Ep.80 Side.C 世界規模の計画
東方部族連合、ウーズ領最大の拠点にして花の都と詠われる街ボリージャ。
その冒険者ギルドの3階、ギルドマスターの執務室に我は居た。
「――また唐突に言うわね…………」
ギルドマスターのセルファが驚きを通り越して呆れたように言葉を零した。
彼女がこうなった原因は我にあるのだが、少々単刀直入過ぎたようだ。
部屋に入室した我は、簡潔かつ迅速に『セルファよ、我は明日ボリージャを発つ。世話になったな』と告げた結果であった。
「あまりに急過ぎて理解が追いつかないわ……。で? 一体どういう経緯でそうなったのよ」
「長命の我にも再び転機が到来したという事だ。……我はこれより魔王打倒の勢力を発足する為世界を渡るつもりだ」
「ええ……。何でそうなったのかが気になるんだけど。――本気なのね?」
「無論だ」
嘘偽りない眼差しでセルファを見つめる。
「弟子達の輝かしい眼差しに触発されたのだろうさ。我とて元はSランク冒険者だ。世界の危機に力ある者が動かねばならないと思い至った次第さ」
我が本気であると、セルファは理解を示したようだ。
「……そう。わかったわ。頼もしい友人が去っていくのは寂しいけれど、止められないわね」
「そこでだセルファよ、君の唯一の友人である我が、君に協力を要請したいのだよ」
「あら、珍しいわね貴女が私に頼み事なんて……って唯一ってどういう事よ! 友人は他にもいるわよ!? …………まあそれはいいわ。何を手伝えばいいの?」
我はセルファにこれからの展望を語る。
我は、この世界を蝕む魔族に対抗する、冒険者で構成された反抗勢力を発足させるつもりだ。
この元Sランク冒険者という肩書きを最大限に活用し、ギルドの協力を仰ぐ。それが大前提である。
現在でも国の依頼で防衛依頼を受けている冒険者も居るだろう。それ以外で冒険者のパーティ単位で束ねたクランを作るのだ。
それにはギルドの協力の他、国とも話を付けねばならない。セルファにはギルドマスターの地位を存分に奮ってもらい、我という存在を公表して欲しい。
元Sランク冒険者が、魔族に対抗できる冒険者による一大勢力を立ち上げようとしてるらしい、とな。
数多のパーティを束ねたクランを立ち上げれば、無視できない程の戦力となり得る。そしてそれを雇えるのは四大国家のお歴々の財力というわけだ。
つまり、世界規模の依頼を請け負う冒険者集団を誕生させ、魔族の侵攻に対抗するのが目的となるのだ。
「――この計画の最初の協力者になってくれ、セルファ。友人である君に、『最初の』味方になって欲しいのだ」
熱のこもった我の言葉に、セルファは満更でもない顔をしていた。よし、セルファは特別やら、限定やら、優越感を得られる言葉に弱いからな。ふふふ。
「も、もちろん貴女の為なら骨を折る事も吝かではないわよ……。いいわ、やってやろうじゃない!」
「ああ、感謝するよ。やはり君以外に頼めないな」
これで各地のギルドに提案しやすくなるはずだ。
「――委細承知したわ。各ギルドへの通達は任せておいてちょうだい。それで、貴女はどうするの?」
「我は手始めに東方部族連合の統治代表の一人、耳長人の『アスカ・エルフィーネ』に面会するつもりだ。」
代表の一人であるアスカとは旧知の仲だ。そしてそのパイプを伝い、残りの統治代表の二人、獣人代表『ラムザッド・アーガイル』と、人族代表『ナタク・ホオズキ』とも会わねばならん。代表三人の意思を統一させなければ協力は得られん。
そうやって各国の代表と面会し、勢力発足に向けて説得して回る、世界を股に掛けた大仕事だ。
そして各国の代表が一堂に会する場を設け、勢力発足の許可を貰い、世界に雇ってもらうという算段なのさ。
辛く手間のかかる計画になるだろう。志半ばで潰えるやもしれん。
だが、世界の命運を弟子達だけに背負わせはしない。
その為のクランだ。
「わかったわ。……そして明日には発つのね」
「ああ。時が惜しいのでな。しばしの別れだが、我と君の絆が途切れぬ限りどこに居ても会いに行く故、案ずるな」
我はセルファに微笑みかける。
「……貴女のそういうところよ。なんでそう恥ずかしい言葉をいけしゃあしゃあと言えるのかしらね! ……心配してないわ。それに絆は途切れないわよ」
セルファの表情が忙しく変化する。照れ隠しする時の怒り顔から真面目な顔へ、そして視線を落として儚げな表情へ。
そしてセルファは顔を上げて強気な眼差しを浮かべて言い放った。
「――ほら、さっさと挨拶回りしてきなさいよ! …………また会いましょう。私の唯一の友人さん」
我は痛快に笑いながら踵を返して、後ろ手に振って部屋を出た。




