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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.93 続・裸の付き合い

 あの後僕達は食事をして、それぞれ別行動をした。

 

 サヤは街を歩き回って情報収集すると言ってた。

 ウィニは……あれ? 何をするか言ってなかったな。


 僕は旅の間に消耗した物を補充したあと時間を持て余してしまい、素振りや筋力増強のために運動して、己を鍛える事に時間を費やした。


 おかげでいい汗をかいた。今日も大衆浴場に行こうと思う。


 夕方になり気温が下がってきた頃にサヤも戻ってきたので、サヤとウィニが借りている部屋に訪ねた。

 ノックして開けていいかを聞く。一応女性の部屋だからね。不躾には開けないのだ。

 

「お疲れ、二人とも」


 返事があったので部屋に入った僕は二人に声を掛ける。


 サヤは荷物を整理したりしていて、ウィニは自分のベッドで寝転がりながら魔導書を読んでいた。今日はそうやって過ごしたという。一応魔術の訓練……になっているのか? ……まあいいか。



「とりあえず、これからどうするか軽く決めておこう」

「そうね。私も今日聞いた事を伝えておきたいしね!」

「ん!」


 そういう訳で何度目かの『希望の黎明パーティ会議』の始まりだ。

 と言っても雑談混じりにこれからどうするか話し合うだけなんだけどね。


 まずサヤが仕入れた情報を聞く。

 と言っても、重要なものはさほどなく、あれが便利とか、こういう施設があった、とかそういうものだ。

 サヤ曰く情報も大事だけど人脈を築くのも大事、今日は人と話して顔を覚えてもらおう思ったという。


 そういう所、素直に尊敬するなあ。僕は目的がない会話が苦手だからね……。


 次に謁見までの一ヶ月間をどうするか軽く話し合う。

 依頼も稼げればやる方向でいく。あとは節約! 一月もここで足止めになるのはかなり痛い。

 ……こうなると徒歩での旅を考慮することも考えないといけない。



 会議と言ってもこんなもんだね。

 さて、それならあとやることは特にない。



「さてと、それじゃ僕はお風呂聞くけど、二人はどうする?」


「いいわね! 私も歩き回って汗だくだから絶対行くわ!」

「おふろ! いく」



 という事で大衆浴場へ行くことに。

 僕とサヤはいつも通り並んで歩き、ウィニがその後ろを着いてくる。いつの間にかこれが定着していた。


 談笑しながら歩きながら大衆浴場への道をゆっくり歩く。皆少し冷たい風を浴びたかったからだ。


「風が気持ちいいね」

「この時間が一番涼しいわね〜。昼間はホントに暑くて汗だくよ……」

 

