誘拐犯
突如、背後で凄まじい叫び声が上がった。
「うぎゃぁぁぁっっっ!!!」
感動に浸っていた一同は驚いて叫び声のした方を振り返る。
そこには、5、6人の警官が暴れ狂う一人の老人を取り押さえていた。
「何をする〜!!!まだまだ、若いもんには…ぐふっ。」
「大人しくしろ!お前には女子高生誘拐の容疑がかかっている。ちょっと署まで来てもらおうか!」
「ゆ、ゆ、誘拐じゃと〜〜〜〜!?」
誘拐と聞いて、老人は奮起したのか警官を一気に3人振り払う。
「ちっ、この老人なかなかやるな。」
「ふん、日頃のトレーニングを舐めてもらっちゃ困るな。ほれ、鼻たれ小僧が、かかってこんかい!」
「何を〜!!」
無意味に警官を挑発した大山に、再び警官達が襲いかかる。
と、その時だった。
「止めてください!その方は行き場がなくて困っている私を助けてくれた、恩人なんです!」
庵子の甲高い声に警官達の動きもぴたりと止まる。
その隙を逃さずに、庵子はこれまでのいきさつを簡単に説明した。
「とすると、君がその捜索願に出されていた、中村庵子さんなんだね?」
「はい、本当に申し訳ありませんでした。」
「まぁ、何事もなくて良かったが…でも、次回からは変な爺さんについて行ってはいけないよ。」
「変とはなんじゃ!」
警官と大山がにらみ合っているところに、ファミレス仲間から連絡を受けた高橋、狭山、新井の三教員、そして庵子の両親が駆けつけた。
庵子の両親は、泣きながら庵子を叱り、しかし大切な娘の無事を誰よりも喜んだ。
警察は事態が解決した事を認識すると、直ぐに撤収していった。
また、ファミレスの従業員も、感動の再会を堪能したかったが、仕事に戻らねばならなかった。
港女の教員と生徒は、庵子の両親に遠慮し、そのまま各々解散していった。
事態はまるで何事も無かったかのように、再び時を刻み始めた。
ただ、その場に涼平の姿が見当たらなかったという事を除いて。