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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.79 反撃の誓い

 平原を模した部屋で二度に渡る号泣も、ようやく落ち着きを見せ始め、それぞれが平常を取り戻した頃


 突然部屋の中を、この場にそぐわないような異音が鳴り響いた。


 とはいえ、僕達にとっては耳馴染みのある音だ。

 僕とサヤ、チギリ師匠の視線が一斉にウィニのお腹に集中した。音の張本人もその音の知らせに、お腹を押さえて『おお~』などと言っている。


「おなかがすいたので、今はお昼だよ」


 ウィニの腹時計はかなり正確だ。ここは地下だし、この部屋は天候に変化はなくて時間の感覚が薄まっていたから、もうそんなに時間が経っていたことに驚いた。


「ふふ。では一度食事にしようか」

「ん! はやくたべよ!」

 ウィニが元気いっぱいに返事をして部屋の扉にすっ飛んでいく。ちなみに比喩ではない。


「まだあんな元気残ってたのか……すごいね。僕はもう足が重たくて大変なのに」

「なによクサビったら。ジジくさいわね~」

 

 ぼやきながら歩く僕に、サヤがそう揶揄う。

 ……そんなことないやい。




 訓練所を出て地下の階段を上がると、飲食スペースの端のテーブル席を、すでにウィニがにっこにこで確保していた。

 ほんと、ご飯のことになると嬉しそうな顔するんだから憎めないな。


 もうすっかり定位置のようになっていたこのテーブル席。

 皆で囲んで食事するのも、しばらくはこれで最後になるのかもしれない。

 チギリ師匠と過ごせる時間が、途端に貴重なものに思えて若干の哀愁を感じてしまう。


 ウィニはニコニコしながらチギリ師匠にくっついて料理を選んでいる。

 

 今まで一緒にやってきて気づいたが、ウィニは落ち込んだり寂しい時誰かに寄りかかってくることがよくあった。

 きっとそうやって紛らわそうとしているんだろう。今だってチギリ師匠にベッタリだ。ウィニも本当は寂しいんだ。

 

 もしかしたらさっきから妙に明るいのは、ご飯が食べられるからだけの理由じゃないのかもしれない。


 ……そうだよね。最後の時だからこそ楽しく思い出にしたいよね。

 ウィニの様子に、僕も考え方を改めることにした。




 そしていつも通りの和やかな雰囲気で食事が終わり、お茶を飲んでいると、優雅にお茶を一口飲んだチギリ師匠が、思い出したかのように話を切り出した。


「――おっと。つい忘れるところだった。立派に成長した君達に、餞別でも進呈しようと思案していたのだったよ」


 

 そういうとチギリ師匠は席を立ち『訓練所で待機していてくれたまえ』と言い残し、ギルドを出ていった。


 僕はサヤとウィニの三人で一体何を貰えるのかと、ワクワクしながら訓練所で待つことにした。



 ――それから数十分後


 荷物を持ったチギリ師匠が訓練所に姿を現した。


「待たせたね。何処にしまったか忘れてしまってね。少々捜索していたのだよ」


 と、言いながら足早にやってきて荷物を置くチギリ師匠。


「我がSランク冒険者として活動していた時に入手した装備品を、君達に進呈しよう」

 

 僕たちの装備が心許ないのと、祝いの意味を込めて。ということらしい。貴重な装備を貰えるなんて感謝の念は尽きない。

 

「ではまず、ウィニから。……これを」

 

 そう言って、チギリ師匠は先ほど僕達と戦った際に使っていた、黒い長尺の杖を差し出した。


 金属とも違う質感で、全体的に黒いフォルムに光沢が美しさを際立たせ、杖の先に施された装飾と宝玉には高級感が漂っていた。

 まじまじと見るとわかる。それは明らかに強力な力を秘めた杖であることが窺える。


「ししょお、これ……すごい…………」

 ウィニは杖を眺めながら目を丸くして驚いている。


「この杖は『宵闇の杖』と銘を冠す精霊具だ。もう百年以上前になるが、とある国で催された魔術闘技に出場した際に勝ち取った物でな、長らく我の愛用の杖だ」


 精霊具とは聞きなれない道具だ。

 チギリ師匠の説明によると、制作時に精霊の介入を経て精製された武具や道具を『精霊具』と呼ぶそうだ。

 精霊具は数が少なく、いずれも役に立つものや強力なものばかりだという。


「ししょおの愛用の杖……」

 ウィニは今まで借りていた長杖をチギリ師匠に返し、宵闇の杖を受け取って、大事そうに両手で抱きしめた。


「ありがと、ししょお。……大事にする!」

「ああ。我の相棒をよろしく頼むよ。我が弟子、ウィニエッダ」



「サヤにはこれを」

 

