3人の老人
結局教室を追い出されてしまった茂奈香はアランのところに行く事にした。
白いブラウスに濃紺のスカート、エメラルドグリーンのリュックを背負った女子高生は次々とわかりにくい小道の角を曲がって行く。
彼女の興味はもはや完全に「壷」から「蛇」に移っていた。
動物の飼育にはもともと興味があり、犬、猫、猿、兎、鳥、魚、亀、蟹、ハムスター、鈴虫は飼った事がある茂奈香であったが、音に反応して動く蛇には今までにない魅力を感じていた。
やはり飼うなら、「ニシキヘビ」かしら?
首に巻き付くニシキヘビを想像するととてもウキウキした気持ちになってくる。
そんな事を考えているうちに、お目当てのカレー屋の看板が見えてきた。
店の入口には特徴的な老人が3人立ち話をしている。
一人は白髪に口ひげを蓄えた貫禄のある老人、一人は長身で日に焼け、迷彩柄のつなぎを着込んでおり、そしてもう一人は白いランニングに黒い長靴、タオルを頭に巻き付けていた。
老人たちは口々に何かを捲し立てていた。
「イエローシルバーの奴、最近付き合い悪いんじゃないかい?」
「そうじゃなぁ、この前も乾布摩擦断りおったわい。」
「まぁ、季節も夏ですしねぇ…。あ、わしの野菜の収穫にも来てくれなかったですなぁ…。」
「あの後皆で冷やしたトマトともろキュウで一杯やったの美味かったのう!」
「いや〜、あれは良かった。」
「それよりレッドシルバー、ちょっと気になるニュースを耳にしてな?」
「もしかして…、アレか?」
「そう、アレじゃ。」
「…。」
「アレって何ですか?」
入口で大いに盛り上がっていた老人達は、茂奈香が迷惑そうな目で立ち尽くしているのを見つけると、ぴたりと会話を辞めた。
その表情は何人たりとここから先の情報は知らせまいとする、威圧感が漂っていた。
ただ、タオルを頭に巻いた老人だけは、話の内容についていけてないようで、茂奈香に微笑みかけた。
「お嬢ちゃん、ごめんよ、どうぞ。」
「スミマセン…。」
茂奈香は老人達を避けて店の中に入って行った。
老人達の声が背後からまだ聞こえる。
「あの、麻薬密売のニュースさぁ!」
老人達は皆声が大きかった。