表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第4章 『花の都ボリージャ』
42/416

Ep.41 サヤが目指すもの

 お昼ご飯を3人で食べた。

 ウィニは匂いにつられてあっちにフラフラ、こっちにフラフラとなかなか決まらなかったが、最終的に大衆食堂に落ち着いた。ここは夜は酒場として営業しているらしい。情報を集めるとしたら酒場だと聞いたことがあるので、覚えておこう。



 僕らは一応パーティを組んでいる状態になるので、金銭管理はしっかり者のサヤにお願いすることになった。それぞれ個別でもお金は持つが、宿代とか、パーティで活動する際の活動費はサヤに任せた。パーティの金庫番だ。


 サヤがこれまで持っていた分から活動費にいくらか足してくれて、現在の活動費は銀貨3枚に銅貨5枚だ。

 今借りてる宿は一人当たり一泊銅貨3枚だ。それを3人だから一日銅貨9枚減っていく……。およそ銀貨1枚毎日減っていくと考えると危機感が急に芽生えてくる。


 余裕はないわね…とサヤも苦い顔をしている。

 明日はまず依頼をこなして宿代くらいは稼がないと。


 とりあえず、当面はお金を貯めていこうという話で落ち着いた。ウィニが小さく『ごはんいっぱいたべたい……』と言っていたような気がしたが……もうちょっと余裕が出てきたらにしよう……。



 ひとまず今日やるべきことは終わった。

 ここからは各々自由時間に充てた。


 僕はもう一度ギルドに行くつもりだ。今からでもできそうな依頼があったらこなして少しでも足しにしたいし、なんでも経験してみたいんだ。


 サヤも気になることがあるからと、ギルドに行くようだ。それならギルドまで一緒に行くことにした。


 ウィニはお昼ご飯を食べて眠くなったそうで、宿に戻ると言っていた。今日はのんびり過ごして明日に備えてもらおう。



 

 そんなわけで僕とサヤはウィニと別れ、冒険者ギルドに向かった。

 

 歩いている間に、サヤが気になっているものというのを聞いてみた。

「ギルドで何か気になることがあったの?」

「うん。訓練施設のようなものがあったの」


 サヤはいつもよりも真剣な眼差しで答えた。

 訓練施設があったんだね。それなら僕にも必要な場所かもしれない。


「訓練したいものがあるんだ?」

「……ええ。…………回復魔術をね」


 そういえばサヤは母さんから回復魔術を教わっていたんだった。火や水と違って、回復魔術……正しくは神聖魔術というらしいけど、イメージが難しくて、素質がないと使えないと聞いたことがある。

 

 サヤにはその素質が備わっていた。それを偶然、神聖魔術の使い手だった母さんが回復魔術を薦めたんだ。

 怪我を治せるのは非常に重宝されるから使えて損は無いと、サヤも回復魔術の習得に意欲を見せていた。

 

 しかしその矢先、村は魔王の襲撃で滅びる事になってしまい、回復魔術は完全には習得出来ていなかったのだ。


  

 サヤはぽつりと呟くように言葉を紡ぐ。その声色には悲哀が混じっていた。

「もっと回復魔術が使えたら死なせずに済んだ命があったから……」

「――……」


 再会した時から気になっていた。

 サヤが一人きりであることを。

 サヤには、小さい時から一緒に過ごした愛馬のハヤテがいた。サヤにとってハヤテは家族だったろう。


 村が滅びた日、サヤはハヤテに乗ってヤマトの街へ向かったはず。持っていた馬はハヤテだけだったから遠方へ移動する時は馬が必要だ。

 そのハヤテが今は居ない。

 


 ……ハヤテはどうしたの? とはとても聞けなかった。

 

 僕は己の無神経さを恥じて俯く。どんな言葉が相応しいのか分からなくて口を噤んだ。

 

 その時の僕はどんな顔をしていたのか、そんな僕の心を見透かすようにサヤは穏やかに微笑む。


「大丈夫よ。私は大丈夫。お父さんやあの子の分もちゃんと前を向いていけるから」


 サヤはもう自分の中で整理がついていたんだね。

 最愛の父と家族同然の愛馬を救えなかった事を受け止めて、今度は誰かを救えるように。

 

 それなら僕にできることは気を遣う事じゃない。

 

「……うん。そうだね。一緒に前を向いていこう」

 共にある事。それなら僕にもできるから。

 

 僕は穏やかな表情で頷きサヤの手を取る。するとすぐに握り返してくるサヤに、またすぐに手を離すのもなんだか違う気がして、ギルドの入口まで手を繋いだまま歩いた。

 互いに何も喋らなかったけど、それが心地よかった。




 程なくして冒険者ギルドに到着し、僕とサヤは名残惜しさを感じながら、どちらともなく握る手を離してギルドの扉を開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