ファミレス復帰
翌日。
庵子はファミレスの店長の計らいで、通常のシフトに戻る事が出来ていた。
勿論、こっぴどく叱られた後の事だったが、今まで真面目にバイトに励んできた分を考慮してくれた店長の優しさからだった。
ファミレス内は以前と変わらない高校生達のお喋りが聞こえてくる。
「庵子、この前の合コンの話覚えてる?」
麻美が辺りを見渡しながらひそひそ声で話しかけてきた。
「あ、すっかり忘れてた。色々あったもんね、ははは…。」
苦笑いの庵子。
麻美は更に小声で続ける。
「あれ、庵子が来ないってなったら、鮎澤先輩、超がっかりしちゃってさぁ…。」
「そっか…ごめん…。」
「いや、今日直接会いに来るって!」
「ええぇぇぇえ!?」
庵子が突然の事に驚き声をあげると、店長にじろりと睨まれた。
復帰したばかりの庵子は立場的に弱かった。
急いで口を押さえるが、その動作は余り意味をなさない。
麻美はにやにやしながら、庵子から離れていった。
「いらっしゃいま…あ、せんぱ〜い!」
「あさみ〜、食いに来たよ。」
何人かの男子高校生が賑やかに店内に入って来た。
どうやら、会話の様子からして麻美の知り合いのようである。
きっとその、噂の鮎澤先輩のご一行かしら、と庵子は緊張した。
と、その中で一際背が高く目立った男性とふいに目が合った。
綺麗な顔立ちである。
二重まぶたの優しそうな瞳に鼻筋の通った高い鼻。
少し長めに伸ばした髪はライトブラウンでさらさらで、白い肌にとても似合っていた。
特別好みでないとしても、なんだか目が合っただけでドキドキしてしまう、そんなオーラをもった人である。
2、3秒。
何故だか視線を逸らせずに、庵子とその男子高校生は見つめあう形になった。
心拍数が上がってくる。
さっき、麻美が変な事を言うからだ。
庵子は我に返ると、その新客に水を用意しようと身を翻した。
「あ、待って!」
突然背後から呼び止められ、庵子は立ち止りゆっくりと振り返った。