 チギリ師匠は荷物から装飾品を取り出した。

 2つで一対の、両腕にはめるタイプの腕輪で、見た目は手甲に近い。白銀に輝き、装飾が金のラインで飾り付けられていて、宝玉がはめ込まれていた。


「これも精霊具だ。銘は『循環の輪』という。使用者の魔力の流れを促進させ、この装飾された宝玉が魔力の負担を軽減させる効果を持っている。大いに君の助けとなるだろう」


 サヤは循環の輪を受け取り両腕にはめてみる。

 そして試しに回復魔術を発動させてみると、普段よりも少ない魔力で強い効果を発揮した。


「……すごい。いつもよりも楽に魔力を操れます……。師匠、ありがとうございます!」


 サヤは嬉しそうに腕輪に手を添えながら礼をしていた。

 反射した光がキラリと煌めいていて、サヤにとてもよく似合っていた。


 

「さて、ではクサビにこれを進呈しよう」

 ウィニとサヤには強力な装備品だっただけに、僕の期待が高まっていく。


「これは精霊具『絆結びの風衣』という。これは服の下に身につける防具で、羽のように軽く、その耐久性は竜の爪ですら穴を空ける事能わずと言われている」


 チギリ師匠が絆結びの風衣を広げて見せてくれる。

 一面白というシンプルな作りだが、よく見ると何かの金属が細かく編み込まれて作られているようだ。


 受け取ると、その手触りは上等な絹と変わりない質感だった。


「それと、その衣にはもう一つ特殊な機能が備わっている。魔力を通すと、絆で結ばれた者の居場所が分かるというものだ。魔力を込めれば込めるだけ探知範囲も広がる」


「防具としてもすごいのに、それは便利ですね! 大切に使わせて頂きます。ありがとうございます!」



 それぞれに餞別を貰い、僕達は興奮と喜びで沸き立つ。

 

「喜んで貰えたようで何よりだ。…………では愛弟子達よ、聞いて欲しい」



 僕達はチギリ師匠の雰囲気の変化を感じ取り、居住まいを但してまっすぐ見つめる。チギリ師匠は真剣な表情になって言葉を紡いだ。


「これを告げるのはもうこれで何度目か分からないが……。これから君達は強大な相手と対峙していく事になる。それは生半可に突破できる難事ではないだろう」


 チギリ師匠が説く、今後の旅の先に待つ困難への心構え。何度も聞いた事だったが、今回のその言葉は一頻り僕達を案じる気持ちが含まれていた。


「魔王の復活に世界は未曾有の危機に直面している。このにもいつ魔族が襲撃するかも知れないのだ。……故に」


 チギリ師匠は何かを決意したように強い眼差しを僕達に向ける。



「――我は我で、魔族の侵攻を阻止する為に行動を開始すると決めたよ」


 僕達はチギリ師匠の決意に驚いたが、それ以上に頼もしさが勝っていた。

 チギリ師匠は、僕達とは別方面から魔族打倒を掲げて動いてくれると言うのだ。元Sランク冒険者の肩書きを利用し、各地で戦力を募り、魔族への反抗勢力を発足するとチギリ師匠は語る。


「我は手始めに、この東方部族連合領の統治代表の一人に会うとしよう。君達とは逆の道となってしまうが、案ずることは無い。我らは強い絆で繋がっているのだから」


 チギリ師匠は魔族に対抗する軍勢を作ろうという。これ程心強い味方はいない!


「つまり、クサビに進呈した衣で我の居場所はわかる。我も同じ効果を持つ精霊具を所持している故、そちらの場所も把握できる。合流は容易いだろう」


 そうか、だからチギリ師匠はこの絆結びの風衣を僕に渡したんだ。チギリ師匠はずっと先を見ているんだ。


 チギリ師匠はさらに言葉を続ける。

 

「――これよりは我らは魔王打倒を志とする同志だ! いずれ必ず君達の力になると誓おう」


 僕にとってこれ以上ない程の背中を押す言葉だった。

 僕の中の魔王に対抗する為の勇気が、心の中の希望の灯をさらに大きくした。


 僕達の決意を秘めた表情に、僅かに微笑むチギリ師匠は自身の杖を天に掲げる。


「ん。……んしょ!」

 ウィニが宵闇の杖を同じように掲げ、チギリ師匠の杖に合わせる。


「ふふ! こういうのいいわね!」

 サヤが抜刀し、二つの杖に刀の刃を合わせた。


「……父さん、母さん、皆……。僕は必ず成し遂げるよ!」

 解放の神剣を抜剣し、天に掲げて三人と気持ちを合わせる。



「――此処に誓おう! 魔王滅するまで絆は共にあると! そして戦火を経てなお誰一人欠けること無く、再び相見え、共に肩を並べて戦い抜くと!」


「「――はい!」」

「おー」


 ここに僕達の決意と意志は一つとなり、反撃へと動き出すのだ。

 きっとこの光景は忘れないだろう、と僕の心は高揚していた。


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