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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
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Ep.68 強大な相手

 突如遭遇したマンドレイクに対峙する僕達は、撤退する隙を窺っていた。


 マンドレイクは今の僕達には荷が重い相手だ。

 どうしてこんな所にいるのか、そんな事を考えている余裕はない。

 今はサヤとウィニを逃がす事に専念しなければ誰かが死ぬ事になり兼ねない!

 

 そんなことは絶対にさせない! 苦心の様相を滲ませながら剣を握る手に力が入る。


「二人とも、隙を見て逃げるんだ。僕が引きつける……!」

「――ッ! ……バカなこと言わないで! アンタを置いていけるわけないでしょ!」

「みんなで逃げる!」


 ……二人の意思は固い。

 僕が囮になれば二人は逃がせる可能性があったけど、それは認められないか……。

 マンドレイクを退けながら全員で撤退するにはどうする……?



 思考を巡らせているうちに、マンドレイクが蔓で薙ぎ払ってきた!

 左から迫る蔓とは別に時間差で、他の蔓が同じ方向から来る。


 腕と足に強化魔術を巡らせて、剣を垂直に立て右手で剣の腹を抑えて初撃を防御した!

 その直後にニ撃目が同じ所を打ち付け、その衝撃に力負けしてしまい体制が崩れる。


「――ぐうぅ……!!」

 なんとか足を踏ん張って転倒を免れる。

 この強烈な衝撃は、一撃は耐えれるけど続けては受けきれない!

 回避しないと危険だ!


 続けてマンドレイクが右側から蔓を打ってくる。


 僕は強化魔術を駆使して崩れた体制から体を捻りながら回転して蔓を切断させた! そして着地直後を狙ってきた迫る別の蔓をやむなく防御してしまう。


 マンドレイクの蔓が僕の剣を打ち付け、勢いのまま僕の右腕と背中に棘を食い込ませ引き裂いた!


「がぁぁっ!!」

 勢いよく血が吹き出し、裂傷の激しい痛みと熱が右腕と背中を襲う!

 苦悶の表情でマンドレイクを睨みながら右腕がだらんと力無く垂れる。体が熱く血が止まらず、痛みが全体に伝わり手の震えが止まらない……!


「クサビ! 今――っ!」

 回復の為にサヤが駆け寄ろうとしてくるところに、マンドレイクが僕とサヤの間に蔓を打ち付けて接近を妨害してきた。

 

 憎しみと悔しさが入り交じるような様子のサヤは、咄嗟にバックステップで回避して、僕を気にしながらマンドレイクに意識を向けている。


 マンドレイクは僕の血の付いた蔓を舐めながらこちらをニヤリと表情を歪ませて不気味に笑った。


 

「――ふんっ!」

 そこにウィニが無詠唱で火球の牽制弾を数発連射した! 胴体や上半身に目掛けて火球が飛来していく。


 それをマンドレイクは血の付いた蔓を舐める事を止めることもせず、他の蔓で全て払い消してしまっていた。


 それどころか即座にウィニに反撃してくる!

 一本の蔓がウィニ目掛けて伸び、垂直に叩きつけようとしてきた。


 驚いた顔をしながら素早く後ろに飛び退きながら、無詠唱で風の刃の下級魔術のゲイルエッジを放って蔓を切り落として防いだ。


「ウィニ! アイツの左側の蔓の根元を今ので切り裂いて! 私は反対側を斬る!」

「ん! わかった」


 ウィニがゲイルエッジを連発させて鋭い風の刃をマンドレイクに放った!

 その間サヤは刀を鞘に収め、居合の構えをとる。


「駆ける風は刃と化して、剣風に乗せて敵を討て……! ……はぁっ!」

 サヤは勢いよく刀を抜き放ち、威力が増した大きな風の刃を放った。


 ウィニとサヤが放った風の刃は見事にマンドレイクの蔓の根元に直撃し、全ての蔓を切り裂く事に成功した!

 

 徐々に再生していく蔓。そのわすがな隙の間にサヤはクサビに駆け寄り回復魔術を行使した。


「……ありがとう、サヤ」

「まだ終わってないわ。じっとして」


 ――そこにマンドレイクが花の形の胴体を持ち上げて花の底の部分をこちらに向ける。底には茎のような筒状に穴が空いていた。


 僕はその穴を向けられた瞬間、全身に危険の警鐘が鳴る。

 それと同時に不気味な笑みのままのマンドレイクは筒状の穴からいくつもの棘を発射してきた! 僕達全員を狙ってくる!


「「「――ッ!?」」」


 僕は咄嗟にサヤを庇う。剣で急所を防御しながら大量に飛来する棘を一身に受ける……。

「ぐあああああっ!」

「ああああ……ッ!」

「い……たいっ…………!」


 

 棘の飛来が終わり、辺りは静けさに包まれた。

 めちゃくちゃに乱射された棘が地面におびただしく突き刺さっていた。




 


 ……大量の棘が飛んできて、わたしは咄嗟に木の影に隠れた。

 それでも無傷とはいかない。大したことはないけど、膝に棘が刺さって痛い……。

 思い切って棘を引き抜き投げ捨てる。痛みでズキズキする!

