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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.81 挨拶回り

 明日、ボリージャを発つ。

 昨日皆で決めた。チギリ師匠も行動に移すために明日ボリージャを旅立つそうだ。

 

 しばらく会えなくなるのは寂しいけど、きっとまた会えると思えば僕達も頑張らなくてはという気持ちになる。

 貰った衣を使えば無事かどうかは確認できるしね。




 今日はお世話になった人達に挨拶して回るつもりだ。

 それぞれ依頼で知り合った人がいるだろうと、初めは別行動にして、最後にギルドに待ち合わせすることにした。



 僕はまず北門を守る守備隊の人達に挨拶に来た。

 ここに着いた時にボリージャの歴史を興奮しながら語っていた門番のミゼリッタさんや、責任者のレッテさんには特にお世話になったので一声かけて、あまりに長居して邪魔になってはいけないので簡単に挨拶してその場を離れた。


 僕の別れの挨拶に、二人とも笑顔で返してくれた。

 冒険者になりたての頃、ここではいろいろと学ばせて貰った。

 次にここを訪れた時にはまた笑顔で再会したいな。



 その後はケレンの葉っぱという、ケレンさんが営む道具屋に向かった。

 挨拶ついでに何か買わないとね。


「いらっしゃいませ〜っ……あら! クサビくん、お久しぶりだね〜!」


 お店の扉を開けると、今日は店内にケレンさんが居た。

 品物を陳列していたケレンは僕に気付くとぱっと明るい笑顔で迎えてくれた。


「お久しぶりです、ケレンさん」

「今日は何をお求めかな〜?」


 旅に役立ちそうな薬類を買っていこう。でもその前に挨拶をしておかないとね。


「実は、明日ここを発つ事になりまして……。旅に役立ちそうな物を買おうかと。それとケレンさんにご挨拶をしに来ました」


 そう言うとケレンさんは少し残念そうな顔をした。

「あらぁ、そうなの〜。旅人さんだものね! いつかはそういう日が来ちゃうわよね……。 寂しくなるけれど、旅に出るなら準備はしっかりしていってねっ!」


 ケレンさんはいつものように明るい笑顔に戻る。

 妙にしんみりするよりはいい。


「これまでお世話になりました。またここに立ち寄った時にはまた買いに来ますね!」

「うん! また会える日を楽しみにしてるね〜!」


 ケレンさんのお店で回復薬と解毒薬など役に立ちそうなアイテムを購入して笑顔で店を出て別れを済ませた。


 その後は、顔見知りの住人に挨拶して回り、残るは冒険者ギルドの周辺のみとなったので、冒険者ギルドに向かうことにした。




 ギルドの入口に到着すると、外でサヤとウィニが待っていた。二人とももう挨拶回りは終わったようだね。


「くさびん、よお」

「もういいの?」


 二人は僕を見つけ、僕も二人のところへ歩み寄った。


「うん。後はこの辺りの人だけだね」

「私達もよ。それじゃまずは――」


 皆で揃って挨拶しにいくところは、まず素材買取をしてくれる狼系の獣人のおじさんのところだ。ギルドの隣に店を構えている。


 これまで討伐依頼などで魔物の素材を査定して買い取ってくれたから、随分お世話になったんだ。

 


「――いらっしゃい……おお、クサ坊達か。今日はどんな素材を持ってきたんだ?」


「こんにちは、セグイードさん! 今日は挨拶に来ました」


 もうすっかり顔馴染みになり気さくに話す間柄になっていた『セグイード・ブルーアイ』さんは、僕の言葉に何かを察し、気を引き締めた顔をした。


「ああ、そっか。お前さん達ついにこの街を出ていくんだな。……今まで世話んなった」

 セグイードさんは僅かに哀愁を纏わせながら頭を下げて、僕達も慌てて頭を下げる。


「あ、頭を上げてくださいよ! 僕達の方こそお世話になりっぱなしでしたから!」

 そういうとセグイードさんは頭を上げ、狼牙族の鋭い目つきを和らげる。

「なら、お互い様だな! ……またいつでも来てくれよな。」




 それぞれ挨拶をして店を出る。

 やっぱり寂しいなあ。でも旅をしていれば新しい出会いもある。別れを悲しむより、新たな出会いや人との繋がりを楽しみにしていこう。



 次は冒険者ギルドだ。

 僕は冒険者ギルドの扉に手を掛ける。

 

 初めて冒険者になろうとした時の事を思い出す。

 手に伝わる感触は同じなのに、心持ちは随分と違うものになっていた。


 あの時と比べ物にならないくらいの強い覚悟と決意を連れて、僕達はここから旅立つんだ。



 中に入ると、カウンターには受付けのヴァーミさんが、僕達に気付き、いつもと変わらない笑顔を向ける。


 ギルドでは一番お世話になったのはヴァーミさんだ。

 その太陽のような笑顔に、冒険者を始めたての頃の不安だった僕は、何度背中を押された事だろう。


「お疲れ様です、クサビさん! サヤさん! ウィニさん!」

「お疲れ様です、ヴァーミさん!」


「今日も依頼を受けるご予定ですか?」


「いえ、……実は、明日ここを発つ事にしました。今日はその挨拶に来たんです」

 毎回そうなんだけど、この瞬間が一番胸が苦しいよなあ……


 ヴァーミさんは驚いたのか一拍置いたあと、精一杯の笑顔を向けてくれた。


「そう……ですかっ 寂しくなっちゃいますねっ……旅のご無事を祈ってますね……!」


「はい! お世話になりました! また来た時はよろしくお願いします!」


「ヴァーミさん、いろいろありがとう……! また会いましょう!」


「厨房の人に、ごはんありがとうって伝えてほしい」


 それぞれ挨拶を告げる中、一人だけズレたベクトルの発言に思わず僕とサヤとヴァーミさんは笑ってしまった。

 

