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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.77 思いの果てに雷鳴は鳴る

「さあ、見事捌いてみせてくれ!」


 そう言うとチギリは右手の杖を高く掲げた。杖にあしらわれた宝玉が青く輝くとチギリは杖を振り抜いた!


 突如、周囲に激しい吹雪が出現する! あっという間に辺りの視界は真っ白くなり、サヤとウィニの姿が見えなくなるほどだ。


 そして……寒い。急激に冷やされていく体は、徐々に動きを鈍くさせる。

 このままじっとしているのはマズイ!


 どの方向も真っ白に包まれる中、チギリの声が木霊する。

「ふふ。この『フリジッドテンペスト』にどう対応する?」


 一面真っ白に染まり、仲間の位置を把握出来ない。

 このままでは各個撃破されてしまうし、何よりこの吹雪による低体温で動けなくなる!

 なんとか打開する術はないか!?


 僕は右手を前に突き出し、火属性下級魔術の火球を打ち出す。これまでの訓練で、火種と名付けた魔術は無詠唱で発動できるようになった。

 ……のは良いのだが、現状の打破には至らない。僕の火球は冷気に負けてすぐに掻き消えた。


 ――その時、ウィニの鬼気迫る声が聞こえた!

「くさびん! さぁや! 今すぐ動いて!」


 その声に僕は形振り構わず前進した。


 すると、さっきまで僕が立っていた場所に強烈な雷撃が落下した!

 ウィニは魔力の流れを読める。きっとそれを感知して知らせてくれたのだ。


 この状況を打開する為にはウィニの感知能力が鍵となる!


「皆無事か!?」

「ええ!」

「問題ない!」


 激しい吹雪の中で仲間達の声が返ってくる。二人とも無事だ。

 

 僕は目一杯高く跳躍し様子を確認する。

 吹雪は高いところは影響はないが地上の様子は真っ白に包まれていてサヤとウィニの位置は分からなかった。


 が、青く輝く光を捉えた。

 おそらくあの場所にチギリがいる。

 この魔術はおそらく魔力を送り続けて吹雪を吹かせ続ける魔術なんだ。


 ならばその魔力供給を止めればこの吹雪は止まるはず……!


 そう分析しながら着地した直後、再び雷撃が襲い来る。

 それを横に飛び込んで避けた。


 きっとチギリもこの真っ白な景色で僕達の姿は見えないはずだ。おそらく声と魔力を感知して攻撃して来ているんだ。


 ならば魔力を使わず接近できれば……。


 さっきジャンプした時に見えた青い光の位置は大体分かった。この猛吹雪で足音も聞こえにくいだろう。

 この状況を利用して奇襲を仕掛ける!

 

 強化魔術を使わずに僕は走り出した!



 この間もウィニやサヤがこの吹雪に抗っているようだ。

 もう少しだけ待っていてくれ!


 そろそろチギリがいる辺りのはずだ。

 できるだけ接近してから強化魔術で一気に攻めるんだ!


 そろそろいいか……!


 僕は素早く足に強化魔術を発動させ低空で飛び込み、左手に持った剣を右側に構える。


 魔力を感知したチギリは僕にもう気付いたはずだ!

 本気で振り抜く……!


 そして真っ白な眼前に黒いローブを視界に捉え、僕は水平に剣を振り抜いた!


「やああああっ!」


 ――ガキィン!――

 剣と杖がぶつかる音が響き力が拮抗する。その直後、周囲を吹き荒んでいた吹雪が消え去り、視界が回復する。


 不敵な笑みを浮かべるチギリは楽しげに言葉を紡ぐ。


「ははは! やるじゃないかクサビ!」

「師匠! まだ終わりませんよ……!」


 僕はそう言うと、あらゆる角度から連撃を叩き込む。

 

 上段袈裟斬り、返して斬り上げ、右足で中段回し蹴り、体ごとそのまま回して水平斬りし、右手に剣を持ち替え斜め上へ斬りを放ってから左手に持ち直し逆側に斜め上に斬りX字に攻め立てた!


 それをチギリは杖で防御障壁を発動させて防いでいるがそれでいい。

 僕は足を止められればいいんだ!


 視界の端にサヤとウィニが動いているのが見えていたのだから。


「あああああああぁ!!」

「……これはっ…………!」


 声を張り上げながら力の限りに何度目かの連撃を仕掛け、そのままの流れを活かしながら体を捻って、回転する刃の如く高速の回転斬りを見舞う!

 動く暇など与えない。その一心で猛攻を仕掛けた。


 そこにサヤが反対側から飛び込んで、チギリを間合いに捉え、腰を低くして居合の構えに移る! 鞘に刀を収める動作がゆっくりに見えて、魔力が溢れていく――


「――っ!」

 チギリの目が見開く。


 やがてサヤは魔力を溜めながら刃を鞘に収めきって、カチンと刀の柄が鞘に接触する音が鳴ったと同時に刃が勢いよく解放される!


 サヤのたった一撃に賭けて繰り出した全力の居合斬りがチギリに放たれ、チギリは右手を翳し防御障壁で受ける!

 

「――くっ……!」


 僕の回転斬りとサヤの居合斬りの負荷に耐えられず、チギリが吹っ飛んだ! その表情には苦悶の色が見て取れた。


 チギリの体が宙に投げ出されている。

 その頭上に白い影があった。

 

 その影の正体は、風魔術を自在に操りチギリに肉薄したウィニだ!


 ウィニはチギリに借りた杖をチギリの腹の辺りに押し付ける。その表情は本気そのもので、瞳には覚悟を備えていた。

 

「――駆け巡れ光の如く、鳴動せよ蒼き嘶き……!!」

「……はは。よもやここまでとは――――」


 ウィニが持つ杖からチリチリと音を立てながら青い稲妻が発生し始めた! ウィニが杖を両手に持った。

 そして――


「……イレクトディザスターーー!!」

 ウィニの全力の魔力を込めた魔術が顕現する!


 それは、ウィニの杖の先から爆発的な力を帯びた青い雷鳴が放出された!

 それを至近距離で受けたチギリは地面に叩き落とされ、土煙が舞う。



 僕達は構えと解くことなく土煙の先を睨む。

 やがて徐々に土煙が晴れ、チギリの姿が瞳に映し出された。


「…………」

 チギリは立っていた。

 だが、杖で支えるようにやっと立っているという状態だった。チギリのローブはボロボロに汚れていて、所々煙が立っていた。

 ウィニの放ったあの雷魔術がいかに強烈だったかの証左でもあった。



「……ははははは」

 チギリは力無く笑う。僕達は最大に警戒して構え直す。



 するとチギリは杖を放って両手を上げ飄々と言い放った。


「参った参った! ……降参だよ」


「――――」


 呆然とする僕達を知り目にチギリ師匠は、すとんとその場に腰を下ろした。僕達は師匠の言葉の意味を理解出来なかった。


 だが、徐々にその言葉の意味が実感と共にやってくる。

 

 チギリ師匠はいつもの無表情とは裏腹な、穏やかで確かな笑顔で言った。

「――君達は我に勝利した。……合格だよ」

「――――――」


 僕達は押し寄せる感情に膝をつき、仲間達と肩を抱き合って声を上げて泣いた。まるで子供のようにみっともなく泣いた。

 その三人の泣き声が、この平原を模した部屋をしばしの間響き渡っていた。


 チギリ師匠はそんな僕達を、少し困ったような表情をしながら温かい眼差しで見守っていたのだった。


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