地味な少年
「庵子これ3番テーブル。で、運んだらデザート作ってくれる?」
「はぁい。」
繁華街に位置するファミレスは一旦仕事が始まってしまうと、おしゃべりにうつつを抜かしてられないほど忙しい。
おかげで庵子は先ほどのピンチからは当分逃れられる。
ファミレスには同い年くらいの女子高生のグループに、家族連れ、仕事を終えた会社員が一人で来たりもする。
今の時間帯は丁度夕飯時。
入口には既に何組かのお客さんが列をなして待っていた。
庵子がお会計に立った席を片付けていると、隣に座っていた男子高校生のグループが何やらにやにやしている。
嫌な感じだ。
「いや、まじ可愛くない?」
「話かける?」
「お前、行けよ!」
聞こえているのだけど、と庵子は思う。
触らぬ神に祟り無し、と庵子は早々とその席を離れた。
大量の食器を抱えながら、急いで裏に回ると、同じく両腕に料理を抱えた涼平とぶつかりそうになった。
「ご、めん!りょうへ…」
「あ、あぁ。」
涼平はにこりともせず、さっさと行ってしまう。
愛想のない涼平。
目も合せてくれない。
庵子も最初は嫌われているのかと思ったが、どうやら麻美や哲太にもこんな調子らしい。
「あいつちょっと気取ってんだよ」と、哲太が冗談でぼやいていたが、確かに涼平はどことなく皆と距離を置いているようにも感じた。
クール、と行ったら聞こえは良いが、涼平自体は人目を引く美形でもなんでもなかったので、どちらかと言ったら地味、という言葉の方が似合う感じの少年だった。
きっとファミレスの店員で働いていたとしても、客側からしてみれば余り記憶に残らないようなタイプだ。
しかし、庵子はそんな涼平が気になっていた。
好きとかそういうものではないのだが、心の中で何となく親しみを感じていた。
愛想笑いをしない涼平。
地味な涼平。
でも、仕事は人一倍早いのだ。
庵子はもっと仲良くなりたいと、密かに心に思うのだった。