SSSの実態
振り払うように富男さんが注いでくれた日本酒をマイおちょこでぐいと飲む。
「お、良い飲みっぷり!」と、老人達はもとのテンションを取り戻した。
紅一点、(正確には高橋も入れたら二点だが、)靖子おばあちゃんがお夕飯を持って来てくれた。
今日のご飯は、マグロのお刺身に、切り干し大根の煮付け、ほうれん草の煮浸しに出し巻き卵、と独身男性が喜びそうな家庭の味が満載だ。
「ありがとう、おばあちゃん。いただきます。」
両手を合せると、高橋は幸せそうにそれを全て平らげた。
高橋はおばあちゃんも、おばあちゃんが作る料理も大好きだ。
それは、小さい頃両親を亡くした高橋を母親代わりに育ててくれたのが、靖子おばあちゃんだからだ。
何か嫌な事があると、高橋は何でもおばあちゃんに相談していた。
そんなとき、おばあちゃんはいつも黙ってうんうん聞いてくれて、「やよちゃんの思う通りにやってごらん。」と言うのだ。
そして、そんな靖子おばあちゃんのご主人、つまり高橋の血のつながった祖父が猛おじいちゃんである。
猛おじいちゃんは実はこの辺りではちょっと有名な地主で、市議会委員をしていたこともある。
本当は今は亡きお父さんが後を次いで議員になるはずだったのだが、それが叶わなくなり、今は不動産の仕事や株でひっそりと仕事を続けているのだ。
その猛おじいちゃんの友達、通称スーパーシルバー6(シックス)略してSSSが今一緒にお酒を飲んでいるそれ以外の老人である。
猛おじいちゃん含め、彼らは結構ひょうきんな老人達だったので、自分たちの事を愛称で呼び合っていた。
そして、そんなおちゃめさにも関わらず、町内会ではかなり顔を利かせた老人達であった。
まず、レッドシルバーが猛おじいちゃん。説明済。
ブルーシルバーが大山富男さん、73歳。
元、自衛官で「体力は若いもんにまだまだ負けてられない」が座右の銘。
その気合いだけは常に若者以上をキープしている。
グリーンシルバーが緑川楓さん、60歳、SSSでは最年少。
元、ヘチマコンテストの優勝者であり、現在は世界一長いキュウリを開発中。
その若さ故に、皆のマスコット的な愛されキャラである。
イエローシルバーは、唯一の外国人爺様、モハメド・アランで年齢不詳。
その眼光は鋭く、無口なハードボイルドで裏の顔が在りそうで無さそうな。
たまに口を開くと流暢な東北弁が、更に渋さをかもし出している。
パープルシルバーに最近任命されたのが、大楽大門、88歳で最多年。
動物飼育員という職業を定年退職後、「動物の顔真似から動物言語を」という書籍を執筆。
一般人では中々取得に難しい技術であったが、大門本人の写真付きのアイディアが大ヒット。
子供を笑顔にさせる絵本としても、紹介されている。
そして、実はその優しい靖子お婆ちゃんがピンクシルバー、61歳。
5シルバー全員一致でお色気担当をキャッチコピーにしたいようだが、高橋としては靖子おばあちゃんにはそういうキャラになって欲しくなはい。
本当は影のリーダーだと思っているし。
酔っぱらって雑魚寝する5シルバーに布団をかける靖子おばあちゃんを見ながら、高橋は夕飯の洗い物をしていた。
家にも満足している。
SSSは皆彼女にはとても優しかったし。
そして、職場の人間関係にも満足している。
保健室の座談会は楽しいし。
しかし。
しかしだ。
もう少し、若いエキスをくれ。
「生活に潤いを…。」
高橋弥生は誰にも聞こえないように、呟いた。