
少女は可愛らしい癖字で「中村庵子」と記入した。
クラスは1年A組らしい。
自分の望んでいた展開に心をおどらせながら、高橋は庵子を保健室のベッドへ案内した。