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第一章 「神」と「人」の思い 第一話

今日も沢山殺したな…俺は亡骸と化した神だった者達が積み重なった山の上で握り飯を喰らっていた。

しかし、俺がこの仕事を生業とするとは思わなかったな…まぁ、上の言う通りに神様を殺してしまえば金は腐る程入って来るから良いけどさ?

俺の名は千釜千里【ちがませんり】、見て通り神殺しを生業としてる者だ。

俺がこの仕事に手を染めたのは今から12年前だ。

俺はこの世界のある家の人間の子供として生まれた。この界隈に入ってから母さんと父さんの顔は見てないが、今でも思い出すよ…母さんの優しい愛情と父さんの馬鹿親っぷりの表情は…

でも、そんな大事な存在と会いたいと思っても…今は会う事が出来ねぇ…

だって、今の俺は神様の忠実な手駒に過ぎないんだからな?

そう、俺は神様に拉致られなければ…普通の人間として真っ当な人生を歩めたのかもしれないのに…

今から12年前。俺は友達と公園で遊んでいた。

そう、母さんとの約束を破って昼間の時間帯に遊んでいたんだ。

……って、何で昼間に遊んじゃいけないのか、この手記を見てる皆には分からないよな?

簡単に話そう。子供だけに限らず、大人もだ。

この世界では人間は「昼間は自由に行動してはいけない」という謎のルールがあったのだ。

何故そのルールが生まれたか…その理由はあの日、神様に拉致られてから初めて分かったよ。

神様は俺達人間の事を単なる捨て駒としか見ていない。そう思うのも仕方がないだろう。

何せ奴等神様と比べて人間は短命だ。そして、体のつくりも脆い。

だから見る価値も大きく異なるのだ。

しかも、子供はいつでも作れる消耗品としか見ていない。

だから子供の頃の俺も…


「コイツ等を連れ帰れば俺達の待遇も上がるぜ!」

「抵抗するんじゃないぞ、糞餓鬼共が!」

「痛いよ、止めてよ!?」

「止めろや、何すんだよ!?」

「母ちゃん、父ちゃん、助けてぇ!」


俺達子供を昼間から堂々と拉致する神様の頭もおかしかったが、その蛮行を許すしか能がなかった大人達の頭も充分おかしいものだと俺は思うんだ。


 俺は神様に拉致られたその日から人を殺す術と神様を殺す術を日夜問わず叩き込まれた。


「もっと動け、この木偶の坊が!」

「ぐぅぅっ!?」


その時の俺の年は8だ。大人顔負けのメニューを熟せるなんて思いもしなかったよ。

それでも、俺は奴等の言う事を聞くしか道は残されていなかった。

逆らえば俺の命は消えていたからな?


 そんな過酷な特訓を積まれた俺は、15で初めての神殺しのミッションに向かった。

正直な話、神様が何人死のうが俺には心底どうでも良い話だった。

だが、俺の力を欲する馬鹿の為に動かないと俺の命はない…俺は自身の意思に反して言われた通り神様を殺して行った。


「はいどうも、人の命をゴミとしか思ってない神様のみなさ~ん?

 『俺』と言う名の掃除屋さんが貴方達を駆除しに来ましたぁ~」

「なっ…何だ貴様!?」

「何故ここが分かった!?」


アサシンの術と心得を叩き込まれる前の俺だったら、神殺しも人殺しも何らかの躊躇いを生む大罪と思っていただろう…

だが、俺の心の中からはそんな感情は消え失せてしまった。


「うるせぇんだよ…俺達人間をゴミとしか見てねぇ神様なんかここで数人死のうが、

 この世界に何も害も損も与えねぇだろ?」


俺は人間を捨てた…神殺しと人殺しを平然とやってのけるアサシンとして生きて行く事になったんだ。


 そんな生活を数年繰り返していると、俺の体に度々異常が生じる様になった。


「この美味そうな肉を食べても…何も味が感じられない…」


俺の味覚は死んでいた。

人殺しと神殺しを繰り返して行く内に味覚以外にも喜怒哀楽の基本的な感情も綺麗さっぱり消え失せてしまったんだ。


 そして、今日も神様を殺した。

今の主様の意向でこの仕事に踏み切ったが、俺は神殺しを犯す度に考えてしまう。

俺は本当にこの道で満足出来るほど、今の人生に何も未練はないのか…と。


「はぁ…このソーセージも水よりマズい味しかしないな…」


俺は一生神と人を殺し続け、神様の思うがままに操られる「人形」と言う名のアサシンとして生きるしか道は残されていないのか…?

しかし、少なくともこれだけは言える…

今の俺は、今の人生に満足出来ていない…


 そう思ったり願ったり夢見たり…何度同じ事をして同じ日々を過ごして来たのだろう?

俺は普通に生きる事が出来ないロクデナシなのだろうか…?

俺は血に塗れた状態で夜の街を歩く。


「ひぃぃっ…!?」

「アイツ…血塗れだぞ…!?」

「あんな奴、この街から追い出しましょう!」


はぁ~…いつもこう言われるんだよな?

俺の心は死んでいるから何を言われても何も思わないけど、こう言われる度に常々思うんだ。


「俺は…何の為に生きてるんだっけ…?」


正直に話すと、俺は心も体も限界を超えていた。

明日には死んでいても何ら不思議ではなかった。

そのくらい毎日が壮絶過ぎて、日々傷心するだけの毎日で…


「もう…生きるのは辛いや…」


俺は心を括った。もう、こんな日常を生きるのは止めにしよう。

今日…俺はこの世界からドロップアウトするぞ!

俺はその足で飛び降りて死ねそうな高層ビルの屋上へと向かった。


 よし…ここで俺が死ねば、これ以上苦しむ必要はない。俺は高層ビルの屋上までやって来た。

無論、やるべき事は決まってる…


「ここで…俺の苦しみに溢れた人生を終わらせるんだ…」


俺はここから飛び降りて自らの手で俺の命を絶つ。

黒く赤く染まったこの手で、今更幸せに生きる事なんか出来るはずもない。いいや、今更幸せに生きる権利すら持ってないよな?

俺はあまりにも無実な命を奪い過ぎた。だから、最期は孤独に死のう。

俺は屋上のフェンスを乗り越えようとした時だ──


「おいおい、困るよぉ~。君の様な可哀想な青年が死ぬなんてぇ~?」

「……誰だ…アンタ…?」


この世からサヨナラしようとする俺を引き留める声が一つ、俺の目の前から出て来た。


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