コウモリ
とぼとぼと家まで続く道を歩く。
繁華街の夜は長い。
さっきアルバイト前に通った時よりか幾分人は減ったものの、はしゃぐ女子大生やサラリーマン、OLの屯する夜道は決して孤独を感じさせない。
皆、時間というものを忘れているかの様だ。
それとも、もしくは庵子の周りにだけ目まぐるしい時間の波が押し寄せており、見えない時空の壁で隔離されているのか。
ファッション雑誌や憧れのモデル、TV番組に港女の制服、真っ白な答案用紙に押し寄せる期待の渦、玄関で見送る両親のグレイの影、やっとたどり着きたい場所へたどり着いたはずなのに。
庵子は孤独だった。
胸で巻かれた髪をそっと手で撫で付ける。
私はニセモノなんだ…。
自分の周りにはどうしても抜け出せない壁があって、いくら走ってもその境目は遠ざかる。
今までの自分を抜け出す鍵に思えたこの金色の髪の毛も、鍵穴までたどり着けなければ役目も果たせない。
少女の目頭にうっすら涙の粒が浮かんできた。
「私は嘘つきのコウモリだ…。鳥の仲間にも、動物の仲間にも入れない…。」
ぽつりと呟いてみる。
「私って何なんだろう…。」
一旦口に出して言ってしまうと、堪えていたものがぷつりと切れ、涙は次から次へと頬を伝って流れ落ちた。