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五月病?

桜は散り、GWも過ぎ、高橋弥生はグラウンドをぼんやりと見つめていた。

憧れの保健室ライフ、今やその空想は打ち砕かれ、彼女は五月病のごとくやる気を失っていた。

何故なら、保健室に来る生徒がほとんどいないのだ。

何て健康な子供ばかりが集まった高校なのだろう。

一人ぐらい病弱な生徒がいてもいいはずなのに。

「保健室といったら…」高橋は何度も思い描いてきた光景をもう一度思い出す。

大抵はクラスに馴染めない子や病弱な子が通いつめ、優しい保健室の先生はそんな子達と心を通わせる。

子供達は懐き、慕い、保健室ならではのなんとも平和で穏やかな空間が出来上がるのだ。

内緒でお菓子なんか食べちゃったりして。

高橋はため息をついた。


「私が高校生の時はそんなだったんだけどなぁ…」


理想と現実とは後少しのところですれ違うものである。

確かにここは平和で穏やかな空間だった。

お爺ちゃんがタバコをふかす匂いに、机に置かれたお煎餅各種、誰が持って来たのだろういつの間にやらスポーツ新聞なんかも置いてある。

ん、これは軍手、ランニングシャツ…穴のあいた靴下までこんな所に!

高橋がいつの間にやら出来上がった現実に戦いていると、ガラガラと扉を開けて人が入って来た。


「さーぁ、お茶にすっぺよ。」


「弥生ちゃん、今日はおまんじゅう持って来たよ。昨日娘夫婦が遊びに来てねぇ。」


「おうい、わしの靴下知らねぇか?」


「大山先生ですかっ!ここに靴下置いたの!」


乙女の園に穴空き靴下を放置した大山教員に脳内飛び蹴りをくらわせながら、高橋はにっこり微笑んだ。

その瞳の奥が笑っていなかった事は言うまでもない。


「ごめんごめん、ちょっと臭っちゃったか?カッカッカッ!」


全く気にしない大山教員は豪快に笑う。


「弥生ちゃんは年頃なんだから、駄目ですよ、大山先生。」


丸めがねの七三分け、推定55歳の狭山教員が呆れたようにフォローを入れてくれる。

そして、そこから話の変化球を投げてくるのがピッチャー新井。

推定62歳。


「年頃って言ったら、弥生ちゃん、結婚の方はどうなの?やっぱり教員は腰掛けなの?」


「あははははは…。」


ここは笑って見送ろう。

友達には夢は寿退社と豪語しているのだが、出会いが全く無くなった今、そんな夢みたいな事も言っていられなくなった。

実際、腰掛けとバレてここから追い出されでもしたら、彼氏もいない、職もないで路頭に迷うことになる。

もちろん祖父達の介護費用だってこれから必要になってくるだろうし。

そんなこんな考えながらも、何となく和んでしまう春の午後。

緑茶とおまんじゅうと老人に囲まれ、幸せと思ってしまう自分にやっぱり焦りを感じる高橋なのであった。

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