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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.75 それぞれの朝

 僕がサヤと真剣での模擬戦をしてから、4度の朝を迎えた。

 鳥の鳴き声以外に音のない静かな場所で、僕は精神を統一して日課の素振りをしていた。


 今日はチギリ師匠との模擬戦だ。僕達の力がチギリ師匠にどこまで通じるようになったのかを試す、貴重な機会だ。

 そして、チギリ師匠のお墨付きをもらえたら、僕達はこの、随分長くお世話になった花の都ボリージャを発ち、本来の目的である、勇者の伝承や解放の神剣の力の復活方法を調べる。


 僕達が目星を付けたのは、あらゆる知識を保管しているという書庫がある国、西大陸の大国、サリア神聖王国へ行き、その首都の聖都マリスハイムを目指す。


 きっと今度は、ヘッケルの村からボリージャまで移動する旅とは比べ物にならない距離を移動することになるだろう。そしてその間に魔王の遣いとの戦闘も十分有り得る。


 そんな強力な存在に、僕達は力を合わせて立ち向かわなければならない。その為にこの4日間は依頼も受けずにひたすらに特訓した。


 旅の活動費についても、依頼の報酬や倒した魔物の素材を売ることで、多くはないがひとまずはやって行けるくらいには貯まった。


 ……ここを発つ瞬間は間近に迫っている予感がする。


 そう思うと、少し寂しいな。知り合った人はたくさんいて、みんな親切でいい人達だ。まだここに居たい気持ちが無いと言ったら嘘になる。


 それでも、僕達は旅を続けなければならない。これからきっと沢山の出会いと別れを繰り返していくんだろう。

 またここに訪れる事もあるだろう。その時また再会できると信じている。


 世界は広い。僕はそれを痛感している。

 僕にとっての大冒険は、この世界にとってはほんの一部の地域で起きた出来事の一つでしかないのだ。


 そんな広い世界を取り戻そうというのだから、もっと広い視野で世界を見ないといけないんだろう。



 ……ふぅ。

 よし。素振りはこんなところでいいかな。

 次は走り込みだ!





 ついにこの日がやってきた。

 私は借りた宿の部屋で、寝台の上に足を組んで座り、目を閉じて瞑想していた。

 相部屋の相手のウィニの寝息が聞こえるだけの静かな部屋で、精神を研ぎ澄ませる。


 チギリ師匠に師事してから、私達は以前とは比較にならないくらいに力をつける事ができた。


 私の問題点であった魔力総量の少なさも、ひとまず及第点までは伸ばす事ができた。後は余裕がある時に継続して続けていくつもり。


 攻撃魔術に加え、回復魔術も使える種類が増え、これからの旅に役に立つ筈だ。

 

 先日のクサビとの模擬戦で、今のクサビなら前衛を任せられると思うから、私はそんなクサビを援護したり、後衛のウィニを護衛したりと、サポートを重視して立ち回ることにした。


 今日はチギリ師匠との手合わせの日。強くなるためにひたむきに訓練してきた。それを早く試したいわね。


 そこでチギリ師匠に認めてもらえたら、おそらくこの街を旅立つことになる。

 冒険者ランクをCにしてからという、悠長な事は言ってられないし、ランクアップには早くても一月はかかるんじゃないかしら。

 

 クサビの使命を果たす為にも今は情報を求めないと。

 次の目的地は、サリア神聖王国の聖都マリスハイム。

 聖なる水の都と呼ばれる西大陸最大の都市で、水路を交通手段にしたのが特徴で、白い城壁に囲まれた美しい街だそうだ。


 そこにたどり着くにはかなりの日数がかかるはず。

 ここを出たらまずは西へ進んで、砂漠に建つ小国、グラド自治領が目標だ。


 きっと厳しい旅になるでしょう。

 でも、私がクサビを支えてみせるわ!


「――むにゃむにゃ……。…………おなかすいた……」


 ウィニの声がする。お腹を空かせているみたいね。

 もうそんな時間なのね。ウィニの腹時計は正確だから……


 私は目を開いて、まだ寝ぼけているウィニを起こしに行った。





「ウィニ、おはよう! ご飯食べにいかない?」

「行く」


 ごはん。

 その言葉でわたしの目がシャキっとして頭がハッキリしてくる。

 おはようわたし。今日は師匠と模擬戦の日。

 わたしの力を見せつける大事な日!


 でもそれよりもまずは朝ごはん! 一日の始まりは朝ごはんからなのだ。


「さぁや、おはよ」

「うん、おはよう。ほら、顔洗ったらご飯食べにいきましょ」

 さぁやはそう言ってわたしにニコッてした。


「ふっ。さぁや甘い。わたしは顔を洗わなくてもちょうぜつかわいい」

 さぁやの顔が口元はニコってしながら目がイラッてしてる。


「はいはい、いいから顔洗ってきなさい」

「うー」


 早くごはん食べに行きたいのにー。さぁやの前ではあんまりぐうたらできないのだ。

 

 あ、ひらめいた。これは天才の発想!


「えいっ」

「ちょっと何してるの!」


 わたしは手を顔の上に掲げ、魔力を集める。

 時間短縮の為に、魔術を使って頭一個分の大きさの水を作り出して、そのまま顔にばしゃーってした。


 本当は顔に水付けるのやだけど、ごはんのため。

 よし! 顔洗った! ごはんごはん――


「――こらあ! 床も寝巻きもびちゃびちゃよ!? もー! 何やってるのー!」

「あれ? もしかしてわたし、またやっちゃった?」


「…………」

 ――――ビシッ

「んにゃ!?」

 おでこを指で弾かれた…。いたい。


 さぁやが怒りながら布で床を拭いている。なんだかさぁや、お母さんみたい。とおでこを擦りながら思う。


「さぁや」

「ん? なに? ……ってウィニもその濡れた寝巻きを早く脱ぎなさいっ」

「さぁや、きっといいお母さんになる!」


 さぁやを褒めて機嫌を直してもらおう作戦だ。ここを切り抜けてごはんを早く食べたいな。


 でも、褒めたのにさぁやの表情から感情がなくなっていく。妙に背中が寒く感じる。ぞわぞわって。


 

「……ウィニ。お尻ぺんべんかごはん抜き、どちらか選びなさい」

「ひっ」


 怒ってる! さぁやすごく怒ってる! 予想外!

 もっと褒めなきゃいけなかったかもしれない。

 それより、ご飯抜きは地獄の言葉! それは何としても阻止する……!


 

「………………」

 わたしはおずおずとさぁやにおしりを差し出した。



 

 数分後、わたしはおしりがヒリヒリするのを我慢しながら朝ごはんを頬張った。


「さぁや、ふざけてごめんなさい」

 耳が垂れる思いで自分の過ちを伝える。次は濡れないように水を少なめに出すね。


 そんなわたしの様子にさぁやは肩肘をついてため息を一つ付くと、少し表情が和らいで言った。

「まったくよ。しっかりしてちょうだい。今日は頼りにしてるんだからね? 」


 ……さぁやはわたしを頼りにしてくれてる!

 そう思うと嬉しくなってやる気がむくむく湧いてきた。

 そして自信が湧き上がるのを感じながらいつものクセでポーズ。


「ん! 今日はししょおに、あっと言わせる!」

「ええ! その意気よ!」

 さぁやがニッコリ笑った。


 その途端、わたしの心もぽかぽかになって、朝ごはんがもっと美味しく感じて幸せな気分になるのだった。


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