アランの過去
「アランが姿を見せなくなってから数年たって、わしは念願の当選を果たした。
政治家の仕事も軌道に乗り、マニフェストとして掲げていた政策にいよいよ本腰を入れようという時じゃった。
一通の手紙が届いた。
宛名は無い。
封を切ろうとしたわしを当時のボディーガードが止めた。
確かに、白く味気ない封筒に不自然に整えられた文字に何か嫌な予感はしたんじゃ。
ボディーガードは慎重に封を開けた。」
「それで…?」
緑川がごくりと唾を飲み込む。
「それは脅迫状じゃった…。
政策を中止しないとわしの命に関わるという内容じゃった。
しかし、そんな事で政策を中止させる事はできないし、ただの悪戯の可能性の方が高い。
厳重警護という形でそのまま政策は進められる事になった。」
「悪戯にしても良い気はしないですな。」
大山が眉間に皺を寄せて言った。
「まぁな、しかしこの手の事は良くあるんじゃよ。
で、ここでアランとわしはもう一度巡り会う事になる。
わしの警護にあたってくれたのがアランだったんじゃ。」
「えっ、どういうことです?」
「たまたまなのか、それともアランはその脅迫状の何たるかを知っていたのか解らん。
警備員の募集に彼は応募していたようじゃ。
新人のアランはわしのボディガードではなく、事務所の警備に当たっていた。
そしてある日、彼は事務所の周りをうろついていた一人の不審者を捕まえた。
その日は丁度、わしがある事業に対し予算削減を提案する事になっていた日じゃった。」
「とすると、その不審者は予算削減の対象になっていた事業の関係者ということですか…?」
緑川が腕を組みながら尋ねる。
「それは結局解らなかった。
しかし、ヤツはプロじゃった。
どこかの組織に属している事は確実じゃった。
きっとわしの政策に反感を持っていた一味が組織に依頼しておったのじゃろう。
その一件でアランは本格的にわしのボディーガードとして警護をしてくれるようになったんじゃ。
仲間うちでも本当に彼のカンの鋭さや体術は評判になっていった。
中にはその技術を見てどこかのスパイなんじゃと怪しむ奴もいたが…。
ともかく、アランの活躍でわしは今こうして愛するピンクシルバーと孫の弥生と幸せに暮らせている。
彼には本当に感謝しておるんじゃよ。」
「い…良い話ですな…。」
大山の瞳がかすかに潤んでいる。
声が震えているのは、高橋猛の話を聞いている間中空気椅子をしていたせいなのか。
「アランが受けた傷は本来わしが受けるはずだった傷…。
もし今アランに何かあるのだとしたら、今度はわしが助けてやる番だと思っておる。」
高橋猛はカレー屋の扉を見つめながら言った。
「レッドシルバー、私も強力しますよ。我々は仲間じゃないですか、Super Silver Sixの!」
緑川は目尻に浮かんだ涙を持っていたタオルで拭うと、ついでに鼻も勢いよくかんだ。
「もちろんわしも協力するぞ。この筋肉はSSSの為に磨き続けているのじゃからな!」
大山が上腕二頭筋を笑顔で動かせて見せた。
「ありがとう…、グリーンシルバーにブルーシルバー。やはり仲間って良いな。」
三人の老人は友情を確認しあった。