庵子の告白
「突然なんですけど、大山さん。私ってどんな子だと思いますか?」
「うーむ、とは言っても昨日会ったばかりじゃし、意識も朦朧としていたからの。」
「第一印象でいいんです!他から見たら自分ってどんな風に見えるのかなって思って…」
「わしは、助けて貰ったし、親切な娘さんだと思ったよ。後は、今時よく見るピチピチギャルじゃろ。顔も美人さんだし、わしも50歳若ければ即アタックだったね。」
「ピチピチ…。ピチピチかどうかはともかくとして。私、本当はギャルじゃないんです。本当は、唯のダサイ子なんです。しかも凄い弱虫。皆に嫌われるのが怖くて、嘘ばっかりついている、そんな臆病者なんです。」
「どうしてそう思うのかな?」
「私、中学までは本当に真面目でガリ勉で。親の言う事を良く聞く、目立たない子だったんです。お洒落をする暇があるなら、勉強、そんな毎日を送ってきました。でも。本当は憧れてたんです。クラスに必ず一人はいる華やかなお洒落な女の子。雑誌に載っているような、可愛い洋服や雑貨を沢山持っていて、クラスでは恋愛のうわさ話が絶えなくて、そんな子にずっとなりたかった。」
老人は静かに頷いた。
庵子は続けた。
「それで、高校入ったら絶対そういう子になろうって決めたんです。それだけを励みに、毎日受験勉強を頑張った。親が私に入って欲しいと思っている高校は、そうそれが今の高校なんだけど、県の女子校では一番難関だったから。毎日本当に辛くて、つまらなくて。でも、これさえ乗り越えれば雑誌の中にいる可愛くて洋服と恋愛の事しか頭にないような、そんな子に生まれ変わるんだって思って何とかやり抜いた。そして合格することができたんです。」
「そして、今君は綺麗な蝶に変身をとげることができたのじゃな。」
「はい。だから、最初は嬉しくて仕方なかった。街で声もかけられるようになったし、ギャル系の私が憧れていたような女の子とも友達になれたから。…でも。やっぱり私は偽物だったんです…。」
「どういう事かな?」
「私、中身は今もダサイんです。自分にやっぱり自信がなくて。私、勉強できる自分が好きじゃなかったんです。勉強できるって先生や親の受けは良いけれど、生徒の中ではちょっと疎外されているような存在。良い点数のテストを机に広げておけば、自慢してるだの、遊びには勉強があるから行けないし、流行のTV番組の話にもついて行けない。実際、成績が良いってそんな良い事ないんです。」
「まぁ、勉強ができない人から見たら、贅沢な悩みにも聞こえるが…君は孤独だったんじゃな。」
「そうですね、孤独…は感じていました。だから華やかな友達に囲まれたかった。でも、華やかな友達と付き合うには過去の私はいらなかったんです。“勉強のできる中村庵子”を抹消しなければならなかった。だって、勉強ができるってだけで壁ができてしまうから。…私、アルバイト先で在学高校を偽ったんです。本当は港第一女学院なんですけど、港第三って嘘ついたんです。最初はそれで、皆にすぐとけ込む事ができたし、良かったと思っていました。でも、嘘はやっぱりばれてしまうんです。」
話しながら、昨日の光景が庵子の頭に蘇ってきた。
喉の奥が熱くなる。
話を続ければ、声が震えてしまいそうだった。
老人はただ静かに黙って聞いていた。
「もう一つは…」
庵子はごくりと唾を飲み込み、平静さを保つよう努めた。
老人もついに空気椅子を止め、ベッドの上に腰を下ろした。