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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.88 変化の証明

いつも拙作を読んで下さりありがとうございます(*´ω`*)

本日累計5000PVに到達しました!


投稿始めてもうすぐ3ヶ月。正直1000PVいけばいい方かと思ってたのでとても嬉しいです!!


これからも続けて参りますので、宜しければ引き続き読んで頂けると頑張れます!


あと、いいね、ブックマークや評価、感想コメントなど頂けると励みになりますので宜しければ……むしろくrなんでもないです( °_° )


今後ともどうぞよろしくお願い致します〜






 夜が明け、辺りを覆い尽くす砂の海が陽の光を浴びキラキラと輝いている。

 既に気温は上がり始めていて、今日の厳しい一日の始まりを告げていた。





 それぞれ支度をしてテントをたたみ、先に進む。

 既にうだる暑さが体にまとわりつき、吹き荒ぶ風は熱風。瞬く間に身体中の水分と体力を奪っていく。


 砂漠に入って2日目を経ても旅慣れた様子は見られない。この厳しい環境に順応するには相応の時間と実績が必要だ。




 無心で歩き続けて数時間。


 大きな岩に動く何かを見た。


「あれは……」


 見覚えがあるが、随分懐かしい。

 緑色の肌に、子供くらいの大きさでやせ細った体にボロきれを纏い、醜悪な顔に長く歪んだ耳。目は赤く光り、手には刃こぼれの酷いナイフを持っている。


 最初に死闘を繰り広げた相手、ゴブリンだ。

 

 複数体いるようだ。大きな岩の天辺で騒いでいるゴブリンと、その下で岩を飛び跳ねているのが4体。


 岩の天辺に居るゴブリンをよく見ると、赤黒い角が額に生えているのが見えた。


 ……アイツは魔王の遣いだ!


「……あの岩の一番上にいるゴブリン。アイツは他より少し強いはず。気を付けて」

 

 以前、一対一での命の取り合いをした時の事が脳裏を駆け巡り、つい警戒を強めてしまう。

 だが怖れはない。もうあの魔王の遣いのゴブリンに遅れは取らない。


「あの角が生えてるヤツ、なんなのかしら」


 そうか、サヤとウィニは知らないんだった。


「あの角付きのゴブリンはおそらく魔王の遣いだよ。以前戦ったことがあって、他のゴブリンより手強いんだ」


 とはいえ、僕がなんの力も持たなかったあの頃の話であり、今の僕達にとって敵ではないだろう。

 魔王の遣いならばこの剣を見られた場合、放置はできない。


「一気に片付けよう。天辺の角付きは僕に任せて。二人は他のゴブリンをお願い」

「わかったわ」

「ん!」


 岩の天辺で他のゴブリン達に威張り散らし、お山の大将を気取る角付きゴブリン。

 

 魔王の遣いは解放の神剣を捜索している。こんなところで子分に威張り散らしている場合なのかと疑問に思うけど、末端の魔物は知能も低い。推測だが、命じてもこんなものなのかもしれない。


 僕達は散開してそれぞれ各個撃破する事にした。


 僕も目標を角付きゴブリンに定める。

 村を焼け出されて最初に命を取り合った相手なだけに、特別な目で見てしまう。


 向こうもこちらに気付いて警戒の色を見せる。

 

 砂の地面を蹴って大岩に跳躍し、その天辺で相手を見据えて剣を構えた。


 サヤとウィニはそれぞれ他のゴブリンに仕掛けている。


 戦闘音とゴブリンの悲鳴が響く中、角付きゴブリンと僕は相対した。

 

 突然の襲撃に困惑している角付きは、僕の剣を見るや、驚きの表情をあらわにして、僕に飛び掛かってきた!


 ボロボロのナイフを振りかざしながら、僕の頭より少し高いくらいまで飛び上がってくる。


 ……遅い。あの時の僕には早く感じた速度が、今ではこんなにも遅く感じるものか。


 僕は極めて冷静に剣を移動させ刃を傾ける。

 そしてボロボロのナイフを剣の腹で受け止め、手首を使って剣の刃を翻して弾き返した。


 宙で無防備になった角付きに、そのまま右手に剣を持ち換えながら水平に斬り放ち、胴体を二つに分かたれた角付きは、虚しい叫び声をあげながら黒い塵と化して消えていった。

 

 強化魔術を乗せるまでもない斬撃で、魔王の遣いたる角付きのゴブリンを容易く葬った僕は、呆然とした表情で構えを解いた。


 角付きを倒したことに感慨はない。だが――



 ……こんなに弱かったのか?

 

 あまりの呆気ない決着に僕は困惑し呆けてしまった。

 殺意を向けられた初戦のあの時に、角付きのゴブリンは恐怖の対象として心に刻みつけられてきた。

 その相手を今となってはいとも容易く倒すことができるという実感が、僕の中に残り続ける恐怖を静かに解いていった。


 傍から見れば下級の魔物を倒しただけの些細な事だったが、この瞬間僕の中では、抱いたトラウマを一つ克服したのだ。


 そして僕は己の掌を見つめてぎゅっと拳を作るように握り、自分が強くなっているという実感を噛み締めていた。





 ゴブリンの集団は難なく討伐できた。

 他の魔物が寄ってくる前に僕達は先を急ぐ。


 熱風が吹く砂漠の道もだいぶ慣れてきて、僕達の進む速度も当初に比べたら随分早くなってきたと思う。

 この調子ならあと2日くらいでグラド自治領に到着出来るかもしれない。


 途中魔物への警戒は怠らない事は前提だが、軽口を叩きながら歩く余裕も出てきた。

 これで黙々と暑さと不快感に耐えながら進むよりは、精神衛生上には良いだろう。



 その調子で先に進んで少し経った頃、砂で盛り上がったの斜面を登り、その天辺に辿り着いた僕は立ち止まった。


 後ろを歩いていたウィニとサヤは不思議そうに僕の顔を覗き込んだあと、僕と同じところに視線を移す。



「うわぁ……。すごいな」


 僕の目の前には、大きく窪んだ地面のその真ん中に小さな穴が空いており、その穴に向かって流砂が流れ込んでいる光景だった。

 初めて見るその光景に思わず目を奪われた。


 一点に向かって流れる砂の先に何があるのか分からないが、落ちたら戻って来られなさそうだ。


「あれは、蟻地獄かしら……。大きいわね……」


「穴のところに、お口をあーんってした魔物がいるって聞いたことある」

 

「まるでウィニだね」

「ええ、ウィニね」

「んにゃ!?」


 そんな軽口を叩きつつ、蟻地獄は危険かも知れないので近づかないように先を急いだ。 

 

 


 その日はそれ以降魔物に出くわす事はなく、2日目の野営を迎え、まだまだ続く砂漠の旅に備えて体を休めるのだった。


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