 と言うサヤが突然ハッとした表情をしたあと、サッと僕から少し距離を置いた。

 僕は不思議に思って首を傾げる。


「いや……今私……多分、汗臭い……から…………」

 もじもじしながら顔を赤くして俯くサヤ。


「え? 別に匂わないけど――」

「――嗅ぐなあ!」

「――ぶっ!」


 僕がサヤに鼻先を近づけると反射的に顔を押しのけられてしまった。別に匂わないのに……。



「――あっ」

 頬を擦りながら思い出す。そういえば僕もめちゃくちゃ汗かいたんだった! 僕の方こそ匂うかもしれない……。


 ……僕もスッとサヤから距離を置く。サヤの気持ちが分かった気がする……。


 それを後ろで見ていたウィニは両手で口元を隠しながらニヤニヤしていた。あとで水掛けてやろうと思う。



 大衆浴場に到着して僕達は別れた。早く汗を流したいと、僕も男湯へ急ぐ。


 昨日、『お風呂マスター』を名乗るおじいさんから教わった手順をこなして、奥にある熱い風呂場にやって来た。


「――おお! 若いの! また会ったのう!!」


 この溌剌で元気な声は昨日振りだ。おじいさんは既に風呂の中で満喫しているところだった。


「おじいさん! こんばんは!」

「おうおう! まあまあ入れ入れ!」


 僕はまだ慣れない湯の熱さに苦戦しながらなんとか肩まで湯に浸かる。おじいさんは横で豪快に笑って僕の様子を見ていた。


「はぁぁ、疲れた体に沁みますね〜〜」

「かっかっか! おぬしもすっかりこの湯の虜じゃな!」


「はい! おじいさんの教えの賜物です!」

「かっか! ――そうじゃ、いつまでもおじいさんじゃアレじゃろ?」


 そう言うとおじいさんは両手の親指を立てて自分に指差した。


「儂は『アルマイト・レンデ』! ここではアル爺と呼ばれとるぞ!」

「僕はクサビ・ヒモロギと言います。東方部族連合から来ました。よろしくお願いします、アル爺さん!」


 アル爺さんは『ほうか、ほうか、かっかっか!』とニカっと破顔して豪快に笑う。本当に陽気な人だなあ。





「――そんなわけで、少なくとも一ヶ月はここに滞在することになりそうですよー」


 それからアル爺さんと湯に浸かりながら話が弾み、僕はつい今日の事の愚痴を零していた。


 その話に興味津々なアル爺さん。


「ほほー! なんじゃ、おぬしの旅は急ぎの旅なんか?」


「まあ……はい。とある事情で、サリア神聖王国の聖都マリスハイムまで、できるだけ早く辿り着きたいんですよ」


 さらにアル爺はぐいぐい来る。立派な眉で目が隠れて見えないが、まっすぐこちらを見ているのを感じた。


「ほう。確かにここからサリア領に行くとすると、長い砂漠の旅を覚悟せねばなるまいからのう。砂上船を使う理由にも納得じゃな」


 そうなのだ。地図によればこのグラド自治領かるサリア方面の砂漠地帯は、僕達がやってきた砂漠よりもかなり広大だ。

 慣れた者でも一週間の道のりを覚悟しなければならない。それを砂上船でなら3日で安全に移動する事が出来るのだ。

 ……と言うのとサヤがボリージャで仕入れた情報の受け売りだけどね。



 

 アル爺さんは、うんうんと頷きながら何やら考えて、それから僕に視線を戻した。


「おぬしの旅の目的を聞いてもいいかの? ……いやなに、ちょっとした興味本位じゃて!」


 僕は少し考えたあと、アル爺に話し出す。

「大それた話に聞こえるでしょうが……僕の旅の目的は…………。……魔王の討伐です」


「――魔王じゃと?」

 アル爺さんの雰囲気が少し張り詰めた。

 無理もないよね。世界中の人々の脅威たる存在を口にしたのだから。


「……はい。冗談に聞こえるでしょうけど、本当なんです。これはきっと僕にしか出来ない事なんです」


「…………何か大きな訳がありそうじゃの。こんな所で聞ける話でも無さそうじゃ。……ふむ」


 アル爺さんは真剣に何か考え事をしているようだ。


「……荒唐無稽な話に聞こえると思いますけどね、あはは……」

 僕は自分の頭を掻きながら力無く笑った。


「……なるほどのぉ〜〜。よし! とりあえずそろそろ上がるとするぞい! ほれ、おぬしもじゃ!」

「あ、はいっ」


 そのまま勢いよく風呂から出て、ご老体とは思えない足取りですたすたと出口の方へ歩いていくアル爺さんを、僕は慌てて追いかけた。


 服を着てアル爺さんと男湯の扉を出る。帰る前に一声掛けるために呼び掛けようとした時、前にいるアル爺さんが振り向いた。


「さて! 儂は帰るとするかの! クサビよ、明日の朝仲間達を連れて首長の邸に行ってみよ! きっと『はっぴい』になれるぞい!! では、またの!」


「え? あっ! ちょっ……アル爺さーん!」


 アル爺さんは僕に伝えるだけ伝えると、風のように去っていってしまった。ほんとに嵐みたいなおじいさんだね……。


 ……しかし、明日の朝に首長の邸に行けって言ってたな。

 依頼でも受けろという意味だったのかな。

 一ヶ月滞在するにしてもお金は稼ぐ必要があるもんな。アル爺さんはきっとそう言いたかったんだろう。


 よし、せっかくの助言だ。どんな依頼があるのか見てみるのも悪くない。皆にも話して行ってみよう。


 そして僕はサヤとウィニと合流して、今しがた起きたことを話した。二人とも特に否やはなく、明日の行先は首長の邸に決まったのだった。


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