高橋家の事情
今日は実りある一日だった。
可愛いギャル系の生徒が保健室を訪れたからだ。
あの、寝心地の良い保健室のベッドの味をしめて、もう一度来てくれるかもしれないという新たな希望も生まれてきた。
しかし、そんな幸せとは裏腹に高橋は非常に飢えていた。
帰り道、やはり一日仕事を終えると腹がすく。
そんな夕暮れ時は、カラスの鳴き声すら空しく聞こえるのだ。
後少し、後少しだ。
お婆ちゃんが今日も美味しい夕ご飯を高橋の為に残しておいてくれているだろう。
社会人にもなって、こんなに甘えて申し訳ないとは思うのだが、どうしたって背に腹は代えられない。
おばあちゃんのご飯は世界一なのだから。
………
「えぇっ!?炊飯器が壊れた!?」
「そうなのよ、やよちゃん。だから、今日は猛さんと私は出前で済ませてしまったのよ。」
「わ…わたしの…分は?」
余りの予想外の出来事に高橋は膝から崩れ落ちた。
何だろう、最近想定外の事が多い気がする。
「やよちゃんは、何が良いか分からなかったから…ね。ほら、これで近くのファミレスでも行って食べてきてくれる?」
「おばあちゃん…。」
涙が出そうである。
先ほど心の中であんなにおばあちゃんの料理を褒めたのに、その想いなど全く届いていないあっさりした寂しい提案。
「一人で行くの…?」
「そうねぇ、私も猛さんも食べちゃったしねぇ。あ、そろそろ悪代官日記が始まるよ!」
おばあちゃんはもはや一緒にファミレスに行ってくれる気配もない。
こたつにとっぷり漬かり、TV中に飲むお茶セットもきちんと用意されている。
高橋は悪代官に負けていた。
おじいちゃんは、と辺りを見回していると、
「猛さんならお風呂ですよ。」
と、言う事であった。
高橋は諦め、一人夜の繁華街に繰り出す事にした。
空腹にはこれ以上耐えられそうにもなかったからだ。
夜道を歩きながら、ぼんやりと高橋は考えていた。
優しいようで、冷たいおばあちゃん。
冷たいようで、優しいおばあちゃん。
これもツンデレの一種なのか、と。