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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.85 潜む者

 岩陰での休憩の後移動を初めて2時間程歩いてきた。


 一歩ごとに足が砂に沈む感覚に少しは慣れてきたが、厳しい環境化に晒され続けるこの感覚は、普段よりも体力を多く消耗していった。


 時間的にはまだお昼にもならない頃のはずで、この熱気もまだ序の口という事を考えると今から憂鬱だ。


 道中は僕を先頭に、ウィニがその後ろを、最後尾にサヤの並びで進んでいる。

 魔物に対する警戒を忘れないように、隊列を組んで行くことにしたのだ。


 どうすることも出来ない暑さと歩きにくさに不快指数は最高潮だ。砂漠を涼しい顔して進める人がいたら尊敬するよ……。

 

 早くここより涼しい所に行きたい。その一心で進み続けた。




 それからしばらく進んだ時の事だった。

 ウィニの猫耳がキョロキョロと周囲の音を聞き分け、すぐにその表情は警戒の色を浮かべた。


「――くさびん、さぁや! 何かいる!」


 僕達はその言葉にすぐさま反応し、剣に手をかけながら周囲を見渡した。

 変わった音はしないし、気配もない。

 だがウィニの警戒の影響なのか、確かに感じる違和感があった。


 ウィニがさらに注意深く様子を探っている。その表情は真剣そのもので、いつもの眠たそうで気だるい様子とはかけ離れている。

 ウィニがこういう表情になる時は、いつも身の危険が迫る時だった。僕とサヤはウィニのその感覚を信頼している。

 必ず何かがいるはずだ!


 注意深く様子を観察していたウィニが、ある一点を凝視していた。


 それは茶色い岩石だ。その辺に点在する岩となんら変わらないように見えるが……。


「――ふんっ」

 ウィニがその岩に杖を突きつけ、数個の石礫を発射した。地属性の下級魔術、ウィニの『ストーンクラッシュ』だ。


 それは勢いよく岩石に飛来してぶつかると、カンっという軽い音を立てて弾かれる。



 なんだ。ただの岩じゃないか――


 と僕が言おうとした時、その岩からギョロっと目が見開いた!

 

 驚いた僕の目も見開いた。

 岩そっくりに擬態していたんだ! ウィニはこの魔物の微かな呼吸音を聞き分けていたのだ。


 ガラガラと自身の体に付いている岩が擦れる音を鳴らしながら、その魔物はうずくまった姿勢から四肢を広げて立ち、こちらを視認する。


 岩を体中に纏わせた、体長2メートルほどのトカゲのような魔物だ。その爬虫類特有の目が僕と目が合った。

 

「あれは、『デザートロックリザード』よ! ――来るわ!」


 デザートロックリザードは僕を目標に定めると、体を丸めて転がってきた! 岩を纏った体による、速度と体重を乗せた体当たりだ。これは受けない方がよさそうだ。


 僕は迫る魔物の動きに合わせて左に逸れて回避する。

 

 転がりながら体当たりをするデザートロックリザードはそのまま通過し、僕に距離を取って転がり姿勢を止めた。


 

 すかさず僕は追撃のために足の強化魔術を解放した!


「――うわっ! 砂に足が取られる!」


 足の強化魔術を発動する時、大きく踏み込む時に砂に足を取られてうまく加速出来なかったのだ。

 追撃は失敗に終わる。


 砂の上の戦闘は厄介だ……! 何か有効な戦術を考えなければ!


「けほっ……! 動きにくいうえに砂埃が目に入って厄介よ! 少し散開しましょう!」


 近くにいたサヤが、僕の強化魔術で踏み込んだ事で舞い上がった砂を被ってしまった。

 僕とウィニはサヤの提案に頷き、いつもよりもお互いに感覚を広く取った。せめて互いに砂の影響を受けにくくするためだ。

 


 地形によって今までの戦い方が出来ない。

 その場合を考慮しなければならなかったと臍を噛んだ。



 そう考えているうちに、デザートロックリザードが再び回転しながら突っ込んでくる。


 幸い速度は目で終えるくらいだ。落ち着いて対処すれば当たりはしないだろう。


「――そこだっ」

 僕は、デザートロックリザードの体当たりをサイドステップで回避した直後に上段に構えた剣を振り下ろした。


 ――――ガィィィン!

 しかし、外皮に覆われた岩で斬撃が音を立てて弾かれる!

 

 やはり表面の防御力は高いか……!

 剣を持った左手に痺れを覚えながら、傷を与えられない状況に難儀する。


「……やっぱり堅い! どこか弱点はないか!」

「クサビ! 岩が覆われていないお腹なら攻撃が通るかもしれないわ!」


 確かに、それなら刃が通るかもしれない。だがどうやって奴の弱点を晒すか……。


「ひっくり返せば倒せる?」

 ウィニがそう聞いてくる。ウィニの魔術なら打開できる何かがあるかもしれない。


 するとドヤ顔になるウィニが自信満々な様子で言い放った。


「作戦がある。ただし2つの魔術を使わないと行けないから集中する時間がほしい」

「わかった! それまで僕が引きつける!」

「私はいつでも飛び出せるようにしておくわ!」


 

 ウィニが杖を地面に突き立てて目を閉じて集中を始めた。

 僕はデザートロックリザードの注意を僕に向けるため、火属性下級魔術の火種を打ち出して挑発する。


 僕から放たれた火球が顔面に当たり、怒りなから回転して突っ込むデザートロックリザード。

 

 そうだ、そのまま僕に来い!


 砂埃をまき散らしながら岩の塊と化して猛進してくるところを、落ち着いて右に避ける。

 

 通過したデザートロックリザードは、勢いをそのままにこちらにUターンして、僕を轢殺せしめんと猛然と襲い掛かる。


 そしてそれを再び左に逸れて回避しようとして動いたその時――


 デザートロックリザードが通過する直前、時計回りに横回転を加えて体ごと飛び上がりながら岩に覆われた太い尻尾を振りぬいてきた! それは回避行動の途中の僕の脇原に吸い込まれていく――――


 体が反応できない中で、時の流れがゆっくりになったように、少しづつ岩の尻尾が僕の腹に接触するところを眺めていた。


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