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鎧を着た少女

まだそんなに遠くまでは行ってないはずだった。

涼平は見慣れた金髪の巻き毛を探していた。

庵子は確か紺のカーディガンに水色の濃紺のチェックのプリーツスカートで出勤してきたはずだ。

どこの制服でもない、オリジナルの女子高生スタイルだ。

その時はお洒落でやっているだけかと思っていたが、真意は違った。

一般的に見たらどうして港女を詐称するのか分からない。

涼平の通う港第一でも港女は彼女にしたいタイプが通う高校として男子に人気があった。


「しかし、庵子が港女だったとはな…」


人は見かけによらないものである。

顔はともかくいかにもギャルの代表、悩みなんて何もなさそうな庵子が博識な良家お嬢様おそらくだがだったとは。

どちらかといったら涼平はキャピキャピ騒ぐギャル系女子は苦手であったので、その代表である麻美や庵子とはそれなりに距離を置いて付き合ってきたつもりであった。

しかし、ふとした時に庵子には麻美とは違う何かを感じる事があったのも確かだった。


この時間、雑踏の中目につく女子高生は皆庵子に似ていた。

同じ様なファッション、同じ様にケラケラ笑い、周りには同じ様な系統の男子学生が屯している。

ふとしたら皆同じで見過ごしてしまうその中に、庵子は息を潜めて隠れていたように思えた。

格好良く生きたくて、人とは違う様になりたいはずなのに、気がつけば埋没している。

ここに居れば安心、そうやって本当の自分を隠しながら格好良く身を守るのだ。


涼平は一人一人見逃さないように、女子高生の顔を確認する。

一人の女の子と目が合った。

カラーコンタクトのグレイの目は興味なさそうに涼平から目をそらした。

庵子はそこには居なかった。






ついに駅前まで来てしまった。

もしかするともう庵子は帰宅してしまったかもしれない。

注意深く歩いてきたつもりであるが、彼女らしき人影は見当たらなかった。

弥生に庵子を追いかけると言った手前、ここで諦めて帰るのも気が引ける。

それに実際家に帰っていないとして、変な男に絡まれているとしたらやはり自分にはそれを阻止する義務があるように思えた。

しかし、涼平は庵子の事を知らなすぎた。

もしかしたら庵子がそのような誘いに自ら乗ってしまうような女の子なのかもしれない。

そんな疑惑も脳裏をよぎる。

でも、涼平にはそんな風には思えなかった。

ギャルの鎧を身にまとった庵子はとても弱くて、小さくて、何かに怯えていた。


しばらくJRの改札を通る人の波に目をやっていた涼平だったが、これ以上はどうしようもなかったので、庵子の実家に電話をかけてみることにした。

バイト先の連絡票をメモリに入れておいたのが役に立った。

3コール目で受話器があがった。


「もしもし…あ、バイト先の…。庵子ならお友達のお家に今日は泊まるというので帰ってませんの。せっかくお電話頂いたのにごめんなさいね。庵子にあした大沢さんからお電話があったとお伝えしておきますね。」


優しい声の女性がでた。

きっと庵子の母親であろう。

言葉遣いや、端々ににじみ出る気品、やはり庵子は港女に入るべくして入ったような育ちなのであろう。

しかし、良かった。

友達の家に泊まっているのなら心配はなかった。

涼平は携帯のリダイアルを開くと、そこから高橋弥生を選びボタンを押した。

程なく、受話器から能天気な声が聞こえてくる。


「もしもし、涼ちゃん、見つかった!?」


「見つからなくて実家に電話してみた。したら、今日は友達の家に泊まるって言ってたらしい。」


「そっか。なら大丈夫かな?ま、それが嘘だったら大変だけどね、あははは。」


「…。」


どうしてこの女は不安要素をこんなに明るく語るのだろう。


同じ血筋なのが信じられない涼平であった。


血液型の違いか?

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