運命の歯車
庵子が愕然と立ち尽くしている間にも、事態はとんとんと進んでいった。
「あ、初めまして。私、庵子と同じ高校の飴田南です。」
社交的な南は止める間もなく庵子の同僚達に感じよく自己紹介を始めた。
「え、てことは港第三?見えない!てか、その制服…コスプレ!?」
カチリと第一の歯車が外れる音がした。
「え、違うよぉ。私たち港女だよ。わざわざこんな制服コスプレしないからっ。あはは。」
「え、でも庵子、港第三って…。ねぇ、庵子?」
訳の分からなそうな顔で庵子を振り返る麻美。
そして同じ様な表情で涼平や南も庵子に注目する。
庵子は、何も答えなかった。
否、答えられなかった。
そして、ただ視線を床に落とし、お客が落としただろうくしゃくしゃに丸められた紙ナプキンをじっと見つめていた。
肩に空気が重くなっているのをひしひしと感じながら。
「は、意味わかんないし。」
麻美が突然その場を早足で離れた。
表情は見なくても分かる。
声の荒っぽさ、きっとむかつく客が来たときのように麻美は怒っているに違いなかった。
仕方がないことだ。
友達と思っていた庵子に裏切られるような形になったのだ。
「庵子、何で…え、嘘ついてたの?どうして?」
南がほんの近くまで寄って来た。
「あぁ、だから弥生と知り合いだったのか。」
涼平はきっと無表情。
「帰ります。私…。」
庵子は誰の質問にも返答することなく、そのファミレスを後にした。