高橋の嘘
「えっと…大した知り合いではないんだけど、道で絡まれているのを助けて貰ったことがあって…」
言ってしまってからはっとする。
これでは、先生はがっつきキャラな上に、力持ちキャラだ。
さすがの先生も怒るかな、と思いつつ高橋をちらり見やる。
しかし、高橋は怒ったふうもなく任せろとばかりに片目をつむってみせた。
「そうなの〜。で、止めに入ったのは良いけれど、その軟派の彼、私の事気にっちゃって!」
え、何その展開。
「で、結局三人でご飯食べに行ったのよね。その彼結構イケメンだったな〜」
「え…それって本当?」
涼平もとても不振そうな顔をしている。
当たり前だ。
そんな変な状況になるわけがなかろう。
でも、ここはせっかく先生が話を合わせてくれたのだ。
内容に不服はあるが、同調しない訳にはいかない。
「本当なの。面白い出会いでしょ?」
「庵子が言うなら本当なんだろうな。でも、そんな弥生につられて変な人について行っちゃ駄目だろ。」
「あはは、そうだよね。」
だから、ついて行かないよ!と心の中で叫ぶ庵子。
でも、何とか切り抜けられそうでほっとする。
奥から店長が叫び声をあげる。
「大沢くん、ご新規さんご案内して〜!」
「あ、はい!じゃ、弥生ごゆっくり。庵子、仕事に戻ろう。」
「うん、あ、私そろそろ上がりだ。着替えてこよう。」
「おう、お疲れ。」
店長に仕事を確認し、更衣室に戻る。
制服のブラウスを脱ぐと、どっと一日の疲れが押し寄せた。
でも、何だか涼平の新たな一面を知ってしまった気がして嬉しくなる。
しかも、先生の従兄弟だなんて、色々情報を聞き出せそうではないか。
彼女、本当にいるのかな?
明日の昼休みに保健室に遊びに行こう、と庵子は思った。
こうして庵子の忙しい一日は終わった様に思えた。
しかし、着替えが終わりフロアに戻ると、見覚えのある顔が庵子を待っていたのだった。