連絡網
「涼平!?どうしたの、その格好!?」
店内がざわめく。
ファミレスで食事を楽しんでいた客の中には眉をひそめる人もいるほど酷い格好だ。
まるで乞食、といったら言葉は悪いが実際そのようなものだった。
「俺の事はどうでもいい。それより皆、庵子が無事だったんだ!何で平然としてるんだ?」
麻美や、哲太、そして庵子の顔がきょとんと涼平を見つめ返す。
「…え?何でって、昨日皆で庵子の無事を喜んだじゃない…。」
麻美が不振そうな顔で涼平に言い返した。
しかし、ふと何かを思い出したように付け足した。
「そういや、涼平、昨日いなかった?」
「そうだ、涼平、昨日バイト休みだったよな!?」
哲太も思い出したという風に頷く。
「もしかして…、庵子が見つかったって連絡いってなかったの?」
今度は涼平が呆然とする番であった。
「なんだよ…それ…。」
いつも冷静沈着、ほぼ無表情な涼平の回りに殺気のオーラが立ちこめる。
余りの怒りの大きさに涼平にまとわれたボロ布など、破け飛びそうな勢いだ。
そんな事になってはさすがに公衆の面前的に危ない。
麻美と哲太は悪寒を感じ、ぶるっと身震いをした。
「いや…てっきり、高橋先生から連絡いってるだろうって思って!」
「そうそう、確か涼平には私から連絡しとくよって高橋先生言ってたよね!?」
焦りながら記憶を呼び起こす二人。
そして、その努力のかいもあり、涼平の怒りの鉾先は高橋に向けられたのだった。
「弥生…あいつ…。俺がどれだけ探しまわったと思って…。」
無表情な瞳から涙が一筋流れ落ちた。
行き場のない怒りと安堵が籠った、そんな雫が固くこわばった頬を伝う。
「も、いい。帰るわ。」
突然流れた自分の涙に戸惑いながら、涼平がファミレスを後にしようとしたその時だった。
涼平の背中に何か暖かいものが被さってきた。
「涼平…心配かけてごめんなさい。」
庵子だった。
「私なんかのために、こんな探しまわってくれたの…本当にありがとう。」
ゆっくりと振り返ると、大きな瞳を涙で潤ませた庵子の顔がそこにあった。
少しマスカラが涙で滲んでパンダ顔になっている。
ふっと涼平は微笑んだ。
「いや、本当に無事で良かったよ。」
次から次へと溢れて止まらない庵子の涙を指で拭ってやると、軽く髪を二度撫でた。
ふわふわとした柔らかい髪だった。
そしてそのまま、レストランを後にしようとした。
「涼平!私…涼平が好き!!!」
庵子は叫んでいた。
自分でも何故いきなりこんな事を言っているのかわからない。
しかし、今言わなくちゃだめだ、そんな気がしたのである。