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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.82 陽光は登り、旅人は征く

 夜は明け、旅立ちの当日を迎えた。

 

 まだ朝の早い時間だというのに、ヴァーミさん、セグイードさん、チギリ師匠とその友人であり、桜色の肌のアルラウネで、ギルドマスターのセルファさん。そしてなんと花の精霊様まで見送りに来てくれた。


 昨日挨拶は済ませただろう。とチギリ師匠はセルファさんにぼやいていたが、僕たちも似たような事を感じなかった訳でもないのでわかる……。でもこんな朝早くなのに見送ってくれるのは嬉しいな。




「いよいよだな。ここからは我々は別々の道を行く。……くれぐれも油断のないようにな」

 

 チギリ師匠も今日この街を発つため、使い古した革の鞄を背負っていた。

 良く晴れたこの日は旅立つにはちょうどよい日和だ。


「はい。師匠もどうかお気をつけて!」

 僕達三人の気持ちを、代表してサヤが応えた。


「希望の黎明の皆、顔を合わせるのは初めてになるかしら。私はセルファ。……旅立つときに自己紹介なんて変ね。……まあいいわ。道中気を付けてね。またいずれゆっくり話しましょう」


「はい! セルファさん、チギリ師匠のこと、よろしくお願いします!」

「ええ。任せておいてちょうだい」


 そこにチギリ師匠がふざけた調子で抗議する。

「おいおい、どちらかと言えば世話してるのは我の方だぞ弟子達よ!」

「あら、今回は私の力が必要でしょ? しっかり世話してあげるわよ」

 と、不敵に笑うセルファさん。チギリ師匠と仲が良いというのは本当だね。渋い顔をする師匠は部が悪いと見て反論を控えた。

 二人とも別れの場でしんみりしないようにするための茶番を打ったのかもしれない。僕達もそれに乗っておこう。

 

「クサビさん、サヤさん、ウィニさん。どうか気を付けてねっ」

 一歩前に出て心配そうなヴァーミさん。僕達のような歳の若い、まだまだ新米冒険者が旅立つのはやっぱり心配なのかもしれない。


「はい! いつか僕達の名前がボリージャまで届くくらいの活躍をしてみせますから!」

「そうしたら自慢するといい」

「私が冒険者登録の手続きしたのよって!」


 僕達はヴァーミさんに努めて明るく返した。

 僕達の返事を聞いたヴァーミさんは口に手を添えて上品に笑った。

「……はいっ! その日が来るのを楽しみにしていますね!」


「クサ坊、二人をしっかり守るんだぞ! いつか三人でまた会いに来いよな」

 と、僕を軽く小突くのはセグイードさんだ。


「もちろんです! 必ずまた来ますから、セグイードさんも元気で!」


 そして花の精霊様が流れるように僕達の周りをぐるぐると飛び回る。花の精霊様が動く度にその軌跡に花のような魔力がキラキラと輝いて現れては儚く消えていく。

 

 やがて僕達の前に降り立つと、サヤの耳元で何かを囁き、それを聞いたサヤは顔を赤くして肩を跳ねさせて動揺していた。

 

 ウィニにも何か囁き、ウィニは使命感に燃えた眼差しでこくこくと頷いている。


 そして僕にも耳元で囁いてくる。

「……前に私が言ったこと、忘れちゃダメだからねっ 想いが力になるんだからっ……ね☆」

 以前、誰かを守りたいと想う力は強いのだと、そう言われたことがあった。その事を指していると理解した。


 僕はまっすぐな眼差しで頷いた。


 すると花の精霊様は満足そうに頷き、まるで豊穣の女神のような穏やかな表情で両手を広げ


「貴方達に、大樹と花の加護を贈りましょう……」

 

 と言いながら僕達にキラキラした魔力を振り掛けて、花の精霊様はまたふわりと舞い、こちらに手を振って舞い踊るように花の軌跡を残しながら飛び去っていった。


 なんだか勇気が湧いてくる気がした。



 

 皆それぞれ十分に言葉を交わした。

 ちょうど朝日が上り初め、木々の間から光が差し込み始めた。そろそろ旅立ちの時だ。


 チギリ師匠が僕達の前に立ち、口角を上げて穏やかな表情を見せた。

 チギリ師匠の顔に、朝日が徐々に照らされていく。


 光に照らされた時、一瞬だけチギリ師匠の目元がキラリと輝いたように見えた。


「ここから先、何があろうとも再びまみえよう。我らの道は違えども、その先では繋がっている。待っているぞ、愛弟子達よ」


 師匠の言葉に目頭が熱くなってくる。

 でもここは涙は見せない。笑って別れるのだ。


「必ず。次にお会いする時にはまた見違えた僕達を見せますからね!」


「師匠、先で待っていてください。必ずそこに辿り着きます。掲げた刃に誓って!」

 サヤは覚悟を宿した瞳で自分の刀を胸の前で翳す。


「ししょお。次会う頃には追い抜いてるから、楽しみにしてて」

 ウィニはチギリ師匠から貰った宵闇の杖を掲げて自信満々に宣言した。



「――では、行きます。ありがとうございました! 行ってきます!」


「さらばだ。行ってくる」


 僕達は西門へと歩き出し、チギリ師匠は僕達から踵を返して北門へと歩き出した。



「――いってらっしゃい」


 残された者達は、違う方向に離れていく旅人達に祈りと共に言葉を贈るのだった――――




 


 時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜

 第4章『花の都ボリージャ』 了

 次回 第5章『熱砂を征く者達』


長かった4章もこれにて了となりました!

ここからはクサビ達とチギリの二方面で状況が動きながら物語が続いていきます。


東方部族連合の中での物語がようやく他勢力の領地へと足を踏み入れることになりました。

今後ともクサビ達とチギリの旅がどうなっていくのか、見守ってくださると嬉しいです!




もし気に入っていただけましたら、いいね、ブックマーク、評価や感想などして頂けると励みになりますので、気が向いたら是非ともよろしくお願いします!(*´ω`*)

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