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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.83 セルルカ宿場町にて

第5章に突入です!

よろしくお願いします!!(*´ω`*)




 やあ、おはよう。

 こうしてここで読み聞かせるのは何日目になるのだろうね?


 うんうん。続きが気になってうずうずしている。そんな顔だね? ――おっとご機嫌斜めさんになってしまった。これは困ったね。


 なら、ご機嫌取りにこの物語の続きをば。


 お師匠さんのもとで生き抜く力を身につけたクサビ少年たちの旅は、花の都を出て今度は過酷な地へと足を踏み出したね。


 使命に向けてついに本格的に動き出したんだ。わくわくしてくるね。


 ……では、続きを読むとしようか。












 花の都ボリージャを旅立ち早2日。

 

 僕達は東方部族連合のウーズ領の、セルルカ宿場町へと辿り着いていた。

 

 セルルカの景色は不思議なもので、ウーズ領側の方を見れば森林豊かな景色が拝め、グラド側を見れば砂漠が広がっているのだ。向く方角が違うだけで、まるで別の国に迷い込んだかのような心地にさせられた。


 そして、砂漠が近い影響で、ここは暑い。

 遠くに広がる砂漠に目をやると、熱気で遠くの景色は揺らめいていて、初めて見る砂漠の光景に釘付けになった。



 ここセルルカ宿場町はウーズ領とグラド自治領との国境であり、旅人の休憩所として機能している。


 僕達にとってはこれから砂漠を進むことになる。準備は抜かりなくしていこう。


 ここから西は東方部族連合の統治範囲外であるため、完全な外国になる。

 ここの西方面の関所を抜けると、エンデレーンで検問官に付与してもらった光の残滓は自動的に消えるらしい。

 光の残滓のこと、体になんの影響もないので今まで完全に忘れていたのだが……。


 セルルカには、ボリージャから歩いて2日と半日掛けてやってきた。ウィニのお腹が鳴る頃に着いたから、ちょうどお昼ということになる。


 それをウィニに言ったら、心外だと言わんばかりに

「む! 乙女のおなかをなんだと思ってる?」

「そもそも乙女じゃないし……時計?」

「んにゃ!?」

 

 などと軽口を叩けるくらいには旅慣れもしていて、安全な旅路であった。



 お昼ご飯を適当なお店に入って済ませ、物資を補充する。

 

 砂漠は歩きにくいと言う。普通の道で3日かかるなら、砂漠では早くて4日目の暮れか5日目くらいはかかる。歩きなれていないなら通常の倍はかかると見積もった方がいいと、物資を補充していた時にお店の人が教えてくれた。


 暑いうえに歩きにくいのか。ここからグラド自治領までは地図上では3日の距離だから、慣れない砂漠であることを考慮すると、倍の6日間の砂漠の旅になる。

 

 これはかなり過酷だぞ……。砂の上では足を取られ歩きにくく、疲れが溜まりやすいだろう。そして猛烈な暑さが体力を奪うのだ。


 だが、暑いだけではない。

 夜になれば昼間の暑さなど信じられないほどに冷え込むそうだ。強い日差しや砂嵐、寒さから守る為には、マントなどの防寒着は欠かせない。


 思ったより荷物が多くなりそうだ。



 だが必需品は買わねばならないと、僕達はマントを買いにやってきた。

 旅人向けの町だけあって、旅に必要な道具は一通り揃っている。折りたためるテントやマントもその中の一つだ。


 厚手でフード付きのマントが並ぶスペースにやってきた。

 いろんな種類のマントがあって目移りしてしまうなあ。



 商品を選ぶ僕とサヤに、ウィニが一枚のマントを持って駆け寄ってきて、バサっと羽織ってみせた。


「くさびん、さぁや! これどう?」


 ウィニが羽織ったマントは、厚い白色に染色した革であつらえたもののようで、大きなフードには猫耳が潰れることなくかぶれるように猫耳用のポケットがついていて、フードもネコの形をしていて可愛らしいデザインだった。


「あら、ウィニ可愛いわね! 似合ってるね!」

 サヤは絶賛だ。確かによく似合っている。僕も肯定した。


「えへへ。これにする」

 ウィニは可愛いと言われて嬉しくなったようだ。にへら~っと顔が崩れていた。いい買い物ができて良かったね。

 


 どれがいいか商品を吟味しながら悩んでいると、サヤが一枚のマントを持ってやってきた。


「ねえ、クサビ。これなんてクサビに似合いそうよ?」


 そう言って広げて見せたのは、全身を包める大きさのフード付きマントだ。こげ茶色の何かの革でできているようで、厚くで丈夫な作りだ。

 前で簡単に留めれるようになっていて、素早く羽織れそうだし、デザインも僕好みだ。


 サヤはこういうのを選ぶのが上手いなあ。


「いいね! じゃあこれにするよ。ありがとう、サヤ」

 マントを受け取り礼を言うと、ニッコリと笑ったサヤは、今度は少し目を逸らしながら自分が持っているマントを広げて見せた。


「……ちなみに私のはこれ。クサビのと色違い……だったり」


 サヤが選んだマントは僕が持っているマントと同じデザインで、赤茶色の革のマントだった。

 

「うんうん。いいんじゃないかな? 使いやすそうだし」

 サヤが選んだものだ。間違いはないだろう。

 僕は否やもなく頷いた。


「……うん。そうよねー……。はぁぁ…………」

 するとサヤはあからさまな溜息をついて少し機嫌が悪くなって、スタスタとどこかへ行ってしまった。


 ……あれ? サヤのやつどうしたんだろう。暑くてイライラしてるのかな。


 首を傾げていると、後ろでちゃっかり見ていたウィニまでもが呆れた顔をしていた。

「くさびん……乙女心をもっと学ぶべき」

「えええ?」


 それからウィニは、やれやれ……。と呆れながらサヤが歩いていった方に去っていった。


 取り残される僕。



 ……えええ?

 


 師匠……乙女心とは、かくも難しきものなのですね。


 僕はさらに首を傾げて考えたが、結局自分の中に答えはないと諦めたのだった。



 

 物資を調達して時間が過ぎて、その日の夜のこと。

 夕食を食べたあと今晩止まる宿の一室に集まって明日についての確認をする。


 記念すべき第1回、希望の黎明パーティ会議の時間だ。


 まず確認することは――


 明日から足を踏み入れるグラド自治領を覆っている砂漠だ。

 歩きにくい細かな砂に、ところどころ大きな岩が点在している。一面の砂じゃなくて助かった。

 

 そして昼間は暑く、夜は寒い。買ったばかりのマントが大いに活躍するだろう。

 

 休憩や野営は岩陰に隠れて行う。魔物の襲撃に備える為と、砂嵐が来た時のためだ。


 あとは野営の見張りの順番とかかな。



 はい、パーティ会議終わり!


「明日からは過酷な旅になるわ。二人とも今日はしっかり休んでおいてね?」

 サヤが念押ししてくる。きっと想像しているよりも辛い道のりになるだろうから、心配したのだろう。


「うん。もちろんさ! 早めに休んで明日に備えよう」

「ん。砂漠はじめて。わくわくする」


 ウィニの気持ち少しわかるな。僕の生まれて初めての光景ばかりで、内心ワクワクしている。


「そうね。でも気を引き締めていきましょ!」


 サヤの言葉に、僕とウィニは明るい返事をして、打ち合わせの解散となった。


 僕は自分の部屋に戻り、早々に眠りに着いた。


 胸に抱いたワクワクが早々に打ち砕かれるとは知らずに…………


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