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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.92 砂漠の街に繰り出して

 翌日のこと。

 

 今日は主に情報収集や、この先のサリア神聖王国に進むのに便利な『砂上船』を利用できるか確かめようと思っている。


 ひとまず三人で砂上船が停泊している乗り場まで行ってみることにした。


 

 道を行く間にもこの街はいつでも活気に満ち溢れていた。

 グラド自治領の民族性とでもいうのかな。ここに生きる人たちの気質に陽気さが溢れているのだ。


 露店を横切る間もウィニがお店の人に声を掛けられてホイホイと食べ物を購入するので、常にウィニの口はもぐもぐとしていた。道中涎を垂らしながらうっとりしたような表情で屋台をキョロキョロするもんだから、お店の人にとって完全にカモである。


 ほらまただらしない顔してる。ウィニも女の子なんだからもうちょっと淑女然とした態度を…………って、それじゃウィニじゃないや。


 あまりに美味しそうに頬張るウィニの顔を見ていたら、このままでいいかと思ってしまうのだった。



  


 そんなこんなで街行く人に砂上船が停泊している場所を聞いてやってきた。


 全長20メートル程の砂上船が停泊する広い場所に、何隻も砂上船が停泊している。

 今しがたグラドに到着したのであろう砂上船からは、積荷を下ろす人達の姿が見受けられる。


 それにしても砂上船はどうやって動くのだろう。

 僕の乏しい知識では皆目見当もつかない。



 僕達は、停泊している砂上船の船長らしき人を見掛けた。作業をしている他の人とは少し派手な服装をしていたからだ。

 話を聞いてみるためそのおじさんに声を掛けた。


「すみません、一つお尋ねしたいのですが……」


「……ん、ああ。何かな」


「ここには昨日着いたばかりで勝手がわからないのですが、砂上船に乗せてもらうことは出来るのでしょうか?」


 僕がそう言うと、船長らしきおじさんは


「首長から許可証は貰っているのか?」

「許可証? 持ってないですね……」


「そうか。それなら悪いが乗せてやれない決まりになってるんだ。もし乗船を希望するなら、首長に会って依頼を受けるか、金で許可証を買うかだな」


 どうやら砂上船に乗るには許可証というものが必要らしい。聞くところ、砂上船は一般的に人の運行を目的とした運用はしていないのだそうだ。


 資源の乏しい砂漠の小国故に、物資は外国からの輸入に頼る他ない。砂上船は本来その積荷を運ぶための移動手段なのだ。


 だがこの過酷な砂漠を安全に素早く抜けたい者には、高額で許可証を買うか、この国の抱える問題を解決した者には特別に砂上船に乗る事を許しているということだった。

 買う方が手っ取り早いが、今の僕達にはとても手が出ない額を聞いて、その線で考えるのはこの時点でやめた。


 ……なんだよ白金貨10枚って……。金貨100枚分じゃないか

 


「――わかりました。丁寧にありがとうございます! 首長さんに会いに行ってみます」

「ああ、謁見の予約は早めに取っておくのをおすすめするぞ」

「わかりました。では失礼します」



 砂上船は気軽に乗れる代物じゃなかったんだな。

 とりあえず停泊所から街の大通りまで戻る事にした。


「やっぱり簡単には行かないわね」

「そうだね……。とりあえず次は首長さんの邸に行こう」

「いきなり行って会えるものなのかしら……」

「…………それも心配なところだね」

 


 僕達に残された選択肢は一つだけだ。

 首長に会ってこの国が抱える問題というのを解決し、許可証を貰う事だけ。


 僕達は不安を押しとどめながら首長邸に足を向けたのだった。


 

 首長の邸はすぐにわかった。

 なんと言ってもこの街で一番大きくて目立つ建物だったからだ。


 白を基調とした美しく大きな宮殿のような建物だ。大衆浴場にもあったようなものより、さらに豪華な装飾を施した何本もの支柱で支えられ、その豪華さに目を奪われる。サヤによると大理石という石材らしい。


 ここは首長の住まいであると同時に、この国全ての行政、運営を取り仕切っている、まさにこの国の心臓部だ。

 ここで働く人達や、当然警備も多い。

 ちなみにこの街に冒険者ギルドはなく、その代わりにここで依頼を受けて生活費の足しくらいは稼げるようだ。

 


 入口には、閉ざされた門の横に窓口があって、そこに職員が鎮座していた。

 僕達は窓口の人に話しかけてみる。


「すみません、旅の者ですが」


 僕達に気付き、こちらにやって来た受付けと思われる、朗らかそうなおじさん。

 奥には数名の武装した警備が鋭い眼光でこちらを見ている。


「やあ、こんにちは。何用かな」

「あの、砂上船の乗船許可証を頂きたくて、首長様への謁見を希望したいのですが……」


「首長への謁見希望だね。ちょっと待っててくれるかな」


 そう言うと受付けのおじさんは紙の束をペラペラと捲っている。

 程なくしてこちらに顔を向けると


「そうだね。今日謁見の予約をしたとすると、謁見には一ヶ月後になるね」

「い、一ヶ月後……ですか…………」


 なんということだ。そんなにかかるのか……。

 

 だがよくよく考えれば予想できた事だ。首長と言えばこの国の最高権力者だ。忙しいのは当然のことだ。

 やっぱりそうだよね……。いきなり会えるはずないよな。


「……どうする? 予約入れておくかい?」

「……そ、そうですね。よろしくお願いします……」


 やむを得ない。ここでまた暫く滞在となるのは痛いが致し方ない。



 首長邸を後にして大通りに戻ってきた。

 サヤは、肩を落としながら歩く僕に話しかける。

「仕方ないわよ……。とにかくこの一ヶ月をどう過ごすか考えましょ」


 そう言ってサヤは僕に眉尻を下げながら微笑む。


「そうだね。……今日はこれからどうする?」


 確かめなきゃ行けないことは早々に終わってしまったので、今日という日をどう過ごすか考えものである。


「そうね……。私は情報収集にあちこち行ってみるわ」

「分かった。僕も買い出しとか必要な物を揃えておくよ」

「でもまずは腹ごしらえが、ひつよう」


 ウィニがいつもの仏頂面でそう言うのと同時に腹の虫が鳴いたのが聞こえた。さっきから食べてたはずなのに、ウィニの腹時計がお昼の時間を報せる。

 実は凄い才能なのかも……?


「……そうだね。丁度いい時間だし何か食べてから行動しようか」

「やったー」

「ふふっ なら何処か入りましょ! 涼みたいわ〜」



 食事処を探して僕達は歩く。

 

 しかし謁見まで一ヶ月か……。それからどんな依頼を受けるのか少し不安になってきた。白金貨10枚の価値がある許可証に相当する程の依頼でしょ……


 魔王を倒して来いとか言われたりして……ははは…………


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