美少年
「あの俺…麻美と同高の鮎澤圭太っていうんだけど。」
美少年が庵子に一歩近づき話しかけた。
やはりこの人が麻美の言ってたイケメン鮎澤先輩に間違いなかった。
庵子の胸が急速に高鳴りだす。
「前に中村さんのこと、ここで見かけた事があって。その時からすげぇ可愛い子だなって…思ってました。」
「おおおおっっっう!!!」それを聞いた周りがはやし立てる。
「今って彼氏とかいるの?」
美少年は真っすぐに庵子を見つめながら、少し首を傾げた。
「いえ…いないデス…。」
緊張で上手く声が出ない。
ヒューィと誰かが口笛を鳴らした。
「もし、良かったら俺と付き合わない?」
若干予想はしていたけれど、実際に口に出されると心臓が飛び出しそうになる。
それに、まさかこんなに早い時点で告白されるとは思ってもいなかった。
だって、こちらとしては出会ってまだ5分にも満たない。
確かにこんなイケメンが付き合おうって言ってくれているのはなかなか庵子の人生の中でめったに起こることではない。
こんなチャンスを蔑ろにするのも気が引ける。
でも、やはり会って5分では何とも…。
ふっと視線をあげると再び透き通った瞳と目があった。
しどろもろで顔の上気が隠せない庵子に対して、その先輩はとても落ち着いているように見えた。
真剣、でもどこか余裕のある表情。
きっと女の子に振られた事なんてないんだろうな、と庵子は思った。
とりあえず、考える時間が欲しい。
そう伝えようと意を決したその時だった。
「庵子!!!お前…無事だったのか!!!」
聞き覚えのある声が店内に響き渡った。
固唾をのんで二人の告白の行方を見守っていた観客の視線が一斉にそちらに注がれる。
庵子と鮎澤も同時にそちらを振り返った。
そこには、息を切らせた涼平が立っていた。
そして何故だかその身には、見るにも耐えぬぼろ雑巾のような小汚い布切れがまとわれていたのだ。