団体客
そんな会話が一枚の扉を隔てた向こう側で繰り広げられていたとはつゆ知らず、アランと茂奈香はせっせとカレーをこしらえていた。
今日は珍しく団体客が来ており、ナンのおかわりが沢山入る。
アランの店では大きなバター付きのナンは食べ放題で、それも店が人気の理由の一つであった。
「茂奈香さん、ちょっと外手伝ってよ!」
紫のサリーに身を包んだマリアさんが茂奈香に助けを求めてきた。
厨房も忙しいが、フロアもてんてこ舞いの様だ。
茂奈香がとなりでナンを焼くアランをチラリと見ると、アランは行ってやれと合図を出した。
「チキンと野菜のレッドカレー、お待たせいたしましたぁ。」
賑わう団体客のテーブルにカレーを二皿持って行く。
すると団体客はメニューを持って何かを指さし、興奮して茂奈香にわめき散らした。
日本語じゃない言葉で会話をしているところを見ると、どうやら海外からの客らしい。
茂奈香は昔読んだ世界の辞書を思い出してみた。
『ちょっと!品切れってどういう事よ!』
『?どちらですか?』
興奮していた客の集団が一斉に茂奈香に注目する。
どうやら突然現れた小さな少女が自分たちの言葉を話せる事に驚いたらしい。
彼らの口調が急に穏やかになった。
『あら、あなたはスワヒリ語が話せるのね。このカクテルって売り切れなのかしら?』
『えっと…、そうですね。SOLD OUT、売り切れです。』
『でもね、私達このカクテルが目当てでここまで来たのよ?それって無いんじゃないかしら?』
団体客のうちの一人が口を挟む。
『そうだぞ。ここの名物なんだろ?ガイドブックに載ってるんだ。』
アランのカレー屋、日本では宣伝していないのに、意外なところで有名らしい。
茂奈香はミシュランを期待した。
『そうね、店長に聞いてみる。待ってて。』
『頼むよ、お嬢ちゃん。』
異国の団体客の期待を背に茂奈香は厨房に駆け戻った。
「アランさん!ミシュランが来てます!」