残された人達
「先生、庵子どうしちゃったのかな…」
ファミリーレストランに取り残された一同は何とも言いがたい空気に苛まれていた。
本当に些細な嘘なのである。
何故少女がそんな嘘をついたのか、誰も知る由もなかった。
唯、麻美という少女は今まで港第三高校について知ったかぶったような態度で会話をしてきた事に腹を立てていたし、友達だと思っていた子に出身校を偽られた事に傷ついていた。
無言でさっさと帰り支度をすると、挨拶もせずにレストランを後にした。
哲太も麻美とほぼ同じ気持ちであった。
眉間にしわを寄せたまま、その場を離れ仕事に戻る。
チッと小さい舌打ちが高橋の耳に聞こえた。
逆に南としては、港第一女学院の生徒である事を偽る理由が全く分からなかった。
いつもの華やかで元気な庵子からは想像もつかない態度にただ驚いていた。
しかし、今日は保健室の事もあったので、一日ゆっくり休めばいつもの庵子に戻るような、そんな事を漠然と思った。
隣にいる彼氏にも気を使い、「明日色々聞いてみるよ」と小声で話しかけた。
高橋は、重い空気を振り払う様に勢い良く立ち上がった。
「私、ちょっと心配だから追いかけるね!」
「いや、俺が行くよ。ちょっと、気になる事があるし…。」
ファミレスを飛び出そうとした高橋を涼平が制した。
「弥生よりは、俺の方が付き合い長いでしょ。軟派の話、嘘だったしな。」
「う…確かに。でも…やっぱり心配だし…。」
「弥生は家に帰りなさい。じいちゃんとばーちゃんが心配するだろ?」
「え、偉そうに…!でも、そうだよね…。じゃぁ、涼ちゃん、庵子ちゃん見つかったら絶対電話かけてよね!任せるから!」
「うん、任せて。…店長!今日ちょっと緊急事態で上がらせてください!」
遠くで心配そうに成り行きを見守っていた店長が、はっと気がつく。
「お、おう。大沢、行ってあげて!」
店長が言い終わるか終わらないかのうちに涼平はファミレスの扉を飛び出した。