古き悪き伝統
この港第一女学院の魅力は落ち着いた気品溢れる伝統と校風である。
生徒達は高校3年間を整った環境設備と、自然に溢れた閑静な土地で落ち着いて勉学に励む事が出来る。
もちろん運動部や文化部といったクラブ活動も盛んで、充実した3年間が保証されている。
教員も経験豊富なベテランが多く、生徒個人個人に目を向ける様指導されており、思春期特有の恋愛の悩みなどといったものは、相談してもいないのに進んで聞き出そうとする張り切り過ぎな教員もいたりいなかったりする。
要するに、この港第一女学院という高校はとてもアットホームで落ち着いた校風なのである。
その中で唯一生徒達が忌み嫌う伝統があった。
それは、「テストの順位貼り出し」である。
今や殆どの高校でこのような風習はないのだが、ここでは余りにおっとりとしたお嬢様が多いので、少しばかり競争心を駆り立てねばという、校長の懸念から今もなお継続され続けているのである。
しかし、学力アップに繋がる良い事ばかりではないのが現状である。
まずここに一人、完全に打ちひしがれている女生徒がいる。
「先生…、今日ベッドで寝かせてください…。」
いつもはクラスの華的存在である金髪美少女、中村庵子である。
その日はいつもの全身からほとばしるショッキングピンクのオーラを全く感じさせないほど、灰色であった。
「庵子ちゃん、テストどうだった?」
空気の読めない保健教員は少女に尋ねた。
「聞かないでくださいよ〜!先生のばかぁ〜!」
大粒の涙をぼとぼとと落としながら、彼女は保健室のベッドに勝手に潜り込み、カーテンをシャッと閉めた。
きっと想像以上に悪かったのだろう。
後で確認しに行ってみよう。
ちょっと性格の悪い高橋である。
「ま、テストが悪くたって死にやしないって!」
カーテンの向こうからは返事は返ってこなかった。
そういえば、と高橋は思った。
この前保健室受験した子はどうだったのだろう。
林茂奈香さんていったっけ。
開始5分で突っ伏していた少女、彼女も今頃打ちひしがれているのだろうか。