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もう一つの悩み

「もう一つは、港女に馴染めない…

友達はいるんです。

しかも皆凄く優しくしてくれる。

先生だって勉強についていけてない私を心配してくれているのは知っている…でも。

本当の私の事はきっと受け入れてくれないと思う。」


「本当の君?」


「はい…勉強なんか好きじゃなくて、お洒落や恋愛にばかり夢中な私です。

そして、嘘つきで弱虫な私。

私、基本的に良い子ぶりっこなんですよ。

だから、学校では勉強なんて好きでもないのに、ちゃんと港女の生徒らしくやっているようなふりをするし、お洒落や恋愛に翻弄されないしっかりした生徒を演じているんです。

そうでもしないと、港女の友達や皆に馬鹿にされてしまう気がして怖いんです。

港女らしくしていれば、皆友達でいてくれるけれど、お馬鹿でギャルでチャラチャラした中村庵子を出してしまったら、港女の友達に軽蔑されて置き去りにされてしまうような気がして…

ギャルになりたい。

でも、八方美人で皆に愛されたいからなりきれない。

だから、せっかく出来た友達とも嘘の付き合いしかできなくて、壊れちゃった。

自分が駄目で駄目で…もう疲れました…。」


「中村くん、わしはね、こう思うがね。」


突如今まで黙っていた老人が、静かに切り出した。


「君は、もっと素直に生きるべきだよ。

もっと、君らしくいて大丈夫。

お馬鹿な中村庵子くんを君の友達はきっと嫌いになんてならない。

人間同士の絆っていうものは、そんな上辺だけのものじゃない。

君は、わしに全てをさらけ出して話してくれた。

さて、わしは君を軽蔑しただろうか?

全く軽蔑すべきところなんて見当たらなかったね、実に真っすぐで気遣い性の優しい女の子だと思ったよ。

そして、自分のやりたい事をちゃんと持っていて、知っていて。

君は、友達を選ぶ時に、勉強が出来るかどうかを重視するのかい?学校の名前を気にするのかい?」


「…しません。

でも、中学の時は勉強ができるってことで敬遠されていたから、やっぱりそういう人もいるんだと思う。」


「果たして、原因は果たして勉強だったのかな?

君はその時、今みたいな笑顔で話しかけたかな?

まぁ、昔の事はわしは分からない。

しかし、こんな老いぼれた爺さんが思う事は一つじゃ!

人間自分を良く見せようとしても、結局は長続きしないもんじゃ。

長いマラソンを最初だけ全速力で走っても仕方ないじゃろ?


わしも、昔自衛官だった頃は自分を人より良く見せたくて仕方なかったものじゃ。

だから、出来もしないトレーニングをしたと偽ってみたり、人の手柄をいかにも自分の物のように話したり、中村くんに比べたらもっともっと腹黒い若者だったんじゃ。

でも、そんな嘘はすぐにばれる。

皆の信用はどんどん離れていって、気がついたらわしは一人ぼっちになっていた。

そこで、何もかも気がついたのじゃ。

もう、自分の出来る事だけをやろう、と。

もう、手柄なんてどうでも良いと。

まぁ、若干自暴自棄気味だったんじゃな。

しかし、逆にそれが功をなした。

寡黙に自分自身の事をやっておると、誰かは見ていてくれるものでな。

一人、また一人とわしと一緒に晩酌してくれる奴が増えての。

いや、職場では全く出世に繋がるような事はできてなかったんじゃが、いつの間にかわしの考えたトレーニングメニューが軍全体のメニューに採用されておった。


まぁ、こんな具合に、しょっぱい自分だと自負しておっても、意外と周りは受け入れてくれるもんなんじゃ。

まして、君みたいなピチピチギャルじゃったら、まずSSSの中森明子的存在間違い無しじゃな!」


「SSS?」


「いやいや…こっちの話じゃ。

こほん。

まぁ、老いぼれ爺さんの言う事も、一度は騙されたと思って聞いてみなされ、少女A。」


老人のささやかなギャグは現役女子高生には全く通じていなかったが、庵子は昔を思い出していた。

勉強のせいで疎外感を感じていたと思っていた。

しかし、果たしてあの時の自分は今のように、笑顔でクラスメイトに接していただろうか?

自分の容姿に自信がなくて、下ばかり向いていなかったか?

逆に、勉強せずに遊んでばかりのクラスメイトを僻んで、見下した態度をとっていなかっただろうか?

様々な事が今になって鱗がはがれるように、万華鏡のように、様々な角度から光が射す様に庵子の脳内で浮かんでは消えた。


「大山さん、ありがとうございました。

話、全部聞いてくれて。

やっぱり、自分は本当の自分でしかいられないですもんね。

私の事、皆が今更受け入れてくれる保証はないし、凄く怖いけれど…

でも、やっぱり友達が好きだから、話してみます!」


「そうじゃな、それが良い。

まぁ、時間はもしかしたらかかるかもしれないが、素の中村くんでいれば、きっと皆またもとに戻ってきてくれるはずじゃ。

もと自衛官の爺さんが言うんじゃ、間違いない!」


庵子と大山は顔を見合わせて笑った。

タイミング良く、ホテルに備え付けられている電話が鳴った。


”ご延長いたしますか?”


二人は急いで荷物をまとめると、空気の籠った密室を後にした。

外の空気はとても澄んでいて、庵子はそれを胸一杯に吸い込んだ。

新鮮な空気は勇気の味がした。

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