 今回ばかりはしんみりムードを回避させたウィニに感謝だね。本人は自覚してないんだろうけど。

 

「――ふふふっ はいっ! 伝えておきますね!」


 くすくすと笑うヴァーミさんが笑い終えると、居住まいを正して綺麗なお辞儀をして、頭を上げた時にはいつもの笑顔と言葉を向けた。


「希望の黎明の皆さんのこれからのご活躍をお祈りいたします。……いってらっしゃい!」


「「「――行ってきます!」」」



 何度も背中を押されたその言葉に、再び背中を押された僕達は晴れやかな表情で踵を返し、ギルドを出た。


 ……別れ間際にいってらっしゃいって言われるの、なんかいいな。



 これで一通り挨拶できたはずだ。

 でも、強いて言うならもう一人……いや、お二方が残っている。




 僕達は大樹が聳え立つ噴水広場にやってきた。


 この街を守り続けてきた大樹の精霊様にもご挨拶をしたかったのだ。あと、できれば花の精霊様にも。居ればいいんだけど……


 僕とサヤ、ウィニは横に並んで大樹を見上げる。

 そして手を握り合わせ、瞑目してそれぞれ祈りを捧げた。


 ――大樹の精霊様、今日までお守りくださりありがとうございました。僕は必ずこの世界を魔王から救ってみせます……――



 祈りを捧げると、心地よい風がどこからか吹き、僕達の首元をくすぐっていく。まるで大樹の精霊様からの返事のように感じた。


 僕は大樹を見上げて微笑んだ。そして明日からの旅への意欲を高めていくのだった。



 するとまた風が首元を擽る。大樹の精霊様も案外悪戯好きなのかな――――


「ふ〜〜〜っ」

「――おわぁぁ!?」


 ……違った。悪戯好きなのは、いつの間にか僕の背後で首筋に息を吹きかけている花の精霊様だった。


 ……あ、いい香り――ってそうじゃなくてっ!


 僕はびっくりして思わず尻もちをついてしまった。

 サヤがすぐに僕の腕を掴んで立ち上がらせてくれた。

 そして腕を絡ませて密着して、そのまま離れない。


 ……サヤさんや、少し離れてくれ……ちょっと困る。

 いや……いろいろ当たってすごく困る!


「はぁ〜い♪ みんなのアイドル花の精霊さまの登場だよ☆」


 花の精霊様はふわりと宙を舞いながら魅力的なポーズを決めている。


「花の精霊様……。驚かさないでくださいよっ」

 僕は顔を赤くしながら精一杯の抗議をする。


「あはは♪ だって面白い反応なんだもの〜!」 

「勘弁してください……。あっ、僕達明日旅立つ事になりました! お世話になりました!」


 僕はこの場を誤魔化すように早口になって挨拶を告げた。なんだか落ち着かない。


 花の精霊様は僕達の目線まで降りてきて、足を組んで座る体制のままふわふわと浮遊している。

「うん、チギリちゃんから聞いたから知ってるわ〜☆ だから最後にいじろうと思って♪」


「チ、チギリちゃん…………って! それ必要あります!?」


 すっかりキレの悪い突っ込みが虚しく流れていく。

 花の精霊様と話すと、その奔放さに調子が崩されてしまうよ。まったく……。


 そんなことを考えていると、花の精霊様は満面の笑みで僕とサヤを交互に見て大きく頷いている。


「貴方達やぁっとくっついたのね♪ いつももどかしいから見てるこっちは気が気じゃなかったわ〜!」


「「……へ!?」」

 僕とサヤは揃って同じ反応をして赤面した。


 それはちょっと誤解というか、語弊というか……。

 まあその気持ちはあるんだけども……さ。


 って……ん? いつも見てたの……? え!?


「二人とも、お幸せにね♡」


「ちょ、ちょっと! 僕達はまだそういう――」


 ――関係じゃない。と言おうとした僕は、僕の腕に絡まるサヤが、ぎゅっと強く締め付けてきたのを感じて言い淀んだ。


 サヤを横目で見ると、もじもじとして真っ赤な顔をして下を向いて恥ずかしそうにしていたが、その目は花の精霊様の言葉を決して否定はしていなかった。


「サヤ……?」


「――――――っ」



 なんとも言えない不思議な雰囲気が流れる。

 これは、僕も男を見せる時なのか。

 そう思わせるような、そんな雰囲気が漂っていた。


 僕は花の精霊様に視線を移す。


「〜〜〜〜〜っ♪」

 両手を握り合わせてこっちを興味と期待の眼差しで目をキラキラ輝かせて見ている。


 その横で


「いいぞ。もっとやれ。ごーごー、くさびん」

 花の精霊様と同じようなポーズを真似して目を輝かせてしっぽを高速でぶんぶんと振っているウィニが小声で呟きながら見ていた。


「………………」


 それ見たら急速に恥ずかしさが冷めていく。

 どうやらそれは僕だけじゃなかったようだ。


「サヤ」

「うん」



 サヤは躊躇いも抑揚もなくスッと僕から離れた。


 無表情を極める僕とサヤに、花の精霊様とウィニは悔しがりながら抗議していたが、もう知らない。


「これは重症ね……! ウィニちゃん! 旅の間貴女にかかってるわ! しっかりね!」

「ん! わたしは あいのきゅーぴっと まかせて」


 なんだか二人で密談している……。意外と気が合うのかあの二人。



 ……いろいろかき乱されたけど、ともかくこれで皆への挨拶は済んだ。あとは明日に備えるだけだ。


 気持ちを切り替えて明日の事を考える事にした僕なのであった。


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