 さぁや、早く治して……


 と、わたしはさぁやとくさびんと方を見た。


 ――ぽたっ……ぽたっ…………――

 何かが滴る音がわたしの耳が捉えた。その音はちょうどわたしの視線の先にあって――



「――くさびんっ!!」


 血を滴らせながら荒い息をして、剣で自分を支えて何とか立っているくさびんの姿があった。

 

 くさびんはさぁやを守る為に棘を全身に受けていた。

 さぁやには、棘が掠めて付いた傷はあったけど大きな怪我はしていなかった。よかった……。


「――――――……っ」


 言葉も発する余力すら残っていないくさびんを、さぁやは目を見開き愕然として見ていた。


 ふらふらとして倒れそうになるくさびん……。


 ――っ! くさびんを前に倒させたら駄目!


 呆然として動けないでいるさぁやを知り目に、わたしは痛む足を引き摺ってふたりのところへたどり着き、まさに今倒れかけているくさびんを引っ張って後ろに倒した。


 ……これで棘は食い込まない…………。でもくさびんはすごく危ない状況に変わりない。


 マンドレイクは既に再生を終えた蔓をぐねぐねさせて、ケタケタと笑っている。わたしたちが苦しんでいるのを楽しんで見ているんだ! だからトドメを刺してこない……!


 くさびんは危険な状態。なんとかして逃げなきゃ……!

 わたしはさぁやをチラッと目を移す。

 完全に茫然自失なさぁや。わたし一人じゃふたりを助けられない!


「さぁや! しっかり! ……サヤ!!」

 わたしはさぁやに大声を張り上げる。

 わたしの声に辛うじて反応したさぁやが目の光を曇らせながらわたしに視線を移す。


「……ウィニ。クサビが……。クサビが…………」

「まだ死んでないっ さぁや! しっかりして!」

「いやだ! 死なないで……! あああああっ!!」


 さぁやの慟哭が響く。

 そして、はっとしたさぁやはくさびんに回復魔術を掛け始めた。

 魔力の流れが激しい……! 加減もないそのやり方じゃすぐに魔力が尽きてしまう!


「さぁや! ここじゃ危ない! 逃げるのが先!」

「早く治さなきゃいけないの! クサビが死んでしまう……!」


 錯乱したさぁやにわたしの言葉は届かない……。


 ……。


 わたしは意を決して、キッとマンドレイクの前に立ちはだかって睨みつけた。

 ここから動くことができないのなら、回復が終わるまでなんとか時間を稼ぐ!


 そんなわたしの様子にマンドレイクはケタケタ笑いをやめてじっと見てくる。

 両方の蔓が、わたしを狩ろうとするようにマンドレイクの周りに大きく広がってこちらを狙っている。

 歴然たる力の差のせいなのか、恐怖のせいか、目の前の邪悪な存在がとても大きく見えた。


 ――こわい……! 痛い、死にたくない…………!

 

 死の予感を前に、わたしの足はぷるぷると震え、全身が冷えるように寒く血の気が引いていくのを感じる。


 掲げる杖も震えが止まらず、しまいには涙まで零れてきた。それでも睨みつけるのだけはやめない!


 

 ――そしてマンドレイクの蔓がわたしに襲いかかってきた!


「わああっ!」

 咄嗟にわたしは両手に持った杖を掲げて光属性の防御魔術の障壁を展開し、わたしとくさびんの治療をするさぁやを包む。


 バシン、バシンと激しい蔓を打ち付ける衝突音がする度に衝撃に襲われる。少しでも力を抜けばみんな死んじゃう。

 必死にマンドレイクの蔓の乱打を障壁で耐える……。

 この先に作戦なんかない。耐えていれば事態が好転するようなものは用意してない……!


 でもこれしか無かった。少しでも長く生き残る方法があるとするならこれしか……!


「いやぁぁだぁぁ!」


 衝撃の一撃一撃がわたしに死を呼び起こさせる。

 死の未来に必死に抗いながら魔力を送り続けてひたすら耐え続けた。


 業を煮やしたマンドレイクは蔓の乱打に加えて、その巨体で体当たりしてきた!


 今までに比にならない衝撃で、障壁にヒビが入る……!

 魔力がごっそりと削られる感覚を覚えて、苦悶の表情を浮かべた。


 必死に修復を試みる。とめどなく訪れる苦痛に、もはやわたしの魔力もなくなりかけてきていた。


 ……もう立っていられない…………。痛いところがたくさんあってつらい……っ!


 ――ダメだダメだ! わたしがふたりを守るんだ!


 わたしは残り僅かな魔力の全てを障壁に送った!


 マンドレイクの激しい攻撃に晒されながら、魔力切れで朦朧とする中で、わたしはさぁやに目をやる。


「さぁ、や……。…………ごめん、ね――」



 ――マンドレイクの体当たりに耐えられなかった障壁は粉々に砕け、わたしは高く撥ね飛ばされた――


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