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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.78 賛辞

 ようやく落ち着いた僕達はチギリ師匠と向き合っていた。


 チギリ師匠との戦いを終えて結果も残せた。

 激しい手合いの披露で体が重たく感じながらも、充実感と、試練を乗り越えた達成感を噛み締めていた。


 そんな僕達にチギリ師匠は語る。


「諸君、よくぞ我に覚悟を示してくれた。今や初対面の頃のひよっこではない。君達はもう立派な戦士だ」


 その言葉が心に響く。今までの特訓が報われた思いだ。


 そしてチギリ師匠は僕を見る。

「……クサビ。三人の中で君が最も成長した。どうやら君には元々戦いの才能が備わっていたのだな。今後は実戦の中で磨かれていくだろう」


「……はい! これからも努力を続けていきます」


 僕は万感の思いで応え、深くお辞儀した。

 チギリ師匠は穏やかに頷くと、次はサヤに視線を移す。


「思えば切っ掛けはサヤに声を掛けた事から始まったのだったな。あれからサヤも見違えるように成長した。……先程の居合は少々肝が冷えたぞ」


「私はまだまだです……。でも今は凄く嬉しく思います! 今後も努力していきます」


 チギリ師匠は最後にウィニに目を向ける。


「風魔術であれほどの機動を見せるとは驚いた。そして土壇場で雷鳴を具現化するとは思わなんだよ。なかなか効いたぞ」


「ししょおの雷、いっぱい貰ったから覚えた。わたしの超必殺技にする!」

 ここぞとばかりにいつものドヤポーズだ。その当の本人のしっぽは左右に揺れて、猫耳はぴんと立っていた。


 

 師匠から弟子に送るささやかな賛辞は淡々としていたが、それが実にチギリ師匠らしくて思わず僕の顔が綻んだ。


 チギリ師匠は愉快そうに笑ったあと、雰囲気を改めて僕達をそれぞれ見やり言葉を締めくくる。


「これ程に動けるならば、この先の困難も乗り越えてくれると我は信じよう。己が使命を果たす為の旅に送り出そうじゃないか!」


「――――――」


 その言葉は僕達の力が認められたと同時に、チギリ師匠との修行の日々の終わりを意味していた。


 感慨深い思いが胸の中を満たしていく……

 

 僕には勇者の伝承の追求やこの剣の力の復活という目標があり、魔王を討ち果たすという使命がある。

 わかってる。悠長にしていられる旅ではないということは。


 それでも……

 

 大変だったけど、出来なかった事が出来るようになって行くあの時間が楽しかったんだ……。

 この街で冒険者になって、師匠や皆と修行して強くなっていくこの日々を気に入っている自分がいたんだ。

 この街も、街の人も大好きになっていた。




 ――そうか。その日々とも、お別れの時がもうすぐそこまで来ているんだ。


 熱くなる胸の奥に渦巻いている気持ちの中に、寂しさという感情が確かにあって、それはどんどん大きくなっていく。



 その寂しさに気付いた時、僕の両の瞳からボロボロと溢れる気持ちが頬を伝って落ちていく。

 それに気付いて腕で拭うけど、それでも溢れてきてしまうくらい、自分では止めることが出来ないでいた。

 見られるのが恥ずかしくて、かっこ悪くて下を向いて肩を震わせた。



 サヤはそんな僕の肩を手を置いて寄り添い、同じように涙を流していた。きっと同じ気持ちを抱いているんだろう。

 僕の方が涙腺を抑えることができなくて情けないや。


 ウィニは僕の服の裾を摘んで隣に立ち、僕の様子をいつもの仏頂面で見ている。服を摘むウィニの指が力んでいて、ウィニなりに感慨に耽っているのかもしれない。



 チギリ師匠は僕の様子に少し困った顔をして、やれやれと穏やかな視線を向けていた。


 感極まって涙でぐしゃぐしゃな顔のまま、僕はチギリ師匠に深くお辞儀をして声を出そうとした。

 しかし泣きくれて声が上手く出てくれない。


 だがこれだけは伝えたかった。今伝えなければ……!

 僕は涙に濡れた顔も震える嗚咽混じりの声も構わず、精一杯に声を絞り出した。


「……師匠…………。今まで、……ありがとうございました……ッ!!」

 

 それに続いてサヤとウィニも続く。

 部屋の中をすすり泣く音がただただ響く。


「やれやれ……。ようやく落ち着いたというのに、これでは振り出しではないか……この泣き虫達め…………」


 そう言うチギリ師匠の声も震えていたように聞こえた。


 それからまた落ち着くまでのしばしの間、4人分の泣き声の中で穏やかな祝福の時間が過ぎていくのであった……。

 

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